11.夢うつつ
ヒルドレードから帰ってきてから、周りがまたうるさくなった。二人の謎の出張が王都中の噂になっていたのだ。
おかげで、視線が以前以上に厳しい。殺気立っているといってもいいくらいだ。
ラウでののどかな神官生活が懐かしいと遠い目をするカサネであった。
そんな中、王と女王の即位と結婚15周年の記念祭が行われた。城での記念行事もあるが、城下でも出し物や催し物が行われる。先日の闘技大会では騎士団長が優勝し、なぜかカサネが優勝杯を渡した。カサネとスオウはこんなところでも引っ張りだこである。
今日は、見習いたちにも外出許可がでたのだが、引率としてカサネとスオウが駆り出された。開放されている城の中を見学し、珍しい出店に立ち寄る見習いたち。見習いたちに混ざって喜んでいるカサネにスオウは気が気ではない。
今も2,3人の女の子と一緒に、占いのテントに入っている。気をつけてみていると、やがて笑いながら出てきたので、スオウはほっとする。その後は、トラブルも無く、無事に神殿へと帰り着いた。
その夜。いつものようにクロスの元へ行こうとトウルはこっそり部屋を抜け出した。神殿の前まで行くと先客がいた。スオウである。トウルがびっくりしていると、気になることがあってと、女子寮に通じる扉を見張っている。
やがて、女子寮の扉が音も無く開いた。カサネが夜着のまま裸足でふらふらと歩いてくる。
「カサネ先生!?」
「しっ。」
スオウはトウルを黙らせると、カサネの後をついて行く。
明らかに様子のおかしいカサネにトウルは疑問をもった。
「スオウ先生、カサネ先生は…?」
「ええ、正気ではありませんね。操られているのかも。」
小声で話す二人に全く気付く様子の無いカサネは、神殿を出て、門へと向かっている。
カサネは門に着くと、ゆっくりかんぬきを開け、門を開く。門の外には、頭からマントをかぶった怪しげな女がいた。
「さあ、門から出るんだ。結界から出れば、怖いものは無い。」
女の言葉にスオウが動いた。
「待つんだ、カサネ!君のいるべき場所はどこ?」
スオウの声にカサネの動きが止まった。ゆっくりと、スオウを振り返る。
「わたし…私のいるべき場所は…。スオウ…?」
スオウに向けて右手をさし伸ばすと、がくっと崩れ落ちた。倒れると思った瞬間、カサネはスオウの腕の中にいた。
「そ、そんな馬鹿な。私の暗示が破られるなんて…!」
あわてる女をスオウがにらみつける。女の足元が破裂し、女は尻餅をついた。
「雇い主に伝えなさい。二度目は無いと。いいですね。」
女の近くでまた破裂がおこった。
「ひぃい…!」
女は、這うようにして逃げていった。
「トウル、門をしめてくれるかな?」
「はい。」
トウルは門を閉めてから、気を失ったカサネを抱いたスオウに追いついた。
「先生。あの女がカサネ先生に暗示をかけたんですか?」
「おそらく。神殿内は結界があって手が出せないから。どこぞの貴族があせって攫おうとしたって所かな。」
淡々と表情を変えずに述べるスオウが怒っているのは間違いないとトウルは思った。こんな怖いスオウ先生は初めてだ。周りの温度が下がった気がした。
神殿の門も閉め、カサネの部屋へと向かう。女子寮へ入っていいものか迷ったが、今のスオウに聞けるわけも無く、トウルはおとなしくついていった。
カサネの部屋へ入ると、スオウはカサネをベッドにおろした。カサネの足元を調べている。
「トウル、医務室へ消毒薬と傷薬を取りに行って。」
「はい。」
トウルは、急いで共用部の医務室へ取りに走った。薬を見つけると、戸締りをしてカサネの部屋へと戻る。
部屋へ入ると、スオウがカサネの足を洗っていた。
ベッドに横たわる意識の無いカサネの足をスオウが洗っている光景は、背筋がぞくっとするほど妖しく美しく、トウルは見てはいけないものを見てしまった気がした。
「トウル?」
「は、はい。薬です。」
あわてて薬を差し出す。
「ありがとう。君はもう休んで。今夜のことは、しばらく口外しないでほしい。」
「はい。わかりました。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
トウルが部屋を出て行くと、スオウはカサネの足の手当てをした。裸足で歩いていたため、足の裏が何ヶ所か切れていた。悪化しなければいいが。傷口が開かないように両足に包帯を巻く。
カサネに布団をかけ、椅子に腰をおろした。朝までついているつもりだ。
危ないところだった。違和感に気がついてよかった。こんなことは、二度とさせない。
誰がカサネを守っているのか、知らしめる必要があった。明日は忙しくなりそうだ。
スオウは朝までカサネを見つめ続けた。




