10.帰還
光の神殿の朝は早い。光の女神ヒルデを祭るこの神殿の祭壇は、大陸で一番初めに日が昇るため、日の出を拝みに来る参拝者がいるからだ。今日も一人の老人が日の出に感激していた。
彼は、大陸一早い朝日を堪能すると、きびすを返した。これから宿に帰って、朝食を取るのだ。足取りも軽く廊下を進んでいると、顔見知りの神官に出会った。
「おはようございます。お久しぶりですねぇ。」
「おはようございます。今日は何かあるんですか?神官の数がすくないですよね?」
老人の質問に神官は苦笑した。
「いえ、夕べ王都からの客人の歓迎会がありましてね。」
「ははぁ。なるほど。」
神官が指し示した扉からは、かすかに酒のにおいが漂っていた。老人はふと思いついたことを聞いてみた。
「客人とは、もしかして金髪の男性と濃い色の髪の女性ですか?子連れの。」
「ええ、そうですよ。ご存知ですか?」
「昨日馬車で一緒だったんですよ。」
老人はひょこひょこ扉の中に入っていき、目当ての人物をみつけた。
「ああ、これは…。」
神官たちの中に舞の衣装を着けた二人がいた。そこだけ空気が違う。
カサネのチョコレート色の髪が床に広がっている。スオウはカサネにすがるように抱きついていて、カサネがそれを優しくつつんでいた。
彼はおもむろに紙を取り出し、スケッチをはじめる。
「いやあ、昨日飲ませすぎましてねぇ。」
話しかけた神官は、彼がスケッチに夢中なのに気付くと、にっこり笑ってから仕事に戻っていった。
ややあって、気が済むまでスケッチをした彼が、満足げに立ち去っていったことに気付く者はいなかった。
「…おはようございます。」
スオウはひどい二日酔いで、王と女王の前に立った。ユーリが心配そうに見上げている。
「おはようございます。ユーリ王子、大丈夫ですよ、スオウは病気じゃないから。」
カサネがそういうとユーリは少し安心したのか笑顔を浮かべた。
「ひどい顔だな、スオウ。火酒をあれだけ飲めば仕方あるまい。」
「今日はゆっくり休みなさい。夕方迎えに来るから。」
王と女王はそう言うとユーリを連れて王都に帰っていった。
王と女王がいなくなると、スオウはカサネにもたれかかった。
「…二日酔いがこんなにつらいとは、思わなかった…。」
「もう!ほら、ニイナさんが部屋用意してくれたから、行くわよ。」
カサネがスオウを引きずっていく。他の神官たちも自室まで帰ったり、連れて行かれたりしている。今日の光の神殿は人数不足になるだろう。
言葉通り、王と女王は夕方迎えにやってきた。
スオウは午前中休み、午後は神殿の神官たちと交流を持った。カサネは女性神官たちと買い物とおしゃべりを楽しんだらいい。
「じゃあね、神官長。また何かあったら連絡するわ。」
女王が軽く告げる。
「神官長。大変お世話になりました。」
「いやぁ、楽しかったですよ。」
神妙な面持ちのスオウに神官長が笑う。
「奉納舞をありがとうございました。すばらしかったですよ。」
「ありがとうございます。」
神官長はカサネにも言葉をかける。
「いいかな。では、帰ろうか。」
王が女王の腰に手を回す。スオウもカサネを引き寄せた。
神官長以下神官全員が見守る中で、カサネとスオウは帰途についたのであった。




