6.その翌日
「うぅ~、きもちわるい~、あたまいたい~。」
さわやかな朝。カサネはただ今絶賛二日酔い中である。
「はい、お水と薬。少しは楽になるよ。食堂のおばさんにお粥つくってもらったから後で食べて。」
スオウに差し出された水を涙目になりながら飲むカサネであった。
「午前中の授業は、ライト先生に代わってもらったから、ゆっくり休むんだよ?」
かいがいしくカサネの世話をやいたスオウは、そう言い残して授業へと出て行った。
動く気力も体力もないカサネは、素直にスオウの言葉に従う。眼を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
どれくらい眠っていたのだろう。体調はだいぶ良くなっている。窓の外を見たところ、お昼近いようだ。
のそのそと身体を起こし、枕を背に当ててベッドに座る。手の届くところに、水差しが用意されていた。
「スオウって、気が利くわよね。」
水を飲みながら、はぁと満足する。
身体を起こしたまま、少しはっきりしてきた頭で考える。
え~と、夕べはシアさんたちと楽しく食事して、あ、お酒が美味しくて結構飲んじゃったんだっけ…。
あ~、やっちゃった~!
カイさんのお酒飲んじゃってから、乾杯の一口しか飲んでなかったのに~!!
で、デザート食べた記憶がないから、寝ちゃったんだよ~、きっと。
うわ、スオウが連れて帰ってくれたんだよね?うう~、シアさんにお礼と謝罪をしなきゃ。恥ずかしい。
頭を抱えて悶絶していると、ノックがあった。スオウだろうか。
「はい、どうぞ。」
入ってきたのは、スオウではなくリュウ神官であった。カサネは驚きながらも彼を迎えた。
「ああ、そのままで。体調はいかがですか?カサネ先生。」
「はい、だいぶ回復しました。午後からは、通常業務に戻ります。」
「それは、よかった。夕べは大分飲んでらしたから、心配していました。」
「リュ、リュウ神官!?夕べお会いしたんですか?」
「ええ、スオウ先生がお姫様のように抱きかかえて帰ってきたところに居合わせましてね。」
カサネの顔が真っ赤になった。
「そ、そ、それは、内密にお願いしますぅ!」
「はは、わかりました。いやぁ、若いとはいいですなぁ。」
ニコニコと笑うリュウ神官は、好々爺のようだ。飲み過ぎはいけませんよ、と言いながら帰っていった。
精神的にどっと疲れたカサネは、少し身体を動かすことにした。
ベッドをおり、窓辺にたたずむ。林の向こうに城が見える。穏やかないい天気だ。こうして、また王都に戻ってこようとは…。カサネは不思議なめぐり合わせに思いを馳せる。
ふわっと、肩に上着がかけられた。
「その格好じゃ風邪をひくよ。」
「スオウ。ありがとう。神官様はいつもこうやってくどいてたの?」
カサネは気恥ずかしさを隠すようにスオウを茶化した。
「まさか!初代神官は神殿を軌道に乗せるので精一杯さ。」
スオウもおどけて応える。
「それにしては、慣れてる気がするけど?」
「口うるさい妹に仕込まれたんだよ。カサネのほうこそ、いい人がいたんじゃないの?」
カサネはたちまちむくれた。
「一緒に出かけたり食事に行った人は何人かいたけど、神殿の仕事が急に入ったり、出張に行ったりして、それっきりよ。見合いの話もいいのがなかったし、20歳過ぎたら、話自体こなくなったわ。」
「きっと縁がなかったんだよ。」
「皆そういうのよね。いいの。私は一生神官として生きてくから!」
カサネは鼻息も荒く宣言した。スオウが苦笑する。
「それより、ノックしたけど、気がつかなかったんだね。まだ寝てるかと思った。」
「ああ、ちょっと考え事してたから。」
「聞いても?」
「うん、まさか、ここに戻ってくるなんて…。」
「そう?僕はいずれ呼び戻されると思ってたよ?僕たちは秘密を知りすぎている。王と女王も僕たちを眼の届くところに置いたほうが安心だろうから。」
カサネははっとスオウを見上げた。いつもの笑顔ではなかった。真剣な顔のスオウにカサネは息を呑んだ。
「…そうね。それだけの事を私たちは知っているのね。」
「そうだ。だから、君を守れるのは僕だけなんだよ。カサネ。」
「スオウ…!」
「それを忘れないで。」
そう言ったスオウはいつもの笑顔だった。
その夜。カサネになかなか眠りは訪れなかった。頭の中で昼間のスオウの言葉がぐるぐる回っている。
―君を守れるのは僕だけなんだよ―
あれは、事実を言っただけ。そうに決まってる。
午前中寝ていたことも相まって、カサネはなかなか寝付けなかったのであった。




