4. 旅のはじまり
カサネが旅についていくことが発表されてから10日後、一行は出発した。
この10日間は、忙しかった。
「そんな理由で選ばれたなんて…。しかも皆納得してるし…。ああ、普通の生活が…。」といじけていたカサネはササラに慰められていたところをアカネに連行された。
連れていかれた先は、城の謁見の間で、大勢の貴族たちの前で王と女王に挨拶させられた。
もう頭真っ白で、なんと答えのか全く覚えてない。
ミオとアカネの打ち合わせにも同席したし、もって行く資料の整理も手伝った。あまりの忙しさに、ミサキもちょっかいを出さないほどだ。
ササラに手伝ってもらいなんとか自分の荷物を詰め込み、眠ることができたのは、前日の真夜中だった。
王と女王をはじめ、お歴々にみおくられて、城の前から馬車に乗り込む。女王の名代であるミオがいるので、王族用のすばらしい馬車だ。各都市を結ぶ駅馬車とは違う。
カサネがふわふわのクッションを堪能していると、併走する馬に乗ったカイが声をかけてきた。今回護衛としてカイをはじめとする近衛騎士がついたのだ。どん底までおちこんでいたカサネのテンションが急浮上したのは言うまでもない。
「2時間ほど先の休憩所で昼食になります。その後、休憩を挟みながら、夕方には最初の街に着きます。何かあれば、声をかけてください。」
それだけ言うと、カイは先頭へと進んでしまう。
「相変わらず、ぶっきらぼうねぇ。」
そうこぼすミオに答えようとしたカサネは、アカネにさえぎられた。
「さて、馬車にいる時間がもったいなので、ここからカサネの授業にします。」
「え!?じゅ、授業するんですか?」
「あたりまえです。私はもちろんですが、ミオさんも高位の神官クラスの実力の持ち主。二人してみてあげるのですから、感謝しなさい。」
アカネの言葉にカサネは「はい」というしかなかった。
こうして、移動教室と化した馬車に乗ること3日間、一行は最初の大きな街フッセについた。ここから道は二つに分かれる。東に行くと光の神殿のあるヒルドレード、南に行くと大陸第二の都市ソレスに通ずる。
「うう~脳みそがこぼれ出そう…。」
カサネはふらつきながら馬車を降りた。横からミオが支えてくれる。
目の目には、立派な神殿。今回は神官の長たる月の女王の名代としての旅であるので、泊まるのは、基本神殿だ。神官の皆様はそれは丁重にもてなして下さる。カサネも実家の神殿で幾度ももてなしたことがあるが、今度からはもうちょっと一人にしてあげようと思うのだった。
夕食まで時間があるので、部屋で休めることになった。
「ふえぇぇ~。」
ベッドに倒れこむカサネを見ながら、ミオは茶を入れ始めた。
「はい、お茶。だいぶ疲れたみたいね。」
「ありがとうございます~。もう頭が限界~。」
「明日からはだいぶ楽になるわよ。道が悪くなるから、集中できないの。」
「いよいよ日の隠れ里への道に入るんですね!」
「ええ、明日の夜最後の集落に泊まって、その後は森の中で二晩野宿よ。」
「うわぁ、なんか楽しみ!」
やっと元気の出てきたカサネに、ミオは微笑んだ。
その日の夕食は、やっとなじんできた騎士たちと話に花が咲き、カサネもミオも楽しく過ごすことができた。アカネでさえ微笑んだくらいだ。
あこがれのカイとも話すことができて、カサネは気分のいいまま眠りについたのだった。