5.ゼント公爵家へ
次の休日、カサネとスオウは王都のゼント公爵邸に招かれていた。
カサネはこの前公爵夫人が送ってきた服を身にまとった。王都では、なかなか見ない、南部ソレス地方の伝統的な衣装だ。暖かい地方らしく上衣は薄い布を使ってある。本当は、下も薄布だったなぁと、ソレスに行った時のことを思い出す。
ふと思いついて、髪は下ろしてみた。いつもの髪型だときっちりしすぎて、服に合わない気がしたのだ。
それにしても、久しぶりのスカートは、足がすうすうして何とも心もとない。女としてこれでいいのか?と自問自答しつつ化粧品を手にとる。
いつもより、ちょっと濃い目のメイクにしてみた。柔らかな薄布の服、下ろした髪とあいまって、神官でなく妙齢の女性がそこにいた。
うん、これならスオウも褒めてくれる…と思ったところで、カサネは打ち消すように頭を振った。
きれいに化粧をしたのは、スオウのためじゃなくて、公爵家にお招きにあずかったから!と自分に言い聞かせて、カサネは部屋を後にした。
足早に待ち合わせ場所に急ぐ。そこにはすでにスオウが待っていた。物憂げに腕をくみ、柱に寄りかかっている。
「スオウ、お待たせ。ごめんね!」
「そんなに待ってないよ。」
微笑むスオウも、ソレス地方の服だ。風が通りやすいように、袖や襟がゆったりとしていた。
並んで歩く二人は注目の的だった。
王都に珍しいソレス地方の服でまず注目をあび、更に着ているのが琥珀の舞姫と陽光の神官だとわかると注目が増してゆく。
本人たちは、公爵家にどんな土産を持っていくかで話し込んでいるため、全くといっていいほど気付いていない。
しばらく歩くと、カサネが足を止めた。
「ね、ここ。《鏡の舞》の装飾品のお店よね?」
「ああ、そうだね。挨拶してく?またお世話になるし。」
「それもそうね。」
店主に挨拶するべく店に入っていく。
店主はすぐに二人に気がついた。
「おや、お久しぶりですな。」
「こんにちは。今度は教師としてお世話になります。」
「次は舞い手を連れてきますね。」
「はい、楽しみにしていますよ。」
にこやかな店主に送られて出てきたカサネとスオウを見て、婚約の噂は本当か!?と人々が騒いだのを二人が知ることはなかった。
結局、何でもあるから、お花にしましょう!ということになり、花束を持ってゼント公爵邸に到着した。
現在、ここの主人はシアとユキト夫妻である。カイの後、長兄が一時住んでいたのだが、公爵の後継としてソレスに戻ったため、シア達がやってきたのだ。
ユキトは公爵の娘婿として、城にも出仕していた。
「いらっしゃい!カサネさん、スオウさん。」
シアの歓迎に迎えられた。その後ろで、ユキトがにこやかに見守っている。
「シアさん、ユキトさん!今日はお招きにあずかりまして…。」
「まぁ、堅苦しい挨拶はなしよ。」
シアがカサネの腕を取り、応接間へといざなう。残されたユキトとスオウは、握手を交わしながら苦笑した。
4人がこうしてゆっくり話すのは、あの事件のとき以来だった。お互いに、8年間にあったことを話していたら、あっという間に夕食の時間となった。
再会を祝して、乾杯をする。カサネが勢いよく杯をあける。
「カサネ、お酒に強いほうじゃないんだから、飲み過ぎないように…。」
「大丈夫よ~。あの時と違ってもう大人なんだから!」
そう言って、スオウの注意を聞き流した。
カサネはとっても楽しく食事の時間を過ごした。料理はおいしいし、お酒も最高。シアやユキトと話が弾む。おやすみの挨拶に来た夫妻の娘と息が合い、また遊ぶ約束もした。少し陽気になっただけだったので、皆も大丈夫だと思っていたのだが。
スオウが気付いた時には、カサネはテーブルにつっぷしていた。
「…だから、言ったのに…。」
スオウがため息をつく。
「泊まっていったら?」
「ああ、明日の朝送らせよう。」
「いえ、着任早々朝帰りもなんですし。それに多分、明日は午前中起きれないですよ。カサネ、さあ、帰ろう。」
スオウが抱き上げると、カサネはもごもご言いながらスオウにしがみついた。
用意してもらった馬車に乗り込み、暇を告げる。シアとユキト夫妻はまたいらっしゃいと笑顔で送り出してくれた。
眼の届かないところで飲ませられないなと、腕の中のカサネを見た。スオウの服をつかんで幸せそうな顔で眠っている。
人の気も知らないで…。
スオウは、ふうと息を吐いた。




