3.王都の人々
侍女がいれたお茶を前に、カサネは戸惑っていた。
「どうぞ。」
「どうも。」
お茶を勧める目の前の女性をしげしげと見る。
王都一の豪商・エドゥー商会の若女将ミサキ、見習いで同期だったあのミサキである。
「ふふ、不思議よね。あなたと私がこうして普通にお茶してるなんて。」
「まぁ、あの当時は色々あったから。」
「主に私がカサネにからんでたんだけどね。悪かったわね、あの頃は。」
「あ、あら。いいのに、そんな。」
あわてるカサネをよそに、ミサキは優雅にお茶を口にした。
話は、昨日に遡る。午後の《鏡の舞》の授業が終わったところで、スオウと共に神殿受付の神官に呼ばれた。荷物が届いているので、取りに来てほしいという。
二人で神殿の受付に行き、手続きをしていると、あっという間に若い女性たちに囲まれた。女性たちの狙いはもちろんスオウで、必死にお近づきになろうとしている。スオウも相手にしてはいないのだが、女性たちは引き下がらない。スオウが助けを求めるようにカサネを見た。
意を決してスオウを連れ出そうとしたとき、助けが現れた。
「スオウ神官ですね。エドゥー商会の者です。神官学校の納入品についてお話がおありとか?」
「ええ!あちらで話しましょう。」
渡りに船と、スオウは彼女の話に乗った。二人分の荷物を手に、カサネと共にそそくさと神殿の奥へと女性を連れて行く。後ろから文句を言う女性たちの声が聞こえたが、気にしないことにした。
女性たちの声も聞こえなくなったところで、スオウは助けてくれた女性に礼を言った。
「助かりました。ありがとうございます。」
「あら、いいわよ。同期のよしみってことで。」
「え?」
スオウとカサネが顔を見合わせた。
「わからなかった?ミサキよ、ミサキ。」
「あ~!ミサキ!」
大声を出したカサネの口をスオウがあわてて手でふさいだ。
「カサネ、声が大きい!本当だ、久しぶりだね、ミサキ。」
「お久しぶり。あなたたち、相変わらずね。」
ミサキがころころと笑う。
「神官学校の納入品の話は本当よ。担当が代わったって言うから、挨拶しに来たの。」
「そうなんだ。」
「見せたいものもあるし、一度店に来てもらえるかしら?」
「わ、行ってみたい!」
「いいね。」
「明日はどう?」
「今くらいでよければ。」
「決まりね、明日お待ちしてるわ。」
ミサキはそう決めるとさっさと帰って行った。
「ミサキはすっかりお店の奥さんだね。」
「なんか、貫禄って感じよね。」
ここで、カサネが届いた荷物のことを思い出した。
「ごめん、ずっと持たせてた!」
あわてて手にとると結構な重量。
「ゼント公爵家からだ。…中身は服って書いてある。」
「公爵夫人…。」
カサネはがっくりと肩を落とした。これを着るのか。そして、感想を公爵夫人に送るのか。興味のある他の人に代わってもらいと切実に思った。
結局、公爵夫人からの服は次の休みに王都のゼント公爵家に招待されているので、その時着ていくことにし、今日は神官服でミサキの店を訪れたのだった。
来て早々、スオウはミサキの夫である主人と品物を見に行ってしまい、カサネとミサキのお茶会になった次第である。
「ミサキは、大神殿で神官してたよね?何でやめたの?」
「跡継ぎの兄が入り婿状態になっちゃってね、しかたなく私が婿とって継いだの。」
「そうか~、ミサキもお兄さんで苦労したんだね。」
「カサネのとこもそうだったわね。」
二人はひとしきり兄の愚痴でもりあがり、スオウと主人が戻ってきたときには、親友と呼べるまでになっていた。
またね~と、明るく店を後にしたカサネはご機嫌だった。スオウはそんなカサネを不思議そうに見ている。
「ずいぶん、仲良くなったね。」
「うん、共通することがあってね。」
カサネが兄の犠牲になる妹について論じていると、いきなり後ろから肩をつかまれた。
「きゃぁ!」
「うわっと、記者さん!?」
振り向かされた先には、ちょっとだけ年取った記者がいた。
「お久しぶり~!カサネちゃん、スオウ君!大人になったわね~。」
相変わらずオネエ言葉は健在だ。
「今ね、神殿にインタビュー申し込んでるの!また、その時じっくりお話聞かせてね!あ、奥さんと子供が待ってるから~!」
記者はそう言って風のように去っていった。
「いるんだ、奥さん…。」
「そうみたいだね。」
しばし呆然とする二人。
「カサネ。」
「ん?」
呼ばれてスオウを見上げた。スオウがふっと表情を和らげる。見慣れたカサネでもドキッとする笑顔だ。
「帰ろうか。」
「…うん!」
直に日が暮れる。家路を急ぐ人達の波に乗り、カサネとスオウも神殿へと帰っていくのであった。




