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25.見習いたちの日常

ある日のこと。


朝、起床して身支度をすると、神殿へと急ぐ。朝の祈りの時間だ。ここ、シエルレードの大神殿は、すべての神を祭っているが、主神は光の女神ヒルデだ。これは、王家に光の女神の血が流れている伝承からだとされている。

事実だって事は、誰にも言えない、とカサネは心の中でつぶやく。ということは…。カサネはすぐ側のスオウをチラッと見た。光の末裔か…。神官長が朝の祈りの始まりを告げる。カサネは考えるを止め、祈りに集中した。


祈りの時間が終わると、朝食である。見習いは1学年約20名で、全体で約40名。それに神殿勤務の神官約50名、そのほか神殿と契約している職人が約30人で、約120名の食事は、一つの食堂で供される。

面白いもので、いつの間にか、座る席は決まってくる。カサネたち4人は入口からちょっと入った窓側だ。すぐ後ろはカルラはじめ神官達で、なぜかそこにカサネの兄セナも座っていた。

「おい、カサネ。母さんがお前から手紙が来ないって言ってきてるぞ。」

「あ、一昨日だしたよ~。」

などと、兄妹は食堂でコミュニケーションをとっていた。最近では、セナと話すスオウの姿もよく見かけられる。ササラも時々本の事を質問していた。食堂は神殿で暮らす者の交流の場であった。


食事の後、部屋に戻って授業の用意をして、教室へと向かう。扉を抜けて、共用部へと入る。神官・見習いを含めて、男女別の棟になっていて、神殿の一部である教室や食堂、浴室といった共用部でつながっていた。

今日は神学の授業だった。担当はライトだ。隣の教室ではカルラが儀式作法を下級生に教えている。奉納舞の授業は、担当の授業が無い方が交代で教えていた。

カサネはこの神学が一番苦手だった。神官になるなんてこれっぽっちも思っていなかったので、生活に密接する儀式作法はともかく神学は完全にスルーして生きてきたのだ。わからないことをササラに聞いて、ようやく中くらいの成績なのだ。ミサキの当てこすりも全くの的はずれというわけでもなかった。

ミサキにしてみれば、主席入学のササラと同室になるのは大陸一の豪商の娘でしかも一般家庭で神官になるために大変な努力をしてきた自分だと思っていたのに、ふたを開けてみれば急遽神官になることになった娘だったことは、どうにも納得できないのであった。

「…このように、光の中にも日の光と月の光がある。では、カサネ。日の光と月の光の違いは?」

「は、はい、日の光は父性と攻撃性を表し、月の光は母性と癒しを表します。」

「よりしい。では、次にこの二つの光の属性について…。」

無事に答えられてほっと息をつく。ここ一年で光と闇についてすっかり詳しくなってしまった。前方のミサキが悔しそうにしているのが目にはいる。ああ、平穏な生活が送りたい、と思いつつ、残りの授業を受けた。


午前中いっぱい授業を受け、昼食の後は、実技だ。当番で神殿、図書館、食堂の手伝いをする。下級生は本当に手伝いだが、上級生ともなると、かなり任されるようになる。ササラは神官と同じ仕事をしているようだった。

カサネとスオウは、《鏡の舞》の授業があるので、皆と別れて練習場へと向かった。

と、途中でセナに呼び止められる。横には一度あったら忘れられないあの・・人がいた。

「お久しぶり~、今日は舞を見せてもらうわ~!」

「というわけだ。行こうか。」

今日もテンション高めの新聞記者。黙っていれば好青年なのに、実に残念だとカサネは心の中でつぶやいた。

セナと記者が見ているのを除けば、いつもの授業だった。一通りの振り付けは終わり、今は細かいところを修正していた。

「どうですか、お兄さんとしては?」

セナは記者の質問に苦笑した。

「家にいた頃より上達してますね。先生がいいですから。」

「いえ、私たちでなく、スオウでしょう。」

カルラの言葉に二人は振り返った。

「あの二人は互いに高めあっています。すばらしい組み合わせです。」

「…そう、ですね。」

セナは一瞬目を細めた後、うなずいた。記者は今の言葉をメモに書いている。

舞の練習の後、記者の質問攻めにあい、「今度は私服でね~」と去っていく記者を見送ると、もうすぐ夕食という時間だった。


「う~、疲れた。主に精神的に。」

食堂のテーブルに着くなり、突っ伏したカサネをササラがなぐさめる。

「大変だったわね。でも、まぁ、毎日じゃないから。」

「毎日だったら耐えられない~。」

「そうだね、今日は早く寝たほうがいいよ。」

「…そうする。」

カサネはチラッとスオウを見て、そう答えた。


そして、その夜。宣言どおり、カサネは早々にベッドにもぐりこんだ。本を読み終わったササラがベッドに入り、消灯する。やがて、廊下の明かりも消え、カルラの見回りが終わり、ササラの寝息だけが聞こえるようになった頃、カサネは動き出した。

上着をはおり、ササラが管理している予備の鍵束を拝借し、そっと部屋をでて、共用部の扉を開けて中へと入る。仄かな光をみつけ、足音を立てないように、急ぎ足で近づいていった。

「お待たせ、スオウ。」

「いこうか。」

二人は、周囲を気にしながら神殿へ入り、祭殿の裏からクロスの元へと向かった。


「そうか、カルラ神の精霊じゃったか。」

「うん、でも、人として生きるって。ライト先生と一緒に。」

「人としての寿命の頃に天界に戻るそうです。」

クロスが、懐かしいものを見るようにカサネとスオウを見つめた。

「?」

カサネが不思議そうに首をかしげると、クロスがふっと息を吐いた。

「嬢ちゃんの琥珀の瞳を見るとのぉ、タチバナートを思い出すんじゃ。」

「え?あの、琥珀の精霊の?」

「そうじゃ。金髪のぼんと並んどると、オグナとおるようじゃよ。」

「始祖王オグナですか…。」

「懐かしいのぉ。わしもまだ若かった。」

クロスが自分の世界に入りそうな気配に、スオウは切り上げることにした。下手をすれば、夜が明けてしまう。クロスの昔話は、長いのだった。

「カサネ、そろそろ帰ろう。明日は女王様のお茶会だよ?」

「あああぁ、そうだったぁ。ちゃんと寝ておかなきゃ。じゃ、また来るね、クロス!」

「じゃぁ、また!」

「またの~。」

いつものように、送り出されるカサネとスオウであった。



次の日の夕食時にも、カサネがぐったりしていたのは、また別のお話。



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