24.舞い降りたのは
カサネは、スオウの腕の中ですがるように抱きついていた。涙が止まらない。周りの景色がすごいスピードで過ぎていく。スオウが力を使っているのだろう。この馬の速さは普通じゃない。
何でもいい。早く着かなきゃ。誰でもいいから、先生たちを助けて…。そう思ったらスオウの背にまわした手に力が入った。その瞬間またスピードが増した気がした。
街中を風のように駆け抜け、城へと駆け込む。馬から下りるのももどかしく、「王にお目通りを!」と叫んだ。
いつもは穏やかな王のいとこの尋常でない様子に、騎士たちも止めなかった。泣きはらした赤い目のカサネをかかえながら、顔をこわばらせたスオウは謁見の間へと駆けていく。
謁見の間の手前で、様子を見に来たカイが出迎えた。
「どうした?」
「ヴァン様にお目通りを…!」
「せ、先生たちを助けて!!」
二人の切羽詰った様子に、カイはすぐさま謁見の間へと通した。
挨拶もそこそこに、スオウは王と女王に事情を話した。カサネはスオウに縋り付いて必死に涙をこらえてる。王は聞くなり指示を出し始めた。
「カイ、馬車を用意して、森に入れるところまで来てくれ。医者もだ。ミオは神殿に連絡だ。スオウ、場所はどこだ?馬では時間がかかりすぎる。跳ぶぞ。」
「一緒に行かせてください。」
「わ、わたしも…。」
王は二人をしばし見つめた後、承諾した。
「我も共にいこうぞ。」
エルトゥーリア女王がゆるりと椅子から立ち上がった。いつもと違うその雰囲気に、人々はとまどった。王が女王の前に進み跪く。
「わが妻に依りし神よ。どうか、御名をお教えください。」
月王は、神の依り代となる血筋。いま、エルトゥーリアには神がおりているのだ。
「我が名はカルラ。鳥の王たる神。わが精霊が地上に迷い込んでしまったが、ようやっと見つけ出した。おぬし等の探すものと一緒に居る。」
「では、こちらへ。」
ヴァナートが差し出す手をエルトゥーリアがとる。カサネととスオウも招きよせ4人そろったところで、先に行く、と姿を消した。
残されたカイとミオは、王の指示を実行するため、急いで動き始めた。
4人が現れたのは、森の中、ちょうどあの崖が見えるところだった。崖の下へと駆け寄る4人を迎えたのは、ライトを抱きしめるカルラだった。愛しげにライトを見つめるその背には、白銀に輝く一対の翼。二人を守るように様々な鳥が囲んでいる。
「カルラ先生…。」
立ちすくむカサネの横をエルトゥーリアが進み、片手を振ると鳥は一羽残さず飛び立った。
「ひさしぶりだな、小さき鳥よ。迎えに来た。」
「カルラ神様…。」
カルラが揺れる瞳でエルトゥーリアとライトを交互に見る。
「カルラ、君は君だ。人も精霊も関係ない。」
ライトがカルラの顔を手で包み込み、微笑んだ。カルラはうれしそうに柔らかに微笑んだ後、一瞬目を閉じた。
次に顔を上げカルラ神を見上げた時、その瞳に迷いはなかった。
「カルラ神様、いましばらく地上に残ること、お許しください。あと50年ほどで人としての一生は終わります。それまで、どうか…!」
「この男のためか?」
「はい。」
カルラは臆することなく主たる神を見つめ返した。
「…人として生きるか。人の男よ、我の小さな小鳥を一時預ける。お前が死んだら返してもらうぞ。」
カルラ神がライトを見て、にやっと笑う。手を振るとカルラの翼が消えた。
「はい、それまで、大事にお預かりします!」
ライトとカルラは明るい笑顔で答えた。
「天界で待っている。それまで、しあわせにな…。」
そう言うと、エルトゥーリアは一瞬よろめいた。
「帰られたわ…。」
少し疲れたようなエルトゥーリアがヴァナートに支えられる。
「トゥーリア様…。」
「ライトも言ってたでしょう?カルラはカルラよ。何も変わらないわ。」
「今まで通りだ。」
「ありがとうございます。」
涙で何も言えないカルラに代わってライトが答えた。
「カルラ先生、これ…。」
カサネがハンカチを差し出した。
「明日から、また授業よろしくお願いしますね。」
スオウもいつものように笑いかける。
「ええ!」
カルラは輝くような笑顔を見せた。
地上に舞い降りた精霊は、翼を捨て人となった…。




