23.陰陽の一対2
カルラは10日休んだ後、復帰した。更に10日たった頃には、すっかり元の体調に戻っていた。
ライトは可能な限りカルラの側にいた。夜も同じ部屋だ。今のカルラを一人にはできない。
一時は、無理かと思われたが、カイとミオの結婚式で《鏡の舞》を舞うことができた。数少ない友人であるミオのために舞うことができてカルラは心から喜んだ。
カイとミオの結婚式から数日後、ライトとカルラは、《鏡の舞》の練習を、神殿の外で行うことにした。このところ、カサネとスオウの舞はうまく合わないのだ。
「馬に乗っていくんですか?そんなに遠いんだ~。」
「あ、カサネはぼくと一緒に乗ります。」
スオウがさっさと申告して、カサネを先に乗せ、その後ろにひらりとまたがった。神官服は男女とも長衣の下にズボンなので、馬に乗るのも問題ない。
「じゃぁ、着いて来てくれ。」
カルラを前に乗せたライトが馬を走らせた。
大神殿をでて、街中をゆっくり目に抜けた。馬上の陰陽の一対は非常に多くの視線を集める。そして、その視線はすぐ後ろのカサネとスオウにそのまま移るのだ。目立ちたくないのに~とおもっていたら、カサネは見たことのある人物を目が合った。
「あ。」
「なに?」
「記者さんと目が合った。また何か聞いてきそう…。」
「仕事熱心だからねぇ、あの人。」
カサネはちらっとスオウを振り返った後、諦めのため息をついた。
人々の視線を集めながら王都を抜けると、馬は速度をあげた。
街道からはずれ、森の中へと入る。森は山へと続いていた。少し上ったところで、開けた場所に出た。先は崖になっていて、眼下には先程通ってきた森が見える。その先に見える小さな塔は、城のものだ。
馬から下りたカサネは、カルラと一緒に崖の近くまで寄って、森と城を眺めた。
「ずいぶん遠くまで来たんですね。」
「ええ、ここはトゥーリア様に教えてもらいました。ヴァナート様に城から救い出された時、ここで一夜を明かしたそうです。」
「ここで…。」
カサネは何も無い周りを見渡した。
「あまり端によると、あぶないよ。そろそろ練習を始めよう。」
馬をつないでいたライトとスオウに声をかけられ、彼らのもとに戻る。
「カサネ、スオウ。最近のあなたたちの不調は、相手と同じ動きをしようと気にしすぎているからです。」
カルラの言葉に、二人はうつむいた。《鏡の舞》は、その名のように、舞い手二人が鏡に映っているように舞うのだが、最近二人はその動きが微妙に合わないのだ。
「相手の動きに合わせるのではなく、心を合わせて一つになるんだ。もちろん、それには互いに信頼と絆が必要だが、この国の影の部分を知り共に困難を乗り越えてきた君たちなら、できるだろう?」
カサネとスオウは、はっと顔をあげ、ライトを見た。
「詳しいことは、私たちは知りませんよ。さあ、一度通して舞ってごらんなさい。」
カルラに促されて、カサネとスオウは立ち位置を決めた。手拍子にのせて、舞が始まる。
カサネは、ラウの神殿でスオウと一緒に舞った時のことを思い出した。あの時と同じだ。スオウの事は気にならない。スオウは大丈夫だから。私と同じものだから。私は鏡に映ったスオウ―。
舞は、一部の乱れも無く終わりを迎えた。
誰も、何も言わない。高揚感と充足感があたりに満ちていた。
やがて、ほうとカルラが息をついた。
「さすがですね。一回でここまで合わせるなんて。」
「本番が楽しみだな。」
陰陽の一対にほめられて、思わず頬がゆるむカサネとスオウ。
今日はもう帰ることにして、ライトとスオウが馬の用意をしに行ったその時、カルラの様子が変わった。
「カルラ先生、どうしたんですか?」
カサネに支えられたカルラは、青ざめ震えている。ライトとスオウがあわてて戻ってきた。
「こんな時に…!」
ライトの視線の先には、次々と舞い降りてくる鳥の姿があった。
あっという間に、4人は鳥に囲まれる。空にも、かなりの数が舞っている。馬が、尋常でない数の鳥におびえ始めた。ライトもスオウも必死でなだめるが、落ち着くわけが無い。
ついに、一羽の鳥がライトの馬をかすめた。パニックを起こした馬があばれ、ライトをかばったカルラが跳ね飛ばされる。
「カルラっ!」
咄嗟にカルラをつかんだライトは、踏みとどまろうとしたが間に合わず、二人とも崖から落ちていった。
「いやぁっ、カルラ先生!ライト先生!!」
カサネの絶叫が響き渡る。崩れ落ちそうになるのを青ざめたスオウが支えた。
「カサネ、しっかりして!王に助けを求めよう。ぼくたちだけじゃ何もできない…!」
スオウはカサネと二人馬に乗ると、これ以上は無いという速さで駆け出した。
あれだけいた鳥たちは、もう一羽もいなかった―。




