17.帰ったきた見習い
「はあぁ~、平和っていいわ~。」
神殿の当番も終わった午後、自室への帰路でカサネは思わず口に出した。夏の日暮れは遅く、まだ青空が見える。
アカネの助手として旅立ったのは初夏だった。当初1月の予定が、誘拐事件に巻き込まれ、2ヶ月に伸びてしまったのだ。
ソレスからの帰り道も、カイ、ミオ、スオウと4人でのんびり帰れるかと思いきや、婚約したての二人は青少年には目の毒、休憩時間はサボっていた勉強と散々だった。
おかげで、神官学校にもどっても、勉強の遅れはなかったが。
旅の最終日の夜、カイからスオウとカサネに話があった。
「お前たち二人は、王家の影の部分を知ってしまった。これから、王家と関わることも増えるだろう。そうなれば王家や公爵家、俺たちとつながりをもとうと、色々な奴が近づいてくる。城や街の中は俺が何とかするが、神殿の中はそうはいかない。スオウ、お前がカサネを守るんだ。」
「はい。カサネ、心配しないで。僕が守るから。」
スオウが不安げなカサネに微笑む。
違うのだ。守ってもらうことは心配していない。スオウを信頼している。カサネが心配なのは、周りの女の子たちの反応なのだ。平和な見習い生活を送りたいカサネにとっては大問題であった。
帰ったらスオウは男子寮長のハーンに押し付けようと思っていたが、気がついたら、スオウ、ハーン、ササラと4人組になっていた。
女の子たちの反応は一部を除いてなかった。(ミサキとかミサキとかミサキとか)
どうやら、男子寮長のハーンと学年代表のササラがお世話係りで、カサネはササラのおまけだと思われているようだ。もちろん、勘違いを正すようなことはしないし、言わない。誰だって騒ぎの元にはなりたくないものだ。
アカネもわかっているようで、何も言わないでいる。
スオウは学年を問わず(ついでに学内外を問わず)、お付き合いの申し込みをされているらしいが、神官になるための勉強に来ているのでとすべてお断りをしている。
万が一自分も言われたら、それを使わせてもらおうとカサネは考えている。
兄とスオウが、カサネに近づこうとする輩を排除していることに、カサネは気づいていないのであった。
「相変わらず、ササラと一緒なのね。カサネ。」
振り向きたくないが、無視するとまた面倒な人の声がする。ミサキだ。平和な気分が一気に無くなった気がするカサネ。
「何か用?」
「用があったから、声をかけたに決まってるでしょ!」
「で?」
「次回の試験のことよ!今回は私の勝ちにきまってるでしょ。2ヶ月も学校から遠ざかったあなたなんて、私の敵でもないわ!」
「あー、はいはい。」
「ちょっと、なによ。その気の抜けた返事は!」
「え~、じゃぁ、その勝負受けて立つわ。」
「そうこなくては!結果が楽しみだわ~!」
ミサキは甲高い笑い声と取り巻きを連れて去っていった。
「変わらないね、彼女。」
「カサネがいない時は、大人しかったんだけど…。」
カサネとササラは顔を見合わせた。
「帰ろうか。」
「うん。」
歩いていると、図書館からスオウとハーンが出てきた。彼らは図書室の当番らしい。
「当番、終わったの?」
カサネが声をかけると二人して頷く。
「見て、珍しい本見つけたんだ。」
ハーンがにこにこと古い本を手に掲げる。
「わぁ、ずいぶん古いねぇ。手書き。」
「本当、それに古語がまじっていて…。」
ササラは本を手にとると、興味深そうに調べ始めた。
「本の裏に、落ちてたんだよ。題名からして神殿の伝説みたいなんだけど、古語がね。」
スオウが困ったように肩をすくませる。
「スオウでも読めないの?」
カサネが不思議そうにスオウを見上げる。隠れ里では古語の本で勉強していたと聞いたのに。
「この人の字、読みにくいんだ。」
スオウは苦笑いだ。
「というわけで、ササラ。解読お願いできないかな?」
拝むように頼むハーンに、ササラは本をじっと見ている。
「…いいわ、やってみる。」
そういったササラの目は知的好奇心にキラキラと輝いていた。
できたら知らせるねと、別れようとした時、手紙の束を手にした見習いが駆け寄る。
「カサネ!あ、スオウもいた!!はい、手紙。じゃね!」
見習いは次の配達に急ぎ足で去っていった。
渡された自分宛の手紙をカサネはひっくり返した。
「お城からだ…。」
「僕のもだ。何だろう?」
封ろうにびびりながら、開封すると、カサネの手が止まった。ササラが固まったカサネをうかがう。カサネがゆっくり顔をあげるとスオウと目が合う。
「…女王様のお茶会の招待状だった。」
「同じく…。」
カサネの平和な日常は終わった。




