13.それぞれの想い
「感動の再会だな。」
シアの後ろにいる男が嘲笑う。カサネは息を呑んだ。シアを攫ったあの男だ。
「なぜカサネさんを…!」
シアが男をにらみつける。男はふっと笑った。
「われわれを追ってチョロチョロしていたのでね。あなたに対するいいカードになる。彼女を生かすも殺すも貴女次第だ。」
「なんて、ひどい…!?」
「ひどくて結構!貴女を我等に取り戻すためなら、何でも利用する。すべては一族の復讐・再興のため。」
シアと男がにらみ合う。
「シ、シアさん、こんな男の言うこと聞かなくていいから!すぐカイさん達が助けに来るから!」
カサネはシアを渡すものかと必死だ。
「カイか…。ゼントの次男だな。キエ様を8年間も幽閉しおって…!」
男の顔が憎しみにゆがんだ。
「幽閉ではありません。私は8年間とても幸せでした。ユキトさん、私がここに残れば、カイさんやおと…ゼント公爵家に何もしませんか?」
「キエ様を取り戻せるなら。」
「…カサネさんを皆のもとに帰してください。」
「シアさんっ、ダメっ!シアさんが犠牲になることないっ!」
シアはかすかに微笑みながら首を横に振った。
「いいの、カサネさん。私が原因で争いが起きてほしくないの。国中を巻き込んだ戦いになってしまうわ。それはいやなの。」
「シアさん…。」
この人は自分が何者か知ってるんだ。カサネは、それ以上何も言えなかった。
「お帰りなさいませ、キエ様。すべてはあなたの願う通りに。」
男、ユキトが跪き、シアの手を頭にいただいた。
カサネはユーリに連れられて、別の部屋に移された。
「今、お茶と食べ物用意してるから、休んでてよ。」
「ありがとう…。」
カサネは力なくソファーに腰掛けた。
失礼しますよと、ぽっちゃりした中年の女性がお茶と軽い食事を持ってきた。
「さぁ、食べて。ほんとにねぇ、こんな子まで巻き込んで…。復讐だ、再興だって言ってるけど、そんなのはほんの一部の者だけなんだよ。」
女性がため息をこぼす。
「あたしたちは、今のままで充分なんだけどねぇ。ユーリもそう想うだろ?」
「!あたしは、あたしは…。」
ユーリは力なく下を向いた。
「さ、これを持ってお行き。弁当だ、役に立つよ。」
カサネは包みを渡された。
「あたしたちはねぇ、キエ様とユキト様には幸せになってほしいんだよ。」
女はそうポツリとつぶやいた。
霧の中ユーリはカサネの手を引いて歩き、ある場所で立ち止まった。カサネが足元を見るとならされている。街道のようだ。
「ここで待ってて。しばらくしたら、お仲間が探しに来る筈だから。」
「うん。」
「じゃぁね、おねーさん。」
そう言ってユーリは霧の中に消えた。
もらった弁当を抱きしめて待つこと、十数分。蹄の音が聞こえてきた。
「カサネ~!」
スオウの声だ。
「ス、スオウ!ここ~。」
急に風が吹いて、あたりの霧が吹き飛ばされた。スオウが馬から飛び降りて、カサネに駆け寄り、両肩をつかむ。
「ケガは?」
「だ、大丈夫。」
「ああ、よかった…。」
スオウは大きな息を吐き、頭をカサネの肩に預けた。
「カサネ!」
ミオとカイも合流した。
「つ、つかまって、宵の一族、の、館に連れて行かれたら、シアさんがいて。私を助けるために、シアさんは残る、ことになって。シアさん、自分が原因で、争いを、起こしたく、ないって。」
状況を説明するカサネは、泣きそうになるのを必死にこらえている。もらった弁当をぎゅっと抱きしめている。
「カサネ、何もってるの?」
「え?あ、お弁当です。役に立つよっておばさんにもらって…。」
包みを開けると、弁当のほかに紙と時計のようなものが入っていた。
「これは…!地図と方位磁石だ。」
「これがあれば、宵の館までいけるぞ。」
「役に立つって…。おばさん、復讐や再興を望んでるのは一部の人だけだって…。」
「止めてほしいってことね。」
「キエ…シアさんとあの男ユキトには幸せになってほしいって。」
カサネがぽつりと言う。
「ああ、義姉上には幸せになってもらわねば。さぁ、いこう。」
一行は、霧を風で飛ばしながら、迷うことなく宵の館へと歩を進めていく。




