第一話 メイドってイイよね
よ、読むんですか?止めた方が…
「グー…スカー…ぴー」
自室のベッドにて惰眠を貪っている青年。彼こそが本作の主人公、レオン・アッシュランドである。歳は二十代中頃。身長は約180cm。痩せ型ではあるが均整の取れた筋肉をしていて決して貧弱ではない。
容姿も悪くは無く、整った目鼻は女性なら少なからず好感を持つ者も居るだろう。
彼の従者曰わく『本気のご主人様を見れば美の神リザナース様でも惚れます』だそうだ。
この表現には身内の欲目が多分に含まれているだろうが、まあ…顔立ちはそう悪くは無い。
しかし現在は寝間着姿で、だらしない寝顔のまま毛布にしがみ付いている。
そんな我らが主人公、レオンの部屋へ音もなく忍び込む影があった。
「ご主人様、起きてください。」
レオンに掛けた声は若い女性のものだった。恭しい態度で彼へと近付き、寝ているレオンの身体を揺する。
「…うぅん…」
「起きられましたか?」
「…zz…」
残念ながら呻くだけで起きる気配は無かった。メイド服姿の女性は嘆息しつつ、再度主の身体を揺さぶる。
「ご主人様…朝です。今日はギルドへ行くお約束でしょう?」
「…うぅ…ん…リディ…zzz…」
「……」
レオンの寝言に揺らす手が止まる。メイドは自分の名前を呟かれ無表情だった顔を僅かに緩めた。
「…夢の中でまで想われるのは光栄ですが…朝ですよ。そろそろ起きて下さい。」
「…今度は俺が上になるよ…ふひひ…」
ピキッ
レオンの寝言を聞いたリディの額に筋が浮かぶ。美しい女性には不似合いな青筋。直後、メイドは宙を舞った。
「起きて下さい!」
「へぶぅ~~~~!」
空中へ投げ出した身体は当然、重力に引き寄せられ落下。着地点はレオンの腹部だった。それも着陸は肘からだ。
レオンは珍妙は叫び声を上げながら身体をくの字に折り曲げた。
過激な起床後、朝食を済ませ二人の主従は自宅を出た。
予定通りギルドへと向かう(向かわされた)レオン。
半ば強制的に起こされた筈だが、彼の表情は満ち足りていた。逆にリディは呆れ顔だ。
「ハァ~!爽やかな朝だな!」
「それは良かったですね。」
「何だか怒ってないか?」
「怒っては居ませんが、呆れてはいます。朝から三度もお出しになるのですから。」
口元にそっと手を当てるリディ。
彼女が呆れている原因はフライングエルボーを放った後にある。
無事にレオンを起こす事には成功したものの、次は朝の生理現象に悩まされた。
このままでは外に出られないとだだをコネる主人に、口を使っての奉仕でやる気を喚起させたのだった。
「ここまでしたのですから、今日はしっかりと働いて頂きますよ。」
「分かってるって。昨日もちゃんと約束したろ。」
実は今回レオンを働かせる為にリディは身体を使って約束を取り付けた。それも前払いでだ。
レオンに身も心も捧げているので、実際は求められれば応じるつもりだが、やる気のない彼の原動力になるので黙っている。
「出来れば簡単な仕事が良いな~。」
面倒くさがりらしい口振りでギルドへと入っていくレオン。その後ろをリディが追従する。
ギルドに入ると、レオンを目にした職員が大仰な声で彼を迎えた。
「おおっ!レオンじゃねぇか!珍しい。こりゃ明日は槍が振るな。」
「よお、ラルゴ。」
カウンター越に声を掛けた職員は、顎髭を蓄えた中年の偉丈夫。ギルドの長であるラルゴだ。彼は元冒険者で現役時代から自慢の腕っ節で鳴らしてきた。バリバリの叩き上げである。
「レナちゃんは居ないのか?今度食事でも誘おうと思ったんだけど。」
「馬鹿言え!お前に何ぞに妹を任せたら一瞬で貞操が吹き飛んじまうわ!」
ガハハとレオンの軽口を豪快に笑い飛ばすラルゴ。
ちなみに話に出たレナとは、ラルゴの腹違いの妹だ。たまにこのギルドで受け付けをしている所謂看板娘である。
「お久しぶりですラルゴさん。」
「ん?おぉ…リディかい。お前さん、まだレオンと居たのか。とっくに愛想尽かして出て行ったと思ってたぜ。」
リディを見て、ラルゴは意外そうに眉を釣り上げる。
「そんな事は有りません。ご主人様は凄い方ですから。」
「この風来坊が凄いねぇ…」
リディの言い分にラルゴは自慢の髭を撫で梳きながら応える。あまり納得出来ていない様子だ。
ギルドでは、いや、冒険者の中ではレオンの評価はそれほど高くない。ランクもDと一人前ではあるが食うには困らない程度だ。
「それより何かオススメの依頼は無いか?スパッとやってササッと帰れるやつ。」
「相変わらずだな。今はそこに乗ってるやつしかねぇぞ。」
レオンが依頼の張り出されている掲示板を眺める。
「鉱石集めかぁ…山登りはダルいからパス。薬草の採取は…っと…」
「これに致します。」
「って…おーい!」
一足先に依頼書を提出するリディ。
請け負った仕事はカサルという隣街への手紙の輸送だった。
隣街とは言っても徒歩では二日は掛かる。ものの見事にレオンの希望とは真逆の内容だ。
「こいつか。手紙はカサルのギルドに渡せば良いぜ。それと報酬は向こうでも受け取れるからな。」
「お前も勝手に手続きするなよラルゴ!」
「まあ、良いじゃねぇか。それにお前、Dランクの癖にEランクの依頼しかやってねぇだろ?あんまり続くとこっちも評価を下げねぇとならねぇぞ。」
「うぐぐ…」
ちなみにレオンが選んでいた鉱石や薬草の採集はEランク向け。リディの請けた依頼がDランク向けだ。
「では行きましょうご主人様。一旦戻って旅の用意をしなければ。」
レオンの腕を掴み強引に引きずっていくリディ。
「ちくしょう…」
恨めしそうに睨むレオンとその従者をラルゴは苦笑しながら見送った。
ギルドから帰ってきたリディはテキパキと旅の用意を整える。
衣類や食料の調達に旅の必需品のなど、メイドとして腕の見せどころだ。
極めて優秀な彼女の活躍で、二人が街を出立したのはまだ昼前であった。
しかしカサルへの道中、レオンはふてくされていた。それは1日で片付くと思っていた仕事がリディのお陰で長期へと変わってしまったからだ。
それにもう一つ。
忙しくメイドとしての仕事を行うリディにレオンが絡み『ご主人様は剣でも磨いていて下さい』と…放置されたのだ。
いじけている様子のレオンに、リディはそっと寄り添う。
「…ご主人様、ギルドでは勝手に依頼を請けてしまい申し訳御座いません。どうかお許し下さい。」
「んー?…別にいいぞ。」
絶対良くない。そんな表情のレオンだったが、リディの言葉を聞いてたちまち機嫌を直す。
「…夜になりましたら存分にお仕置きして下さい…。ご主人様の鬱憤は全てこの身で受け止めさせて頂きます。」
リディは一介のメイドとは思えない妖艶さを醸し出しながら、レオンの耳元に吐息を吹きかけた。
「そこまで言うなら仕方無いな!行くぞリディ!」
「はい、ご主人様。」
先程までの緩慢な動きが嘘のように、しっかりとした足取りで歩き始めるレオンだった。
こんな作品読むと頭悪くなるよぉ?