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上弦   一、

 遠き(いにしえ)の頃より、鬼はひっそりとその身を隠すようにして生きてきた。人と鬼、種は違えど姿形はさほど(たが)わず、ただ異なるのは互いの有する時の長さであった。

 鬼の一生は人のそれに比べて遥かに長い。その上、鬼の持つ美貌は男であれ女であれ、人の心を惑わせた。

 美しい姿のまま長い時を生きる――。それは甘美な媚薬の如く、時の権力者達が何よりも欲するものであった。


 鬼の血と交われば不老長寿となる。


 噂は瞬く間に拡がり、多くの鬼が捕えられた。ある者は犯され、ある者は首を落とされ吊るされて、一滴残らず血を抜かれた。

 無論、鬼達も黙っている筈はない。元は戦いを好まぬ種族であったが、猛り狂った怒りの炎は、全てを焼き尽くす勢いで人間達を呑み込んでいった。


 鬼祓師――。


 そう呼ばれる者達が現れたのはこの頃である。心の臓を一突きにするか首を切り落とさなければ死なない鬼達を、彼らは次々と亡き者にしていった。それが女、子供であっても容赦はしない。

 鬼祓師は鬼の匂いを嗅ぎ分け、鬼封じの薬を調合する術を持っていたのだ。その薬を塗り込めた刀ならば例え指先を軽くかすっただけでも、何れは心の臓へと運ばれて死に至る。

 こうして鬼達は徐々にその数を減らしていった。長命であるかわりに、子は出来にくい。何れは滅びゆく種族なのである。

 そしてその時は、刻一刻と迫っていた……。




 慎之介が外岬へ向けて咲埜を出立してから五日が経とうとしていた。

 咲埜藩家老、香田幸右衛門(ゆきえもん)は久方ぶりで戻った己の屋敷の縁側に胡坐をかき、夕日に染まった咲埜の山々を眺めていた。日中の暑さは幾分和らぎ、心地良い風が頬を撫でる。


(酒を口にしたのは幾日ぶりであったろうか……)


 琥珀色の液体がゆっくりと喉を撫でていく。既に眼の奥が熱い。


「わしも齢がいったものだ。酔いがまわるのが早い」


 そうは言っても四十を僅かに過ぎたばかりとも見えるその精悍な顔立ちは、昔とさほど変わりはしていない。それどころか年月が経つほど才智と静穏がその眼に宿り、尚一層深みを増していた。

 慎之介の母が亡くなって十五年以上の月日が経つが、ずっと独り身を通してきた。縁談の話は尽きなかったが、その一切を断り続けたのだ。

 酒が喉を通る度に感じる焼け付くような痛みが、あの頃の記憶を蘇らせた。

 どれ程の月日が流れようとその記憶は、痺れるような感覚を伴い幸右衛門を苦しめ続けた。


(これが罰であるなら、わしは甘んじて受けよう)


 幸右衛門は杯に残っていた酒を一気に飲み干すと、裸足のままで庭に下りた。そこにある竹刀を手にすると、邪念を払うかのように振り下ろす。


 ぶんっ!


 空を切る竹刀の音が幾度も庭に響いていた。

 

 

 


 

 

 

(志)なんか思いもよらない方向に来てるけど大丈夫?

(慎)訊きたいのはこっちだけど?

(志)キーワード増やした方いいんじゃないかなあ?

(慎)うーん、鬼祓師とか?

(志)それってキーワードになる?

(慎)わからないけど。とりあえず。

(志)じゃあ、とりあえず・・・。

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