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徒然短編

なくしたもの

作者: 紅夜 真斗

 ぼくの なくしたもの しっていますか?

 ぼくが わすれたもの しっていますか?



 ぼくは じぶんで なにをなくしたのか

 ぼくは じぶんで なにをわすれたのか



 まるっきり おぼえていません



 おもいだそうとして うしろをむいて

 すこしずつ すこしずつ

 いっぽ いっぽ

 うしろへむかって あるきはじめたんです



 ぼくは なにを わすれて

 ぼくは なにを なくしたんでしょう?



 おもいだせないんです



 ちいさな おがわに つきました

 おがわには かえると おたまじゃくしがいました


 かえるが やぁ。 とこえをかけました

 ぼくも やぁ とこえをかけました


 どうしたんだい? とかえるがたずねてきました

 だから ぼくは なくしたものがあるんです といった


 かえるは なにをなくしたんだい? とたずねてきました

 だけど ぼくは なにをなくしたのか おぼえてないといいました

 すると おたまじゃくしが わらいました

 きっとこれだよ。 とおがわのなかをおよいで ぼくのめのまえに

 ちいさな まるいいしを おきました


 ぼくは みたことがない といったけど

 おたまじゃくしは これだよ きみは これをおとしていったんだ。 といいました

 ぼくは そのちいさな まるいいしをひろいました。


 かえるが みつかってよかったね。 といいました。

 でも まだ なにかがたりない。

 ぼくは かえると おたまじゃくしに さようならをして

 うしろにむかって また いっぽいっぽと あるきはじめました。



 こんどは すこしたかいおかに つきました。

 あおいくさが かぜに なびいて きもちよさそうでした。

 でも ぼくは なにを なくして

 なにを わすれたんだろう。


 おたまじゃくしが くれた まるいいし。

 もってると すこしだけ あんしんします。

 きっと ぼくは これいがいにも なにかを なくしているんだ。

 きっと まるいいし いがいにも なにかを わすれているんだ。


 なにを、ぼーっとしているんだい?

 こえをかけられ ぼくは こえのしたほうを むきました。

 きつねが くびをひねりながら そばのくさのうえに ねころがっていました。

 ぼくは なくしたものがあるんです。 といいました。

 きつねは そうかい。 とだけいって めをとじてしまいました。

 きみは ぼくの なくしたもの しっているの? とたずねました。

 けれど きつねは そんなの、おれがしってるわけがない。 とこたえました。


 ぼくは おこられたのでしょうか。

 すこしだけ かなしいきもちに なりました。

 めから みずが こぼれおちました。

 みずは とまりません。

 ぼくは おこられたのでしょうか。

 かなしいきもちが おおきくなっていきます。

 だけど きつねが おおきなこえで わらいました。

 なんだ、そこにあるものじゃないのか。 と

 ぼくの あしもとを ゆびでしめしました。


 おたまじゃくしから もらった まるいいしとはちがう

 すこし ほそながいいしをぼくは、ひろいました。


 まあるいいしを もっているのと、おなじ あんしん。

 きっと、これもぼくが なくしたもの。

 だけど、まだ

 たりないんです。


 ぼくはまた、なくしたものを さがそうと

 うしろにむかって、あるきはじめました。



 でも、ぼくは なにをなくしたのでしょう。

 なにを、わすれたのでしょう。



 ほそながいいしと、まるいいし。

 きっと、だいじなもの。

 ぼくの、とてもだいじなもの。


 もっていると、あんしんするもの。

 また、なくさないように

 だいじに ふくろのなかに、しまっておこう。


 あれ? ふくろにあながあいています。

 きっと ぼくが、なくしたものは

 ここから にげだしたのでしょう。


 ふくろのあなから、まちがみえました。

 ぼくは、まちへむかって

 いっぽ、いっぽとあるきはじめました。




 まちは、とてもおおきいです。

 こんなおおきなまちで、ぼくのさがしものは

 みつかるのでしょうか?

 また、かなしいきもちが

 ぼくのめから、みずをあふれさせます。


 どうしたの、こんなところで泣いて? とこえがしました。

 ぼくは、ないていたの? とたずねました。

 こえをかけてきたのは、まっしろなうさぎでした。

 うさぎは、まるいめをさらにまるくして、

 あなたが、泣いていたんじゃない? といいいました。

 ぼくは、ないていたようです。

 かなしい。 ということだけ ぼくは、しっていました。

 だけど、なくというのは、はじめてしりました。

 うさぎは、これで泣きやんで。 といって

 ぬのをくれました。

 そして、ぼくのあなのあいたふくろをみて

 うさぎは貸してごらんなさい。 といいました。

 お裁縫は上手なのよ。 と、うさぎがいうので

 ぼくは、うさぎにふくろを わたしました。


 チクチク チクチク チクチク……


 うさぎは、ぼくにいちどくれたぬのをつかって

 じぶんの はりといとをつかって

 ふくろをぬってくれました。


 ぼくはさっそく、まるいいしとほそながいいしを

 ふくろに いれました。

 そして、うさぎはたずねました。

 どうして泣いていたの? と。

 ぼくは、なくしたものがあるんです。 と言いました。

 うさぎは、そう、大変ね。 と言ってくれました。

 はじめて、笑われずに言ってくれました。


 ぼくは、うさぎにぬってもらった袋を落とさないように

 首からかけると、うさぎはにっこりと笑っていました。

 すると、どうしてでしょう。

 ぼくは、思い出したのです。



 ぼくが何を失くして

 何を忘れていたのか




 ぼくは、かえるとおたまじゃくしに出会う前

 たくさん泣いていたいたのです。

 泣きすぎて、“まる”を落としていたのです。


 ぼくは、きつねのいた丘で

 たくさん悲しんでいたのです。

 悲しすぎて、“てん”をのんで忘れようとしていたのです。


 ぼくは、町で袋を破いてしまっていたのです。

 その中には、ぼくのとても大事な笑顔をしまっていたのです。

 同時に、ぼくは袋の中にたくさんのものをしまっていたのです。

 笑顔だけじゃなく、恥ずかしくて顔を隠すはずだった布も。

 好きです。 と、伝えるはずの言葉も。

 みんなみんな、落としていたのです。


 優しいうさぎは、よかったね。 と言ってくれました。

 きっと、ぼくが落としていたものを見つけてくれたのも

 うさぎに違いありません。

 ぼくは、うさぎの手をとりました。



 嬉しい気持ち、全部をこめて。




 笑顔で、ありがとう。

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