第1話 悪あがき
「…先程はどうも」
なんてこったい。
結局オレは神野郎の思惑通り、勇者として異世界へ召喚されてしまったようだ。
陰気な石造りの部屋に中世チックな兵隊さん、それに加えて目の前にお姫様ときたもんだ。
もーやだ、見たくない現実しか見えない。手の込んだドッキリであってくれ。
「あの…貴方が勇者様ですね?」
ハイ来たお約束!
「いいえ、人違いです」
「え?し、しかし、勇者は黒髪に黒い瞳という伝承が…」
「あぁ、暗いから分かんないだろうけどオレの髪焦げ茶色なの」
足掻くよ!すっごい足掻くよ!
「…では、もう一人の方が?」
もう一人?
あぁ、アイツも一緒に落っこちたんだっけ。
「………誰?」
オレの後ろを見るお姫様の視線の先を辿ると、そこには見慣れない少女がいた。
シルクのような白く輝く長い髪と絹のような肌をした、空色の瞳の美少女。
頭に付けた仮面と服装はまるで、憎き神野郎そっくりだ。
少女は周囲の視線を気にする事無く只茫然と自分の両手のひらを見つめて、座っている。
「…な」
「な?」
「なんじゃこりゃああああああああああああ!!!!」
少女は突然、団塊の世代向けなモノマネをした。
よし、松田(仮)と呼ぼう。
松田は叫び終わると自分の顔や手足をぺたぺたと、感触を確かめるように触りだした。
中々に愛らしい仕草だが、そろそろ此方に意識を向けてほしい。姫さん達困ってらっしゃるから。
「おい、どうしタバッ!?」
状況が進展しないので松田に声をかけたら、左のコークスクリューを喰らった。
「……間違いない、受肉しておる…」
「いきなり何すんだコラァ!!」
「有り得ん、たかだか勇者の召喚魔法で神である私を現世に召喚するなど…」
「聞いてる!?年下の女の子にスルーされると流石にお兄さん傷付くわ!」
「っ!! 何だこの魔方陣は!?おい、そこのちんちくりん!」
「え、私!?って誰がちんちくりんよ!」
松田は姫さんを指差し呼びつける。
ナルホド確かにちんちくりんだ。主に胸とか、胸とか、胸とか。
「お前以外誰がいる、ちんちくりん」
「んなっ!?貴女の方がもっとちんちくりんじゃない!」
「何だと!神である私に喧嘩を売るとは良い度胸だ、ちんちくりん!!」
マツムシか君らは。
つーかまた話が停滞しとるがな。
「んで、魔方陣がどうかしたのか松田」
「誰が松田だ!っと、そうだった。おい、この魔方陣を描いたのは誰だぁ!!」
メッシュの素敵なツンデレ親父かお前は。
「え、私だけど…」
「何でこんなものを勇者召喚に使用した!」
「何でって、私はただ古文書に描いてあった通りに」
「戯け!これは一級神格の魂をも引き寄せる禁術中の禁術・神降ろしの魔方陣だ!下手すれば貴様、魂も魄も根刮ぎ次元の狭間に吸い込まれて死んでいたぞ!」
「!?」
…よく分からんが、姫さんは相当危ないことをやらかしたらしい。
「偶然かつ幸いにも此方から飛び込んだから良かったものの…強引に引き寄せようとしたなら間違いなく兵士諸共、命は無かったぞ」
松田の言葉に姫さんは一気に顔を青くする。
やりかけとったな、こりゃ…
「…まぁ、良い。喚んでしまったもんはしょうがなかろう。それにしても、事故とはいえ創造神たる私を召喚するとは、中々の腕だ。そこは素直に評価しておこう」
…………ん?
「「お前(貴女)神なの!!?」」
「今頃かい!!」
「いや~、何か生意気具合が神野郎に似てるな~と思ってたんだよ。まさか仮面の下にこんなプリティフェイスが隠れていたとは」
「ほ、本当に神様なのですかっ!?しかも創造神ということはもしや、貴女様はナナシノ様なのですか!?」
「ん?神に名前など無いが……あぁ、確か五千年ほど前に降りてきた時にそう名乗ったな。いや、懐かしい」
ゴンベエだろ、お前絶対それゴンベエだろ。
「………も…申し訳御座いません!!」
「な、何だどうした!?」
姫さんは、いや姫さんだけでなく周りの兵士全員が武器や兜を放り投げ、床に頭を擦り付けんばかりに平伏した。
「知らずの事とはいえ、度重なる無礼の数々、お許しくださいっ!!」
おい相手をよく見ろ。
ゴスロリとかが似合いそうな見た目年若い少女だぞ?
これを崇めるとか、ロリコン教団なのか?
「貴方、頭が高いわよ!!此処におわす御方は唯一神ナナシノ様で在らせられるのよ!」
えぇ…オレ勇者ちゃうのん…
完全にお株奪われとるがな。
…ん?待てよ、これもしかして勇者回避フラグ?
「ナナシノ様!御願いで御座います、どうか貴女様のお力で我らをお救い下さいませ!!」
ほいキター!
不幸中の幸いたぁこの事だ!
そうだわな、勇者と神、どちらに救いを乞うっつったら神だわな!
ぃよし、このまま面倒事は松田に任せる方向で…!
「はぁ〜、やっぱりこうなるのか、面倒な。面を上げてくれ皆の衆、そう畏まらんでもいい。おい、平次」
「何だ、オレは手を貸さんぞ。神様がいるなら勇者の出番は無いだろ?」
「そうではない。お前ちょっとこれを着けてみろ」
松田は服の下で何やらごそごそしだすと、何かを取り出した。
松田が差し出した手にあったのは、某有名ブランドのサングラスだった。
「迷惑を掛けた詫びだ。お前によく似合うと思ってな。試しに掛けてみるといい」
「え、嘘マジで!ラッキー、丁度新しいの欲しかったんだよn」
バシュン…!
「……え、何、今の光。金曜ロー○ショーとかで三回くらい見たことあんだけど」
「………あれ、私は一体…」
「お前は勇者召喚に成功した。だが不幸にも、勇者の姉である私まで巻き込み一緒に召喚してしまったのだ。そして今取り敢えず自己紹介をするところだ」
す、刷り込んでらっしゃるー!!
「ちょっと何テキトーな事言ってんの!?何今までの流れ無かったことしてんの!あ、姫さん嘘だから!この人の言うこと全部嘘だからぁ!!」
「んで、この喧しい馬鹿面が勇者・坂上平次だ。そして私が腹違いで種違いの姉…松田だ」
「それもう完全に他人じゃねーか!姉設定引っ張る必要あんのか!」
「名字が違うのは家庭の事情ということで察してほしい…」
「何勝手に人ん家の家族関係複雑にしてんの!?ウチそーゆーのねぇから!両親とも初恋からゴールインした円満家庭だから!」
ここで漸く正気に戻ったシャルロット姫は、二人に対して王族として、貴族として模範的な礼をとった。
「えっと…ようこそお出で下さいました勇者ヘイジ様、義姉マツダ様。私はエスティアラ王国の第二王女、シャルロット=レイ=エスティアラと申します。突然の事で混乱されている事でしょうが、どうか落ち着いて私共の話を聞いて下さい」
「あるぇー?オレの声きこえてなかったの?コイツ姉じゃねーから!神様だから!!」
「すまんな、愚弟はまだ現実を受け入れられんようだ。暫くそっとしといてやってくれ。そちらの話は後で私がゆっくり説明しておこう」
「そうですね…急な話ですし、勇者様にも心構えというものが必要ですわよね。分かりました。では勇者様は落ち着かれるまでの間、城の客室でお寛ぎ下さい。何かご用がありましたら、遠慮なく声をお掛け下さい」
「ちょっと何それオレだけテンパってるみたいな流れ!?え、誰このガチムチさん達!?案内役?いや、歩けるから、宇宙人みたいになってるから!!」
この時平次は悟った。
オレが勇者になるのは天命なのだと、どうあがいても逃れられない
「運命なのだと…」
「何勝手にナレーション入れてんだコラァァァ!!」
次回、説明回