第0話 いざ、異世界へ(強制)
H24/07/06 気まぐれに微修正。
「ココは…何処だ?」
気付けば、オレこと坂上平次(高一)は白い世界に立っていた。
右も左も、後ろを振り返っても。天を仰いでも、在るのは白。
この空間が広いのか狭いのかさえ分からない。
「何でオレ、こんな所に…」
答えを返す者は居ないだろうことは判っている。そりゃそうだ。こんなとこで生活する物好きは切羽詰まったサ○ヤ人くらいなもんだ。
それでも、いつまでも続く無音が寂しくて、つい口から言葉が出てしまった。
「えー確か、二限目の数学が終わったんだよな、うん…」
取り敢えずオレは、ココに至る経緯と状況を整理する為に、朧気な記憶の糸を辿ることにした。
他にする事無いしね。
「あぁそうだ、授業の途中から段々腹が痛くなってきたんだっけ。やっべ、授業内容全然覚えてねぇわ。あとで田中にノート見して貰わにゃ……」
………あ。
「と、トイレェェェェェェ!!! そーだよオレ緊急事態なう! つーか社会人候補生としての尊厳を掛けた生涯五指に入るであろう30分に渡る激闘を何でコロッと忘れてンだよ!!! 勝利の鐘は鳴り響いたってのによぉおっ!!! 厠何処だ!? エイドリアァァァァァ・・・・・・あ?」
…あれ?
「腹が…痛くない?」
ふむ、何かおかしい。
痛みはおろか、五感全てに違和感がある。何というか、ブレている(・・・・・)?なんだか妙な感じだ。
いや、そもそもオレ…
「浮いてる!?」
腹の下を意識して初めて己の浮遊感に気付いた。
地に足がついてないのだ。
いや、比喩じゃなくて。
「知らない場所、白い空間、浮いてるオレ…」
限られた僅かな情報が材料となり、一つの推論としてオレの脳裏に浮かび上がる。
「いやまさか、そんな筈…でも、そうとしか考えられない」
なんてこった……
「激闘のショックで遂に、セブンセ○シズに目覚めてしまったというのか!?」
「ちゃうわド阿呆!!」
「ぬおおぅ!!? 誰!?」
誰も居なかった筈の背後から突然声を掛けられ、思わず飛び上がってしまった。
我ながら平成生まれのリアクションとは思えない。
「…て、ホント誰?」
振り向いた先には何やら荘厳かつシンプルな、ポンチョ的な服を着た仮面の人物がフヨフヨと浮いていた。
「そうか、此処はウェコムンd」
「だから違うっつーの! あとル○ア奪還篇までしか知らん癖にそーゆーネタ挟むな!」
「失礼な、ハ○ベル様はオレの嫁だ」
「久方ぶりにチラ見して乳に一目惚れしたクチだろお前!!」
オレの好みどストライクだったんだ、仕方ない。
それはさておき。
「で、オレに何の用なんだ、カミサマ?」
「……ほう、何故私が神と分かった?」
「そりゃ本人しか知らんプライベートな事まで知った奴が異空間でフヨフヨ空飛んでりゃ誰だってそこに行き着くさな」
あと、テンプレ的に考えて。
「いやいや、そう謙遜することは無いぞ少年。常識人である程突飛な結論には中々到れんモノよ」
「あれ、誉められてんの?それ」
「いんや、貶しとる」
「OK、その喧嘩買った」
「ああ、そうだ。こんな事言いに来たんではないのだ。えー、ちょっと待っとれよ。確かこの辺に書類が……さ…さ…さ…あった。サカガミ ヘイジ、で合っとるな?うん」
「スルーかい」
仮面の神は虚空の隙間にに手を突っ込んでなにやらガサガサと漁り出すと、てれれってれー♪と未来型青ダヌキよろしく一枚の紙切れを取り出した。
「えー、こほん。さた急な話だが、お前にはこれから異世界へ旅立ってもらう」
「遠慮します」
「異世界の名は『ファルナーク』。魔法やらモンスターやら在るファンタジー満載の世界だ」
「聞けよ」
「これからとある国で勇者召喚の儀が行われる。お前はその勇者としてファルナークに行って魔王とかその他諸々の問題を解決してくるのだ。強制はしないが、行かねばファルナークとお前の世界が何だかんだで崩壊する…………お前のせいで」
「感じ悪っ!?」
「さて、お迎えが来たようだ。そこの魔方陣に飛び込めば其処はもう不思議な世界ファルナーク。存分にファンタジーを楽しむが良い。では、健闘を祈る」
何時の間にやら後ろにライトグリーンに光る円形の魔方陣が『おいでませ』と待ち構えていた。
「おいこら待て、一方通行のまんまか!書類だけ淡々と読んでハイどうぞとかとんだ御役所仕事だよ! ちょっと上の人呼んできてぇ! あ、神だわこの人! わー後ろで何かめっちゃ点滅してるー! 夜のパチンコ屋ばりに自己主張してるぅ!!」
「ほれほれ、男は度胸。思いきって未知のエリアに飛び込まんかい」
「こんな訳わかんねー事にホイホイ首突っ込む類いのノンケじゃ無ぇのオレは! つーかそもそも何でオレ!? 公園のベンチで暇そうにしてるイイ男とかで良いだろ!」
「ええぃ、往生際の悪い奴だ」
「え、ちょっと待って! 一般市民に対して神が力づくですか!? 暴力ハンターイ!!!」
「私に肉体労働をさせるとは、不届きな奴だ」
「ぬ、ぬわー!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……我願う……我求む……来たれ希望よ、来たれ救世の使途よ、そして我らを導きたまえ……! ……はぁ」
暗く冷たい石造りの塔の中で、膝をつき金色のシルクのように美しい髪を苔むした石畳に落とす事も気にも留めず、目麗しい少女は大きな溜め息をつく。
「呪文も術式も問題なし。起動にもちゃんと成功してるのに、どうして誰も呼び掛けに答えてくれないのかしら……」
彼女、エスティアラ王国第二王女シャルロット=レイ=エスティアラが召喚の儀を始めて早十五分。
国の存亡を賭けて執り行われた異世界の救世主・勇者の召喚。
一国の姫でありながら有能な魔導師でもある彼女がその大役を一任されたのだが、未だ芳しい成果を得られず、度重なる詠唱による魔力消費に焦りと疲労の色を隠せない。
「姫様、少しお休みになられた方が…」
顔色の悪い彼女を見兼ねた側付きの騎士の一人が休憩をとることを進言するも、シャルロット姫は首を横に振りそれを拒否する。
「彼方側とのリンクは間違いなく出来ているの。今止めて、同じように上手く繋がる保証は何処にもないわ」
「ですが…」
「……それに、貯蓄の魔石も残り僅か……私の魔力でカバーしたとしても、あと一回が限度かしら。それで決めないと…」
希望は、潰える。
額に汗を光らせ眉間に皺を寄せるシャルロット姫の言葉から、彼女の小さな肩にのし掛かったとてつもない重圧を感じた兵士達は一様に息を飲む。
「さぁ、いくわよ……ラストチャンス…!」
ありったけの願いを込め、彼女は再び詠唱を始める。
(お願い、来て…勇者様…!!)
詠唱と共に脈打つように輝きを増す魔方陣。
「…っ!!! 来たっ!!」
魔方陣の光が一ヶ所に集まり徐々に形を成していく。
(黒髪に黒い瞳……!間違いない、古文書の通りだわ!)
そしてついに――
勇者の召喚に成功した。
「………へ?」
「……………ボンソワール」
……首だけ。
「「…………」」
両者の間に流れる永い沈黙。
それを先に断ち切ったのは勇者だった。
「…失礼しました」
やっとの思いで召喚した勇者(首)は一言そう言い残し、魔方陣の中へゆっくりと沈んでいった。
「え!?ちょっ、待って!」
漸く硬直の解けたシャルロット姫は慌てて引き留めるも、伸ばした手は空を切り、残るのは光の波紋だけだった。
茫然とする姫と兵士達。
そして漸く現実が飲み込めくると、徐々に顔色を悪くしていった。
召喚、失敗。
この言葉が誰もの脳裏に過りだした。
その時。
再び輝きだした魔方陣から、今度は右足が生えてきた。
「「「!!?」」」
「……これは……?」
「先程の少年の足、でしょうか」
「何がどうなってんだ!?」
一同がどよめく中、
「「「!!?」」」
今度は左足が生えてきた。
「ひ、姫様、此れは一体どういう事なんでしょうか…?」
「解らない……でも、もしかして……」
「もしかして?」
姫は魔方陣から生えた荒ぶる両足を見つめて、こう考察する。
「もしかして、召喚に抵抗してる…?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぐぬぬぬぬぬ…!!」
「んぎぎぎぎぎ…!!」
「えぇい小賢しい、手を離せ馬鹿者っ!」
「断る! 何でオレがそがな面倒な事をせねばならんのだっ!!」
「だから天命だといっておろうが! 恨むなら己を恨め! そしていい加減諦めろ、往生際の悪い!!」
「やなこったパンナコッタァァァ!!!」
オレは耐えた。
いや、一回頭から突っ込んだけども。お姫様的セレブ垣間見ちゃったけども。
没シュートは何とか耐えた。
だが神野郎は諦め悪く、またしても俺を魔方陣に突っ込んだ。
今度は足から放り込まれた為、現在魔方陣の端にしがみついた格好になっている。
「勇者だぞ勇者! 神様チートも付いとるし! 厨二心擽られんか!?」
「なぁにが厨二だこのヤロー!! 生憎ジ○ンプはとっくに卒業してんだよ!! オラわくわくしねーんだよ!!」
「ジャ○プは卒業? ほざけ! お前なんぞコ○コロがお似合いじゃあ!!」
「てめぇバカにしてんのか! 少年達の原点バカにしてんのかァ!!」
「馬鹿はお前だ! 良いからとっとと行って来い!!」
<ゲシッ>
「ぬおっ!?」
支えの腕を蹴飛ばされ、オレは咄嗟に神の服を掴んだ。
「なぬっ!? ちょっ、離せっ…!」
神はオレの手を跳ねようと前屈みになった。
しかしあろうことか、神は足を滑らせてバランスを崩してしまった。結果…
「「うわぁああああああ!!!」」
二人して魔方陣へ飛び込んだのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どういうことなの…」
度重なるイレギュラーな事態に頭が痛くなる。
シャルロット姫の前にようやっと召喚されて来たのは、先程の黒髪の少年と仮面を頭に付けた白髪の『少女』だった。
現実逃避のベクトルねじ曲げたノリで書いてます。