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目覚めたモノ

爆炎が舞った。自分は彼女に手を伸ばす。狂おしく求めて名を呼ぶ………。なのに彼女は嫌々と首を振ってこちらには来ない。この場にいるのは二人だけ。だってそうなるように殺したから。リルア**。ア**。愛している。君を君だけを。なのに何故君はこの手を取らないのか。あいつはもういない。

僕等の邪魔をする**ヴェインはもう*んだ。あぁ君は美しい。泣いている顔も、怒っている顔もすべて僕だけのものだ。ア**。**ナあいしている。


なのに何故僕は君の顔を思い出せないのだろう………。



「もうもたない………」


静かに呟いて男は粉々に砕けた鏡を見つめた。起きた瞬間目に入ったソレ。鏡の中、自分の目の中に夢に出てくる狂気の男を見たからだ。

薬も呪いも効かない。怖ろしいまでの呪い。


「浸食されているのか?」


自分という人間はこの狂気に食われて死ぬのだろうか?


「く………ふふふっ」


思わず口から零れる笑み。こんなこと誰にも相談できるはずがなかった。人に尊敬される立場の自分がこんな狂気に囚われているなんて。


           

        ※            ※           ※



深緑まぶしい庭で剣が風を切る音がする。

フィアとルドが型に合わせて剣を振るっているのだ。もう長時間振るっているためかフィアの剣は重さを増し手も上がらなくなってきている。いつもは優しいルドであるが、講師役としては厳しいようだ。


「フィア、剣先まで意識が入ってない。もう少し腕を挙げて」


「っ………はいっ」


流石というものでフィアと同じように剣を振るったはずのルドの額には汗一つ浮いていない。それを見て唇をきつく噛み締めると額に張り付いた髪を腕で擦ってフィアは再び剣を振り始めた。


「最初にしたらキツイんじゃないのか?」


近くに寄って来たヴェンがルドに耳打ちする。


「アホカ。これ以上軽くしてどうする。お前だってこれが野郎だったらもっとシゴクだろうが」


「それはそうだけどね。なんかフィアが可哀想で」


「キエロ。俺の耳元で囁くな気色悪い」


ヨヨと泣きまねをするヴェンの足を容赦なく蹴る。

お返しに見えないように横腹を殴られた。


「よし。素振り後30回で今日は終りにしようか。最後まで剣先を意識して」


「っ………はいっ」


最後の力を振り絞ってフィアが剣を振るう。それは綺麗な弧を描いてピタリと制止することを繰り返す。それを見ながら俺は昨日の少女の亡骸を思い出していた。フィアに似た色の少女。一瞬その姿がフィアに重なりかけ俺は思わず自分の思考に蓋をした。もしも、フィアがあんな目に合うことになったらきっと俺はその原因のモノをそれが魔物だろうと何だろうと殺すだろう。それは、皆も同じ気持ちのはずで………いや、きっとラーダは永劫の苦しみをと言うかも知れない。そう思った瞬間何故か胸が痛んだ。


「どうした?変な顔をして」


「………なんでもない」


自分でもよくわからない痛みをそのまま考えないようにして俺はヴェンに言った。

そうこうしている間にフィアが素振りを終えこちらを向く。上気した頬はバラ色で妹のように思っている俺にとっても綺麗に見えた。なんだか、今日の俺は少々おかしい。そんな考えを振り払うために俺はヴェンが持っていたタオルを彼女に投げてやると剣を鞘に入れてフィアに向き直った。


「初めてにしては頑張ったな。ただ、体力がかなり落ちてる。行く行くは剣の稽古の前に走り込みのメニューを追加するからそれに備えて時々城内を散歩したりしておいた方がいい。」


「そうですね………私、まだ息が整いません。ルド様と比べるのも可笑しいですけどもっとちゃんと出来るようになりたいです」


「あぁ。ま、最初から無理するものでもないけどな?あとはこれ。基礎の型取りの本だ。次までに

ざっと目を通しといてくれ」


上気した頬の汗を拭ってからフィアはそれを受け取った。一瞬触れ合った手の温度ににドキリとしながらも何事もなかったようにパラパラとページをめくる。そこには半月の型だとか、弧蝶の舞だとかの型の絵が描かれていた。

視線を感じて見れば何か戸惑ったようなルド様の眼とぶつかった。フィアが小首をかしげると視線を逸らせて今日の講義が終わった事を告げられる。


「はい。ありがとうございました疲れはしましたが、身体を動かすのってとても気持ちがいいです。また次も宜しくお願い致します」


「あぁ………。また次の時間に」


そうして初めての剣の講義は終りを告げた。



           ※           ※           ※



助けを求めようとして周りに誰もいない事に気づく。ぐったりとした少女は自分の腕の中でその白く細い首に不似合いな黒い痣を拵えて、その瞳は空虚なまま空を映していた。

これは、いつもの夢だろうか?狂気の悪夢の?違うと言う事は頬を撫でる風と自分の噛み締めた唇の痛みが告げていた。


―――記憶がない………。


いつものように完全に欠如したそれ。その間の行為がこれだというのか?そうだとしたら自分が何人もの少女を殺してきたのか。そう思った瞬間、あまりのおぞましさに『彼』は道端で吐きそうになった。

助けを求めなければならない。仲間に友に。でもなんと言えば良いのだろう?今世間を騒がせている少女を殺す魔物が自分であると?でもそうせねばならなかった。自分を蝕む狂気の主を例え自分の命をかけたとしても止めなければならないのだ。そう思った瞬間、心臓をゾロリと冷たい手で触られた感じがした。思わず息を詰め膝をつく。


―――もう遅い。


唐突にそんな考えが頭をよぎる。『彼』は死神の嘲笑う声を聞いた気がした。




体調不良で更新ストップしておりました。ゆっくりな更新になると思いますが宜しくお願い致します。

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