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胎動

爆炎が舞った。自分は彼女に手を伸ばす。狂おしく求めて名を呼ぶ………。なのに彼女は嫌々と首を振ってこちらには来ない。この場にいるのは二人だけ。だってそうなるように***から。*****。***。愛している。君を君だけを。なのに何故君はこの手を取らないのか。あいつはもういない。

僕等の邪魔をする******はもう**だ。あぁ君は美しい。泣いている顔も、怒っている顔もすべて僕だけのものだ。***。***あいしている。なのに何故僕は君の顔を思い出せないのだろう………。


悪夢に悲鳴を上げて目を覚ます。呼吸が荒い。冷や汗が背中を伝う。外はまだ薄暗く鳥の声さえ聞こえない………まだ朝は来ないようだった。この所おかしな夢ばかり見る。記憶にない夢だ。なのに生々しい感情をともなって夜毎彼を苛む。変だ。オカシイ。そう思うのにソレが当たり前のように感じる自分もいるのだ。寝不足のせいか最近日中に記憶が飛ぶ事も多い。そろそろ、寝る前に良く眠れる薬を調合する必要がありそうだった。

 



          ※          ※          ※



フィアの記憶が無くなってから一カ月が経とうとしていた。彼女の記憶が戻る気配はない。

この頃には、周辺諸国の不審な動きも特になく。かつて謀反を企んだために辺境で隔離されている陛下の伯父、ドルニア侯にも表立った動きはないために王宮内に限っては厳戒態勢の警護はされないようになっていた。

最初の混乱を乗り切ったフィアは落ち着きを取り戻し、皆との会話にも笑顔が見れるようになってきた。でも、俺は知っていた。皆の名前を羊皮紙に書いて一生懸命覚える彼女を。夜、バルコニーに一人で立つ彼女を。

だから王宮内の一郭、誰も知らないような小さな庭園の泉の畔で声を殺して泣くフィアを見たとき、たいして驚きはしなかった。もっともフィアは酷く驚いた顔をして隠れようとしたのだけれど。


「あー、なんだ………俺は今から庭の木だ。ただの木にちょっと愚痴をこぼしてみたらどうだ?ただの木だから誰かに言ったりしないし、溜め込み過ぎは身体に良くないしな」


我ながら苦しい言い訳めいてそう伝えると、フィアはちょっとびっくりしたような顔をしてから微かに微笑んだ。


「………私、話す木なんて初めて見ました。お気持ち、有難うございます。でも、大丈夫です」


涙を拭ってフィアは言う。―――言っておくが全然大丈夫そうじゃない。


「残念ながら、俺は泣いてる女の大丈夫は信用しないようにしてるんだ。結局、俺達には記憶を失った奴の気持ちなんてわからないしな。だから言ってもらったほうが理解できる。陛下や妃殿下、お前の兄貴や姉貴にも言ってやった方が喜ぶと思うぞ?皆お前に頼って欲しくてしょうがないんだから。ただ、いきなりはむりだろ?練習台になってやるから、言ってみろ」


俺が軽い口調でそういえば、フィアは唇を噛み締めてうつ向いた。俺は、せかしたりせずに、ただ傍にいる。


「………じゃあ、庭の木さん、聞いてもらえますか………?私、何も思い出せないんです。皆さんがそれを責めたりしないのは知っているんです。だって皆さん凄く優しくしてくれます。優しすぎるくらいです。でもだからこそ、優しくされると申し訳ない気持ちになるの。だってそうやって優しくしてもらっていいのは皆さんのフィアナレーデだからっ、私、私、思い出したいと思うんです。だ、だけどっ、全然っ、ダメでっ………記録映像でっ、こっそり………昔の私を見たんです………。今と、全然違ってて………私、私………」


後はただ泣きじゃくるフィアの頭を俺はただずっと撫で続ける。普通に、接しよう接しようと努めて来たつもりだが、普通に接しようとするあまり、皆でフィアの顔色を窺い過ぎていた事に今更ながらに気付かされた。それが、優しすぎる皆の態度につながり、結果として彼女を追いつめていたのだろう。これはちょっと内密にダリウスと相談する必要がありそうだった。


「庭の木から忠告をしてもいいか?皆が優しくするのはお前を愛しているからだ。ここで勘違いしてもらったら困るんだが、それは記憶を失ったフィアも愛してるって事だぞ?陛下はフィアの記憶がないと分かった時、記憶がなくとも新しい思い出をつくればいいとおっしゃった。その気持ちは皆が同じだと思って欲しい。後、俺達が必要以上に優しくしてしまうのは今のフィアが何で傷つくかわからないからビクビクしてるっていうのもあるかもな」


俺の言葉が思いがけなかったのかフィアは鼻を啜りながら少し顔をあげた。


「っすん。ビクビクですか?」


「そう、ビクビク。皆、フィアを傷つけてそれが原因で嫌われたくないんだ」


「私、嫌ったりしません!むしろ私が嫌われそうで………」


「そこだよな。―――俺等は記憶が無くなってフィアの性格が変わったくらいじゃお前の事嫌いになったりしない。けど、記憶がないから、どこまでがフィアの大丈夫かわからないからフィアに嫌われるようなことをしたくない。逆にフィアからみると別に俺等の事嫌いになったりしないけど、思い出せない事で嫌われるんじゃないかって怯えてる。なんだか皆嫌われたくないってだけのはずなんだけどな?結局みんな嫌われる『かもしれない』にとらわれ過ぎなんだ」


結構皆、馬鹿だよな。というとフィアがクスクスと笑う。


「ルド様がそういうと私の悩みって小さな事みたいです」


「悩みが大きいか小さいかは当人にしか分からないと思うが………小さな事みたいに思ってもらえたんなら庭の木をした甲斐があったな。お前、もうちょっと我儘言ったほうがいいぞ?そのほうが絶対喜ばれる。―――取りあえず、ここで人に会った事はないから、フィアが少し一人になりたくなったらここにくればいい。まぁ、時々俺は寄るけど。昼寝しに来たりとかな。また庭の木が入用になったら声をかけてくれればいい」


慣れない事をしたせいで少々気恥かしい。照れ隠しに頬を掻きながらそう伝える。


「有難うございます。おかげで元気になりました。」


そう言って頭を下げるフィアを見て頷くと俺はヒラヒラと手を振って仕事に戻った。



            ※        ※         ※



ルド様が立ち去ってから、私はほうっと息を吐いた。今までしこりのように胸にわだかまっていた不安がびっくりするぐらい小さくなっていた。記憶がなくなった事実と向き合ってからずっと、この優しい人たちに嫌われたくないという気持ちで一杯だった。もう少し肩から力を抜いたほうがいいのかもしれない。新しく思い出がつくれるのなら、それが許されるのなら私は皆に心配顔で見られる私じゃなくて

笑顔で見てもらえる私になりたかった。そう思うと初めて希望と呼べるような微かな気持ちが胸に灯った。温かな気持ちを抱きしめて私もその場を後にした。


     

            ※        ※         ※


             

あぁ、あぁ………世界はなんて光に満ちているのだろう。あの深い闇の中、彼女を求めて彷徨った日々―――彼女はきっとまだあの闇の中にいるだろう。ボクが助ければきっと今度は………今度こそ彼女はボクを、こんどこそ?なんだったろうか。憎い………イトシイ彼女。イトシイとはなんだっただろうか。ただ胸に空いた穴がある。それを埋めたくて取り戻したくてボクは………。あぁ、記憶が定まらない。何か、大切な事を忘れている気がする。ただ、焦がれる程の渇きを癒したくてボクは………目の前にいた女を***。 

記憶喪失者ひとり追加です。主要人物残りの人たち出れず。

一応次で出そろう予定。

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