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不安と混乱と

唐突に目が覚めて驚いた。

天蓋つきのベットの上である。挙動不審な様相でキョロキョロと周りを見渡すと、3人は寝れるゆったりとしたつくりで、頑丈なな竜の角でつくられたであろうベットだった。柱や装飾部分は細かな彫刻に彩られている。


―――ここはどこ………かしら?


見覚えはない。知らない部屋だと感じる。

ここにいる前の記憶を探ってみると、黄金色の双眸を思い出した。


―――そう、確か………あの穴から落ちたのだわ。


そう思い出すと慌てて身体に痛いところがないか確認する。腕も足も痣ひとつなく綺麗な状態なのに安心して、ほうっと息を吐く。


―――きっとあの方が助けてくれたのですね。


もしかしたらここはあの人の屋敷なのかもしれない。穴に落ちて倒れている私を見つけて助けてくれたのだろう。そう思うと少し恥ずかしかった。頬が薔薇色に染まる。あんな所に落ちるなんてきっと間抜けな娘と思われたに違いなかった。そっとため息を吐くと部屋を見渡してみる。何枚もある大きな窓は陽の光をこの部屋に導いて心地良い。刺繍が細かいレースのカーテンが風を受けてふわりと舞った。飾られた絵画も花瓶もテーブルも質素なように見えて細部まで技術を凝らした素敵なものだ。ふと、壁にある大きな鏡に目が行った。なんの気なしにベットから足を出す。つま先を降ろした大理石の床はひやりと冷たくまだ少しはっきりしていなかった頭をすっきりさせるのには十分だった。全身を鏡に映してみると、しなやかな身体つきの美しい少女がこちらを不思議そうに見返していた。


―――私………?


私の髪の色はこんなに濃い蜂蜜色だったかしら?それに………腰まである髪をすくってみる。こんなに髪は短かったかしら?何か良く理解できない程のかすかな違和感。初めて、不安が胸に湧き上がる。

地に足がついてないような心許ない感覚。そう怯えた時だった。


重厚なドアが音を立てて開く………。


入ってきたのは深緑のドレスに身を纏った女性だった。鏡の前にいる私を見て驚いたように目を見張ると嬉しそうに顔を綻ばせて駆け寄ってくる。


「フィアっ」


そう言って強く抱きしめられた。


「あぁ、もうっこの私を心配させるなんてあなたったらっ!痛いところはない?お腹は空いてないかしら?そうだわ、アデラ!お父様とお母様にフィアが目を覚ましたと!!あと、ついででいいから役立たずさん達にも連絡してあげて!あと軽くお腹に入れられるものを!!!」


この状況に軽くパニックを起こした私の頭に初めて届いたのはこの女性ひとの声、一番最初に発せられた『フィア』という………。人の名でしかないもの………。自分の名ではない、と思う。


―――じゃあ、私の名は………?


そう、考えて初めて自分の名前が思い出せない事に気がついた。


―――あ。


それだけじゃない………。名前以外の記憶も………、ナイ。

私の記憶はあの穴から見上げた光景がすべて………その前の事が、思い出せなかった。

心音が跳ね上がる。ドクドクとした音が耳に響く。唇から血の気が失せ、舌が強張るのがわかった。

かすかな悲鳴を漏らすと、いぶかしく思ったのか抱きしめている腕が緩んだ。

できた隙間に自身の腕を入れて勢いよく突き放す!驚いた、傷ついたこの麗人の顔は鏡で見た私の顔とよく似ている。けれど………。


「あ、あなたは誰?私、は誰?私、私どうしてっ!!」


混乱のままに叫ぶと目の前の女性ひとの顔から血の気が失せた。あぁ、そんな―――という呟きがその震える唇から洩れる。私の叫びに扉の傍で控えていた婦人が胸元に手を寄せて哀しい顔をしているのが見えた。彼女は決意を込めた瞳で私をみると―――医務官を呼んでまいります。そう言ってこの場から立ち去った。

心臓が痛い。きっと私の顔も真っ青になっているだろう。視界がぶれる。


「………ここは、どこなの………?」


目の前が真っ暗になり、もはや立っている事はできなかった。力なく座り込む。慌てて駆け寄る気配がしたけれど私にはどれも現実感の伴わない悪夢のように思えた。



           ※         ※         ※



「―――記憶、がないと………」


そう重々しく呟いたのは陛下だ。俺はやはり、という思いと共に唇を噛み締めた。報告はしてあった。

けれど、誰も………俺だってソレを本気にはしてなかったのだ。フィアの記憶が失われているだなんて。力なく横たわる彼女を見る。青白いその顔………普段の勝気で姫とも思えないお転婆ぶりを知っている者からすればその姿はあまりにも痛々しかった。妃殿下は立っていられず先程から椅子の上で涙を拭っていた。気の強さに関してはフィアよりも上を行くグレイシア―――シアですら青い顔で震えながら立ちつくしている。ラーダは壁に寄り掛かったまま動かない。フィアの兄トルヴェンと一番上の姉エレジアは今外交で隣国の空の下だ。報せは送ったけれど公務をおろそかにはできない。予定通りあと2週間は帰ってこれないはずだった。


「グレイシア姫のお言葉から推察するに間違いないかと………。問題なのは襲撃による心因性のショックが原因なのか穴に落ちた時の外傷性のショックが原因なのか分からないことです。フィアナレーデ姫の傷は何者かによって癒されていました。結果、姫様の脳には現在異常は見られません。しかし、異常がなかったとも言えんのです。………記憶は戻るかもしれませんが、このままということもありえます。」


医務官のダリウスが口を開く。


「フィアナレーデ姫は大変な混乱の中にいらっしゃるでしょう。記憶のない姫様が一番お辛いと思われます。お倒れになるほどに傷ついておられるのです。ですから、無理に記憶を取り戻させようとは思わないことです。こういうことは大変デリケートな問題ですので………できるだけ普通に接する事―――何かすれば記憶が戻るかも、という期待は禁物です。ゆっくりと現状を認識して頂くのが良いでしょう」


そう沈痛な面持ちでダリウスが告げれば陛下が頷く。


「わかった………ダリウス。フィアの経過を診るのはその方に任せる。レダ………レダリアーナ、泣くでない。フィアは死んだわけではないのだ。記憶を失ったとしても私達の可愛いフィアに変わりない。思い出など新たにつくれば良いのだ。それにいつかは記憶が戻る時もあるかもしれぬぞ?その時にそんな顔をしていればフィアがお主を心配するであろう」


陛下はそういうと妃殿下の肩を優しく抱きしめた。そうしてシアの方を見て心配そうに眉を寄せる。


「シア、お前もだ。心配するなとは言わんがその様子ではフィアも落ち着くまい。ここにはアデラをつける。少し休みなさい。………ラーダリオ、ルドヴィス。先にも言ったが………これはその方等の所為ではない。フィアがお主らの目を欺いて本営を抜け出したのがそもそもの発端。護衛の意味がないとそなた等は言ったが、それを責めるのなら私はフィアの姫として自覚のない行為を責めねばぬ。………己を責めるな。今、できる事をせよ。フィアを襲ったのが何者であったかこれで分からなくなってしまった。あの場所にいる伝説めいた魔物の類であればまだ良いが、敵国の間者や、我が国の身内のしでかした事かもしれぬ。」


陛下のその言葉に俺とラーダはハッと目を合わせた。


「護衛を手配いたします。それと魔術士に鼠の動向を監視してもらいましょう」


俺の言葉に陛下が頷く。俺はラーダと二人、礼をとるとフィアの部屋を辞した。

部屋を辞した瞬間。隣で聞こえた唸り声にそっと声をかける。


「ラーダ………大丈夫か?」


「―――っ大丈夫なはずないだろ。もし、フィアを傷つけた奴がこの辺にいるんなら………殺してやる!」


ラーダの普段は穏やかな新緑の瞳が怒りにゆらゆらと揺れている。長く伸ばしたこげ茶の髪もパチパチと火花を飛ばしそうな勢いで波打っていた。


「殺すなバカ。証拠が消える。半殺しにならしていいぞ。俺もそうする。魔術士への伝達は任せたからな?魔術士長殿………俺は騎士団に行ってくる」


「了解した。護衛騎士団長殿」


互いの拳を打ちつけて別れると俺達は別々の方向に向かって歩いた。

俺は、胸元に着いている徽章を引き剥がし装飾として飾られている石を左に捻った。

これで、団長達に緊急招集の伝令が飛んだはずだである。鍛錬場の横にある会議室に向けて俺は歩みを早くした―――。


やっと八割がた主要人物の名前がでてきました。

もっと早く書けるといいんですが………(汗



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