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夢の狭間

身体は手に入れた。アーナを取り戻すための大事な器だ。さぁ、再び異界への扉を開いてアーナを救い出すのだ。器はアレにしようと決めた。年の頃も丁度いいし、あの色が一番アーナに似ている。

そうすれば永遠に君は僕のもの。



          ※          ※           ※



フィアの様子がおかしい。急に落ち込む事が多くなった。講義にも身が入らなくなり些細なミスが多くなる。皆で理由を問いただしてみても「ごめんなさい………大丈夫です」としか言わない。思い当たる節は誰にもなく、理由を聞こうと俺は城の巡回の途中や休憩時間に例の庭園の泉の畔で彼女を待った。落ち込めばそこに来ると思っていたから………でもフィアが来る事はない。そんなに誰にも知られたくないような事なのか。俺にも?そう思うと心に鉛をのみ込んだようだった。妹のように思っていた彼女に頼りにされないのが意外と堪えるらしい。ふと、ラーダと婚約する前のフィアの言葉を思い出した。


『私はルドが好き。でもあなたは夢の中に出てくる女の人が好きなのよね?ラーダはずっと私の事を好きでいてくれるって。私があなたの事を忘れるまで待ってくれるって。馬鹿よね?でもそんなラーダ嫌いじゃないんだ』


最初で最後の告白。自分は『妹にしか見れない』と言った後だった。時々夢に出てくるひとに幼いころから恋心を抱いて、自分は一生独り身で過ごすんだと思っていた。顔だって良く見えない、儚く微笑んでいるというのだけがわかる彼女かのひとはフィアに良く似た色をしていたが別人だと解っていた。名前も知らない。きっと前の世で愛したひとなのだと自分で勝手に理解して。

それなのに最近のフィアに彼女が重なる時がある。記憶が無くなったせいでお転婆な所が鳴りを潜めたからだと言うのは重々理解していたけれど………。彼女はいないのに、彼女がここにいてくれたらという願望が顔を覗かせて苦しくなる。

だから本当はフィアと距離を置きたかった。でも、それよりも心配する気持ちの方が上回る。今日こそは理由を聞こうと決めた。待っているだけでは時間が過ぎるだけだ。自分からあいに行こうとそう考えて。



           ※           ※           ※



心の想いをどうしようもないままフィアは一日を過ごしていた。今日のラーダの講義でも失敗だらけで………もう少しでシア姉様の自慢の髪を焦がす所だったのだ。最近ずっと思う事はどうすればこの想いを無かった事に出来るかどうかだった。しかし考えても考えてもルドが好きだと言う気持ちに蓋を出来そうもない。一旦自覚してしまえば坂を転がり落ちるかのようだった。

何よりラーダに対して申し訳ない。そんな罪悪感がフィアを押しつぶしそうだった。最近は夕食もあまり喉を通らず、睡眠もままならない。皆に心配しかかけていない自分。薄暗くなったバルコニーでフィアはため息を吐いた。


「何を悩んでるんだ?」


その声は紛れもなくこの件の元凶で………。フィアは思わず逃げようと身をひるがえした。


「待てよ!」


ルドがとっさに掴んだフィアの手が空に舞う。


「………あっ」


撥ね退けられたのだと解ればお互い言葉なく立ちすくんだ。


「あ………の申し訳ありません」


下を向いてドレスの裾を握りしめたフィアがか細い声でそう告げた。


「俺こそ済まない。その、おどろかせた………」


ルドはそう言いながら片膝をついてフィアの顔を覗き込む。その顔はいつか見たときのように涙に濡れていた。


「なぁ、フィア。皆心配してる。それはわかるだろう?」


「………はい」


「お前がそんなに落ち込む理由を教えてくれ。庭の木にもいえないのか?」


「い………言えません。誰にも言っちゃいけないんです」


ぽろぽろと涙が頬を伝って落ちる。ルドは困惑気味に立ち上がるとフィアを引き寄せて幼子にするように背中をそっと叩いてやった。フィアは一瞬ビクリとなったが今度は逃げようとしない。


「誰かに酷い事されたか?」


「いいえ」


「じゃあ、誰かに秘密にしてほしいって言われたとか」


「いいえ」


居心地の良い腕の中で暴れる心臓を落ち着かせながらフィアは答える。


「じゃあ何で言っちゃだめなんていうんだ?言った方が楽になるかもしれないぞ?」


「これは………私だけの問題なんです。私が一人で答えを出さなきゃならないの」


「絶対に?」


「絶対に………時間を下さい。ちゃんと元気になりますから」


そう懇願されてはもうどうしようもなかった。


「分かった。皆にもそう言っておく時間が欲しいってフィアが言ってたってな」


「はい」


ぽんぽんと頭をなでられフィアはルドにとって自分は妹のようなものでしかないのだと自分に言い聞かせる。それでも離れていくルドの体温が恋しかった。



           ※          ※          ※



夕方、彼女の事を思い出した所為かルドは久しぶりに彼女の夢を見た―――


蜂蜜色の髪に藍色の瞳。優しく微笑んでいるであろう彼女。

『※※』

呼ばれ慣れているはずのその自分の名がいつも聞こえない。耳に届いた瞬間、解れてなんの意味もなさないものになる。白い花咲く丘の上、彼女は髪を靡かせながら俺のほうに向かって来るのだ。

その時俺の心にあるのはただ愛しいと思う気持ちだけ………。

幼い時からそれが恋だと知っていた。大人になってからはそれが愛だと。でも、彼女はここにはいない。きっと世界のどこを探しても。そう思うと心が痛んだ。もしも神がいるのなら俺の夢から彼女をこの世界に………。

ルドの初恋は夢の中の人でした。

これからフィアの記憶にじょじょに近づきます。

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