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心のありか

爆炎が舞った。自分は彼女に手を伸ばす。狂おしく求めて名を呼ぶ………。なのに彼女は嫌々と首を振ってこちらには来ない。この場にいるのは二人だけ。だってそうなるように殺したから。リルアーナ。アーナ。愛している。君を君だけを。なのに何故君はこの手を取らないのか。あいつはもういない。

僕等の邪魔をするルドヴェインはもう死んだ。あぁ君は美しい。泣いている顔も、怒っている顔もすべて僕だけのものだ。アーナ。アーナあいしている。なのに………何故君はそんな目で僕を見るんだ?

狂おしく求めるこの僕に何が足りないと言うんだ!!!ルドは君を妹のようにしか思ってなかった!!

僕こそが夫として君を愛し、幸せにできると言うのに。君の蜂蜜色の髪が乱れる。藍色の瞳が信じられないと言うかのように見開かれた。桜色の唇から零れるのはかすれたコエ。


―――それでも、私はルドを愛していたわ!あなたではなく彼を!!!エルク、私はあなたの想いに答えられない。


そう叫ぶ君のコエ。僕はそんな言葉を聞きたかった訳ではない。

ルドが死んだだけでは駄目なのか………。君の心の中の奴を殺すまで?それならいっそ君を壊して僕だけの人形にしてしまおう。そうすれば、二人ずっと一緒に愛し合える。


夢から覚めて、僕は自分を取り戻した。この身体を掌握するのに随分時間がかかってしまったようだ。

記憶も随分と混乱していたようだがもう大丈夫。待っていて。僕は君を手に入れる。



      ※           ※            ※



何か怖ろしい夢を見ていた気がしてフィアは突然目を覚ました。乱れた呼吸が速い。つたい落ちた冷や汗が夜着の着心地をあまり良くない物にしていた。一瞬の混乱の後、フィアは自分が誰であるかを思い出してほうっと息を吐く。記憶を失ってから続く一人きりの儀式。おかしなもので自分がフィアであると言う事にはまだ慣れない。フィアは絹のローブを羽織るとまだ月の輝くバルコニーにそっと足を踏み出した。嫌な夢の余韻なのかまだ胸がドキドキと鼓動を刻み、形のない不安がドロドロと心を苛む。そんな孤独を一人で抱えていたときだった。


「大丈夫か?」


ここで聞こえるはずのない声を聞いてフィアは思わず顔を上げた。見れば目の前の大木に登ってルドが目の前にきていた。


「………ルド様………」


「すまん。びっくりさせたか?巡回中だったんだが、随分元気がなさそうに見えたんでな。久しぶりに登ってみた」


そう言いながら、ルドは反動をつけてバルコニーに上がる。


「久ぶり、ですか?」


「あぁ。昔良くラーダと手土産を持ってあの木から登って来てたんだ。もっと早い時間だったけどな。それでもお前は『こんな時間に何てものもってくるのよ』って怒ってたけど」


「そんな怒られるような一体、何を持ってきたんです?」


「菓子。しかも大量」


「まぁ………。ふふふ」


吃驚した事も先程の不安も忘れてフィアは笑った。ルドはいつでもフィアが欲しい言葉をくれる。


「それでいて一番多く食べてたな」


ルドがそう言ってちょいちょいと手を差し出す。フィアはその手から小瓶を受け取った。中には砂糖飴で造られた小さな花が沢山入っている。


「可愛い」


「笑うなよ?俺の夜食だ。落ち込んだりするとき女には甘いもんがいいんだろ?それやるよ」


「え?」


照れたようにそう言う顔が初々しい。先程とは違う可笑しな動悸にフィアは頬を赤らめた。そう言い残してルドは来た時と同じように身軽に木を伝って降りていく。あっという間に下まで行くと片手を挙げて手を振り巡回に戻って行った。


―――どうしよう………。


フィアは手を振り返してからずるずるとバルコニーに座り込んだ。


―――どうしよう………。私………ルド様が好きなのだわ………。


いつでも自分が一人で居たくない時に傍にいてくれる人。欲しい言葉を言ってくれる人。自覚をすればそれはストンと胸に落ちた。けど………。


―――私にはラーダ様がいるのに………。


途方に暮れてフィアはそのまま小瓶を見つめた。




          ※           ※            ※



「ラドクリフ様の行方がわからない」


そう告げられたのはまだ空が白み始めた頃だった。仮眠をとっていた所をラーダに叩き起こされ最初、ルドの機嫌は最悪だったのだがそれを吹き飛ばすほどの事件が起こったのだと悟った。


「先程、王妃殿下や他の精霊術士に助けを求める水の精霊が飛ばされた。水の精霊は用件を告げる事さえ適わずに霧散。先触れにやった使い魔の情報によると賢者の塔にラドクリフ様の姿は見えず酷い惨状らしい。一緒に来てくれ」


「………行こう。ヴェンには?」


「他のものが報せに行っている」


「わかった」


そう言うとルドは素早く鎧を身につけ剣を腰に下げた。



          ※           ※            ※



塔の惨状は凄惨を極めた。まるで何かと戦ったようなその爪痕は壁に床に天井に刻み込まれている。壁に飛び散った血が、敵のものかラドクリフのものかもわからない。先に到着したルドとラーダは部屋を見渡して思わず唸る。


「ここで戦ったんだね」


「おそらくな。そして不利な状況に陥って助けを求めた、というのが妥当だろう」


割れた鏡。なぎ倒された本棚。人の力だけではどうにもできないであろう何かの爪痕。それらがラドクリフの普段整然と整理された部屋に刻み込まれていた。完全なる暴力の跡。不可思議な事にそれは部屋の中だけで、塔の階段にはいっさい傷一つない。


「ラドクリフ様程の精霊術士が………この惨状か?」


「………信じたくないね。賢者の名はそんなに軽いものじゃない。それよりおかしいと思わないかい?

階段には傷が無かった」


「つまり、最初は争って無かったってことか………」


「そう。少なくとも明け方に訪れて拒否できない、もしくは拒否しない者って事だ」


「親しい者ってことか?」


「それも、視野にいれるべきだね」


そう言いながらラーダは視線を床に落とす。ラドクリフが大事にしていた鉢植えの花が無残に踏みにじられている様子に深いため息を吐いた。


「遅くなったね。状況はどうだい?」


そう言って入って来たのはヴェンだ。


「悪いな。ラドクリフ様の行方も分からん」


「母上にお力を貸して頂いて精霊に言葉を紡いで貰おうとしたんだが、叶わなかった。今、ここは精霊が寄り付けないほど穢れているらしい」


「まさか!賢者の塔は聖域のはず………!」


ラーダの叫びにヴェンが重々しく頷く。


「ラドクリフ様が報せの精霊を送れたのも奇跡に近いらしい。」


「じゃあ、その霧散した精霊のみがすべてを語れた唯一のモノって事か」


「そうだ。塔は暫くの間封印することになったよ。周囲の精霊に悪影響を及ぼすからね。残りの四方の賢者様が集まり次第、母上がラドクリフ様の名代を勤め浄化する事となるはずだ」


ヴェンの言葉にルドとラーダが重々しく息を吐いた。


「ラドクリフ様は………」


「この状況では生存は難しいかもな。遺体が無いのはおかしいが………生きておられればあの人なら必ず連絡を寄こす。王妃殿下に心配をかけたままって言うのはあの方に出来る事じゃない」


「あぁ………しかし、敵に連れ去られたという事も考えられる。魔術士、騎士団共に少数精鋭を選りすぐり追跡に当てるように。後は城下町の件もあるからね。警戒のレベルを上げよう」


疲れたような沈黙が辺りに落ちる。だが、現状で出来る事はそれぐらいしかなかった。




          ※           ※            ※



ラドクリフが発見される事はなく一夜明けて死体が一つ増えていた。夕方になっても帰って来なかった少女は次の日の朝橋の下に隠されるようにして発見された。今までと違ったのはそこで、ただ道端に放置されていた遺体が隠されていたのは初めてだった。少女の名はエリーシャ。一週間前に15才になったばかりの少女である。そして彼女が最後の犠牲者となった。それは不気味にも唐突にその姿を消したのだ。

やっと恋愛ぽくなってきました。まだ微妙な三角ですが、

これから複雑な四角になる予定。いつ四角になるんだろう………。

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