夢だった一億円【ラジオドラマ化作品】
本作は友人に脚本化してもらい、埼玉県のコミュニティーFMナナコライブリーFM『TKSHOW!』2026年9月6日放送分で生ラジオドラマ化されました。
健太役は山田七里さん、美穂役は竹内裕美さんが演じてくれました。
いやぁ…山田七里さんの見捨てるか見捨てないか瀬戸際のダメ男の演技が上手かった…。
ツイキャスのtprostaffのアカウントに残っているかな?
午前五時。
真壁健太は、いつものように眠そうな顔で家を出た。
38歳。IT企業の営業マン。
仕事はそこそこできる。だが、近頃はすっかりやる気をなくしていた。
原因は競馬だった。
給料が入れば馬券を買い、負ければ「次で取り返す」と言う。
妻の美穂から何度注意されても、やめられない。
その朝も、健太は海沿いの遊歩道を歩いていた。
ふと、護岸の脇に黒小さなバッグが置かれているのが目に入った。
「なんだ、これ?」
持ち上げてみる。
大きさの割に異様に重い。
チャックを開ける。
中には、黄色く輝く金属の塊がいくつも入っていた。
「……金?」
全部合わせて約四キロ。
刻印はない。
純金なのかどうかも分からない。
健太はスマートフォンを取り出し、調べた。
金の相場。
一グラムあたりの価格。
四キロなら――。
「……一億円?」
健太の手が止まった。
一億円。
その数字が頭の中をぐるぐる回る。
借金が消える。
競馬で負けた金も取り戻せる。
会社だって辞められる。
「……これ、俺のものにしたら?」
健太は周囲を見回した。
早朝の海岸には誰もいない。
監視カメラらしきものも見当たらない。
「落とし主なんか、分からないだろ」
バッグを閉じる。
一度はそのまま歩き出した。
だが、数歩進んだところで立ち止まる。
「……いや」
戻る。
バッグを拾い直す。
そして、また歩く。
健太の顔には、いつもの疲れが消えていた。
「一億だぞ。一億」
誰に言うでもなく呟く。
「これがあれば、もう働かなくていい」
そう思った瞬間、胸の奥が高鳴った。
ところが――。
家に帰る途中、健太は急に足を止めた。
「待てよ」
自分が今やろうとしていることに気づく。
拾った金を、そのまま自分のものにしようとしている。
「……これ、ヤバくないか?」
だが、すぐに別の考えが浮かぶ。
「でも、誰も見てない」
健太はまた歩き出した。
頭の中で、一億円の使い道を考え始める。
借金を全部返す。
車を買う。
マンションを買う。
競馬は……もう少しだけ。
「いや、競馬はやめよう」
そう言いながら、すでに大きな競馬場の映像が頭に浮かんでいる。
家に着く。
「美穂!」
「何?」
「ちょっと見てくれ」
バッグを開ける。
美穂は金塊を見た。
「……何これ」
「純金だと思う」
「刻印は?」
「ない。でも、調べたら4キロで一億円くらいになる」
美穂は健太の顔を見た。
その目が、完全に変わっている。
「これ、どうするの?」
健太は少し間を置いた。
「……俺のものにする」
美穂はため息をついた。
「あのさ…警察に届けよう」
「なんで?」
「落とし物だし、それにアブナイ筋のものだったらどうするの?」
「でも、落とし主が出てこなかったら?」
「それでも」
「一億だぞ?」
「だから何?」
健太は黙った。
美穂はバッグを閉じた。
「あなた、今もうダメになりかけてる」
「俺は大丈夫だよ」
「大丈夫な人は、拾った一億円をネコババしようなんて考えない」
その言葉が胸に刺さった。
だが健太は、まだ諦めていなかった。
その夜。
健太は眠れなかった。
一億円のことばかり考えている。
「どうすれば自分のものにできる?」
「誰にも知られなければ……」
そんなことを考え続けているうちに、いつの間にか眠っていた。
翌朝。
健太は深く眠っていた。
美穂はベッドの横に置かれたバッグを見た。
そして、静かに決意した。
「……この人には、持たせちゃいけない」
美穂はバッグを持って家を出た。
警察署へ向かう。
拾った場所、時間、金塊の状態。
すべて正直に説明して、拾得物として届け出た。
そして帰宅した。
昼過ぎ。
健太が目を覚ました。
「美穂」
「なに?」
「金は?」
「金?」
「昨日俺が拾った金塊だよ。一億円分の」
美穂は平然と答えた。
「知らないよ!」
「え?」
「夢でも見ていたんじゃない?」
「いや、そんなわけ……」
「そんな金塊なんて、うちにあるわけないでしょ」
健太は頭を抱えた。
確かに拾った。
家に持ってきた。
美穂にも見せた。
だが、妙に記憶がぼんやりしている。
「……夢だったのかな」
美穂は答えなかった。
その日から、健太は変わった。
一億円を拾った。
そして、それを自分のものにしようとした。
そのときの自分が、ひどく醜く思えた。
「俺、このままだと本当にダメになる」
競馬をやめた。
借金を整理した。
朝もきちんと起きる。
仕事にも精を出す。
これまで適当に済ませていた営業も、真剣に取り組むようになった。
一年後には、社内でも「あの真壁が」と言われるほど仕事熱心になっていた。
美穂は、その姿をずっと見ていた。
その一方で、警察では落とし主の捜索が続いていた。
しかし3か月経っても、持ち主は現れなかった。
法定の手続きを経て、拾得物は美穂のものになった。
金塊は適正な手続きを経て売却された。
約一億円。
そこから一時所得である2260万円の税金を納める。
残った7740万円。
美穂は、それを全額定期預金にした。
そして一年後。
仕事から帰った健太は、いつものようにスーツを脱いだ。
「明日も朝早いから、もう寝るよ」
「健太」
「ん?」
美穂が一冊の通帳を差し出した。
「これ、見て」
健太は何気なく受け取った。
残高を見る。
「……7740万円?」
顔を上げる。
「何これ?」
「あなたが拾った金」
健太の顔が凍った。
「……え?」
「一年前、海で拾った4キロの金塊」
「……あれ?」
「夢じゃないよ」
健太は通帳を握ったまま、呆然とした。
「じゃあ、あのとき俺がネコババしようとしたのも……」
「本当」
「お前が警察に?」
「あなたが寝てる間に」
「で、俺が聞いたら……」
美穂は笑った。
「『知らないよ!夢でも見ていたんじゃない?』」
健太はしばらく黙った。
そして、頭を抱えた。
「……俺、完全に騙されてた」
「騙したんじゃない」
「じゃあ何?」
「一年間、ちゃんと働いてもらったの」
健太は通帳を見る。
7720万円。
「税金は?」
「一時所得分の税金として2280万円。ちゃんと私の所得として支払った」
「そっか……」
健太は椅子に座った。
「俺、一億円拾ったら人生終わってたかもしれないな」
「だから届けたの」
「でも、俺が一年間働いたのは……」
「夢だと思ってたからでしょ?」
健太は苦笑した。
「……夢にしては、ずいぶん現実的だな」
「でしょう?」
健太は通帳を美穂に返した。
「これ、どうする?」
「あなたが決めていいよ」
健太は少し考えた。
「定期のままにしよう」
「いいの?」
「うん」
そして笑った。
「あの金塊を拾ったとき、俺は会社を辞めようとした。でも今は、仕事が結構面白い」
美穂も笑った。
「じゃあ、これからも働く?」
「もちろん」
翌朝。
午前五時。
アラームが鳴る。
健太は一度で起き上がった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
海沿いの道を歩く。
一年と少し前、ここで四キロの純金を拾った。
あのとき、健太はネコババにしようとした。
もしそのまま持ち続けていたら。
きっと、自分の人生は変わっていた。
悪い方向に。
だが今、7740万円は銀行に眠り、年1%の利息を生み続けている。
そして自分は、毎朝会社へ向かっている。
健太は海を眺めながら、小さく笑った。
「……美穂のほうが、一枚上手だったな」
朝の海風が吹く。
健太は振り返らず、駅へ向かって歩いていった。
1億円分の金塊を拾い落とし主が現れず、所有権移転すると一時所得扱いされ、1億円(拾得物の価値) - 0円(経費) - 50万円(特別控除) = 9,950万円となり、その半分である4975万円に所得税45%と住民税10%がかかり大体このくらいくらいかな…という金額。
しかし…税金高いなぁ…(笑)




