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10.3 黒き騎士


 さて、俺vs王国最強の黒騎士の闘いは始まった。


 一撃与えれば勝ちと言われても、黒騎士のリンさんの構えの隙のなさに俺は絶望感を(いだ)く。


 以前、王家に仕える執事のギルさんの試験を受けた時も隙のなさには絶望感を抱いた気はするが、王国の方々はちょっと強過ぎると思う。


 まあ、そんな愚痴を言っていても何も始まらないので、先手必勝、とりあえず俺は仕掛けてみる。


「〈S3〉」


 俺は「収納の腕輪」から剣を1本取り出した。その名も「烈火の剣」。俺が帝都の鍛治職人のサムさんから買った6本の剣の1つで、剣の中央に埋め込まれた赤い棒状の魔水晶と何とも言えないダサいネーミングセンスが特徴の剣だ。


 俺がその魔力を込めると剣は炎に包まれた。そして、大きく振りかぶって、振り降ろすと同時にさらに魔力を込める。


 すると、炎の剣は何倍もの大きさになってリンさんへと襲いかかる。リンさんの身体が覆い隠れるほどの巨大な剣はその(ほとん)どが炎であり、もはや剣で斬りかかっているというよりは炎の塊を叩きつけていると言うような感じだ。


 しかし、その剣の形をした炎の塊はリンさんに当たることなくパックリと2つに分かれた。


 裂けた炎の間から姿を見せたリンさんの右手にはレイピアが握られていた。


 嘘だろ、炎まで斬るのかよ。


「〈S3〉、〈S1〉」


 たまらず俺は武器を持ち替える。炎が斬られてしまうのであれば、「烈火の剣」を使い続ける意味はない。すかさずいつもの「両断の剣」に持ち替える。


 あの細いレイピアであれば簡単にへし折れるだろう。


 俺は力の限りを尽くして、剣を水平に振り抜く。


 しかし、その剣もレイピアによっていとも容易(たやす)く弾き返されてしまった。


 その細いレイピアでどうやって弾き返すんだよ…。


 その後も俺が何回か攻撃を繰り出すも全て避けるか弾かれるかでリンさんに当たることはなかった。


 魔法の剣もダメ、剣もダメ、となった以上、剣と魔法で戦うしかない。俺ができる最大限の手数と手段を用いて相手の隙を生み出すしかない。


 いや、本当にルール変更してくれて良かった。当初のルールだったら、(まばた)きの間に終わってただろう。


 貴族さんがルールに口を出した時、「舐めんな、クソ貴族」とか思って本当にすいませんでした。


 熱い手のひら返しを終えた俺は早速、「烈火の剣」を追加で再び取り出す。右手に「両断の剣」、左手に「烈火の剣」の二刀流だ。まあ、利き手ではない左手で構えた「烈火の剣」では剣としての役割は果たせないので、実質炎を噴き出すための道具だ。


 俺はリンさんへと突っ込み、先程と同様に左手の巨大な炎の塊をぶつける。


 当然リンさんも同様に覆いかぶさってくる巨大な炎の塊を斬り裂いて対応する。


 炎の裂け目からリンさんの姿が見えた瞬間、俺は間髪入れずに右手の「両断の剣」を右上から振り下ろす。


 リンさんはその一撃を弾き返そうと炎を斬り裂いた勢いそのままに、俺の刃の通り道にそっとレイピアを添えて待ち構えた。


 されど、リンさんのレイピアに俺の剣が触れることはなかった。


 俺の剣はリンさんのレイピアを()()()()()


 そう、「ミラージュ」、相手に自分の位置を誤認識させる魔法だ。


 先程ぶつけた炎の塊はただの目隠しだった。俺の姿が見えなくなった一瞬の隙にミラージュの魔法を使うための。


 俺にかかっていた「ミラージュ」の魔法は解けて、実像の剣が(あらわ)になる。このままの軌道で進めば、リンさんの肩、そこを覆う鎧に剣はかすめるだろう。傷は残らなくても、一撃は一撃だ。俺の勝利は確定した…


 かに思われた。リンさんは剣の実像が露になるよりも速く、その剣筋を見切りレイピアを構えなおしたのだった。


 策に(まみ)れた俺の一撃を、リンさんは純粋な力と技で弾き返した。


 渾身(こんしん)の一撃を弾かれた俺は一歩二歩と距離を取るように下がった。


 すると、リンさんはバッと駆け出して距離を詰めてきた。先程まで防戦一方であったリンさんが突然近付いて来たため、俺は驚いて反射的に魔法を使う。


「《カーム》」


 俺は自分の周囲に風の壁を作り出す。


 なぜいきなり攻撃を始めたのか、その問いに対する答えを探す暇を俺に与えることなくリンさんの攻めは続く。


 リンさんは前方の空中に向けてレイピアを突き出したかと思うと、その(きっさき)を円を描くように動かした。そして、描いた円の中心にレイピアを突き刺し、釣竿(つりざお)で魚を釣り上げる時のように後方へとレイピアを振り抜く。


 周囲の人から見れば何をしているかわからないかと思うが、リンさんと相対している俺にはその行動が俺の作った風の壁を()り抜く所作であることだとわかった。


 鉄の硬度を持つ分厚い風の壁をリンさんはいとも容易(たやす)()り抜いたのである。


 風の壁を()り抜いたリンさんは俺に逃げる隙を与えず、レイピアを俺の喉元(のどもと)に突き付けて言った。


「あなたは大概の攻撃手段を試したとお見受けいたします。もう実力差は明らかでしょう。降参してはどうですか?」


 なるほど、理解した。俺の全ての攻撃を防ぎ、俺の防御を打ち砕く。そうして俺を降参させようという腹か。だから、唐突に攻撃を仕掛けてきたんだな。


「いや、まだです。俺はまだ諦めません」


「そうですか。では、かかってきてください。あなたには勝ち目なんてない、それをご理解いただけるまでとことん付き合いましょう」


 リンさんは俺に突き付けたレイピアを俺の喉元(のどもと)から退()かすと、2・3歩下がってレイピアを構えなおした。レイピアを構えるリンさんの真っ直ぐな瞳は、俺がどんな策を(こう)じようが、真っ向から挑もうが打ち砕いてみせる、と言わんばかりの意志を強く伝えているようだった。


 さて、諦めないと宣言したものの、実際のところ万策(ばんさく)は尽きている。全力の一撃が効かないことは先程の攻防で明らかだし、俺の得意とする不意打ちはネタが割れているし、そもそもああやって気を張っている相手には通じない。


 考えあぐねている俺の頭はふと彼女についての情報を思い出す。


 あれ?そういえば、彼女は異能を何1つ持っていないんだよな。それなのに炎を斬れるほどの腕前を持っているのってどうなんだ?だいぶ若いから剣を極めたって言うのもなかなかに無理がありそうだし。


 疑問を確信に変えるために俺は2本の剣を左手で持つ。


「〈S7〉」


 そして、「分析の片眼鏡」を取り出した。


 すると、案の定彼女の魂には名前が刻まれていた。


 Knight、騎士ね。


 つか、ステータス低いな。平均したら70くらいか?それなのにあの機敏な動きか。


 事実と分析結果の齟齬(そご)からKnightの効果を推測した俺は即座に行動に移した。


「〈S1〉、〈S3〉」


 俺は「両断の剣」と「烈火の剣」を腕輪へと収納し、右の掌をリンさんにかざして魔法を使う。


「《ウインドナイフ》」


 唐突に放たれた魔法に刹那の焦りを見せたものの、すかさず風の刃をレイピアで切断するリンさん。


 レイピアは切断よりも刺突のための武器だろうに。


 まあ、当然斬られると予想はしていたので、ここまでは俺の想定通り、俺はそのまま次の行動に移す。


 俺は魔法を使うためにかざしていた右の(てのひら)をまるで平手打ちでもするかのようにレイピアの先端めがけて振り抜く。


 当然俺の右手にはレイピアが突き刺さった。


 さしものリンさんもこれには驚いたようで単純な疑問を投げかける。


「な!何をしているのですか!?自ら(きっさき)に掌を突き刺すなんて!?」


「確実性を追求した結果です。〈S0〉」


 リンさんのレイピアは俺の腕輪の中へと収納された。


「細剣が消えるなんて…」


 心の支えを失ったかのような顔をしているリンさんの耳元で俺は(ささや)く。


「剣がないと実力が発揮できないんですよね?」


「どうして それを!?」


「無抵抗な女性に攻撃なんてできないので、降参してくれませんか?」


 俺の提案にリンさんはコクリと(うなず)く。


 そして、リンさんの降参で勝負は終わった。


―――


 俺達がパーティー会場へと戻ると、いきなり国王に拍手で出迎えられた。


「素晴らしい!ヒイラギ・ケンよ。有利な条件だったとは言え、よくぞ黒騎士に勝てたものだ。褒美(ほうび)に好きなものを何でも1つやろう」


 王国には何も期待していないので、何もいらないんだが、断るのも失礼だし適当なものでも貰っておこう。


「そうですね、強いて言えば、10人ぐらい立てる程度の広さ土地に建てた小屋が頂ければ嬉しく思います」


「何、そんな物で良いのか?小さな小屋を何に使うかはわからないが、望むのであれば与えよう」


「ありがとうございます」


 まあ、欲しい理由はテレポート用の魔法陣を描くためなんだけど、話したら面倒なことになりそうだから、聞かれないうちは言わなくても良いよな。


 その後、貴族達の視線が痛かったものの、パーティーは表面上恙無(つつがな)く終わった。

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