6.3 カレンvsブリリアント宰相
俺と将軍と戦い、ジンが兵士達と戦っている丁度その頃、カレンはブリリアント宰相と対峙していた。
「わしの相手は小娘、お主か。見たところ魔法使いのようじゃが、わしの実力を理解しておるのかね?」
「ええ、もちろんわかっています。帝国の宰相は智と魔法の才に長けた者が付く地位ですから、相応の覚悟を持って この場にいるつもりです」
「ほう。要は、わしの実力を理解したうえで立ち向かうという事か。随分と無謀なことをするのぉ」
「戦う前に1つ教えてください」
「なんじゃ?」
「あなた達はなぜ戦争を起こそうとしているのですか?」
「何かと思えば、つまらないことを聞くのぉ。行動を起こす理由なんて金に決まっておるじゃろう?わしは長い年月をかけて帝国中 全ての武器等の戦闘必需品の販売経路を抑えたのじゃよ。要は、後は戦争さえ起これば莫大な金がわしに入ってくる状態なのじゃよ。それなのに帝王ときたら終戦をするなどと抜かしおった」
「それで将軍と手を組んで帝王を討とうとしたと…」
「手を組んで?それは少し違うのぉ、わしが今回の件の全てを指揮したのじゃ。それこそ、将軍を焚きつけるところから全てのぉ。あの脳まで筋肉で出来たような将軍はわしにとって最高とも言えるほど都合の良い存在でな。今回の計画のために利用させて貰ったのじゃよ」
「どういうことですか?」
「ふむ、わからんか。今回のような形で帝王を討つためには味方の兵だけを玉座の間に配置する必要があるが、兵士達を味方に付けるために必要な戦士としての魅力や兵の配置を決める権利を将軍は持っているのじゃよ。それだけではなく、将軍が新しい帝王となれば、わしが帝国を裏から操るのは容易いからのぉ」
「全てはあなたの手の上という事ですか…」
「要は、その通りじゃの」
「では、あなたを倒せば この計画は頓挫するわけですね」
「その通りじゃが、無理じゃよ。お主じゃわしを倒せんよ」
「いえ、勝負はやってみなければわかりませんよ」
「要は、勝負にならないと言っているのじゃよ。まあ数個でも魔法を使ってみれば、すぐに明らかになるがのぉ」
「では、お言葉に甘えて、《突き刺す光の槍――「《消える無の波 ロスト》」
カレンの詠唱に重ねるように宰相は魔法を使った。その瞬間、カレンによって作られた光の槍は消え去った。
「危ないのぉ、まさかそこまでの魔法が使えるとはのぉ。ん?愕然としておるがどうかしたのかのぉ?ふむ、わかったぞ、何故わしが反応できたのか不思議なのだな。いや、もしくは、わしが何をしたのかわからないってところかのぉ」
宰相の推測はカレンの思考を正確に言い当てていた。
カレンが放った魔法は彼女が使える中で最速の攻撃魔法だった。ゆえに反応される事など思ってもみなかったのだ。しかし、この事に関してはカレンが浅はかであったとしか言えない。彼女が相手をしているのは帝国の宰相、魔法の知識は帝国一だ。つまり、詠唱だけで相手の魔法を判別し、対処する事など造作もないのである。
だが、もう片方、宰相が魔法を消し去った方に関しては、カレンには何の落ち度もない。カレンの魔法の知識はまだ一般人が知ることのできる領域に過ぎず、その中には相手の魔法を消せるような魔法は存在しなかった。ゆえにこれは宰相の実力を褒めるほかないのである。
「《降り注ぐ鉄槍の雨 ニードルレイン》」
カレンが魔法を使うと、上方に多数の巨大な針のような槍が生み出され、地面、そして宰相めがけて降り注いだ。
「効かぬよ、《消える無の波 ロスト》」
しかし、これらの槍も空中で消え去ってしまった。
「無駄じゃよ、『ロスト』の魔法を習得している わしに魔法は効かぬよ」
「どうでしょうね、まだわかりませんよ。《切り裂く風の刃 ウインドナイフ》」
「《消える無の波 ロスト》、無駄じゃよ」
またもカレンの魔法は消される。
「《切り裂く風の刃 ウインドナイフ》」
「《消える無の波 ロスト》、無駄じゃと言っておろう!」
「《切り裂く風の刃 ウインドナイフ》」
「《消える無の波 ロスト》。なるほどな、お主の狙いはわしの魔力切れじゃな。確かに、『ロスト』は消し去った魔法に必要な魔力と同量の魔力を消費するからのぉ。『ロスト』の魔法の対策としては正しい、満点じゃ。だが、それは相手がわしでなければの話じゃがの。わしの魔力は常人の5倍じゃ。要は、5人掛かりでようやく わしと対等という事じゃ。さらに言えば、わしは『使用魔力量削減』を超能力として持っているのじゃよ。要は、わしを魔力切れにしたければ、7人で戦う事じゃな。どうかしたかのぉ?さっきから反論の1つも言わぬが、絶望でもしたのかのぉ?仕方がない事じゃ、わしの実力を正しく理解してしまえば、立ち向かおうなど思えるはずがないのじゃからな」
「《敬虔なる神の使徒よ 聖なる炎でもって悪しき存在を焼き払え 神による大いなる断罪 ウィッチトライアル》」
「なんじゃと!《塞き止める水の壁 ウォーターウォール》」
カレンが魔術を使うも、宰相は水の壁で自身を包んで炎を消すことで燃やされず、十字架にかけられただけで終わってしまう。その十字架もすぐに崩れる。
「まさか魔術を使う、いや使えるとはのぉ。確かにこれもまた『ロスト』の魔法の対処としては正解じゃよ。だが、その魔術が良くなかったのぉ。要は、炎では水には勝てないという事じゃな。ふむ、とはいえ魔術まで使える魔法使いとはのぉ。ここでわしと戦わなければ功績を残すこともできたであろう。そうじゃな、お主には敬意を表して最新の魔法でとどめを刺すとしよう」
「最新の…魔法、ですか?」
「ああ、そうじゃ。研究所で開発された魔術に近い魔法じゃよ。魔法の使用量に応じて威力が上がるのじゃ。まあ、自分の身で体感すればわかると思うがの。《燃え盛る業火の球 メテオ》」
そう宰相が唱えると、宰相の頭上には直径4m程のさながら小さな太陽の大きな火炎の球体が生み出され、カレンの方へゆっくりと向かっていった。
「これがわしの全力じゃ。わしに全力で殺されたことを誇って良いぞ」
しかし、その球体は突如として消えてしまった。
「お、お主、何をした!?」
「何って、『ロスト』ですよ。あなたが教えてくれたんですよ」
「何じゃと!?『ロスト』を使ったとでも言うのか!先程の魔法にはわしのほぼ全ての魔法を使ったのじゃ。常人の3倍の魔力を込めたのじゃぞ、打ち消せるはずがない!そもそも、ついさっき見たばかりの魔法が使えるわけがないじゃろう!」
大声を張り上げた宰相は息を切らしながらカレンを鋭く睨む。
「仕方ないですよ、できてしまうんですから」
カレンの言葉を聞きながら、宰相は息を大きく吸って吐く。
「ふむ、わかったぞ。お主は はったりでわしを煙にまいて、精神的に優位に立とうとしたのじゃな。まんまと引っかかるところじゃった。お主とんだ狐じゃのぉ」
「現実を直視できないって不憫ですね。では、これで証明しますよ。《燃え盛る業火の球 メテオ》」
カレンの頭上には直径20cm程度の炎の球体を生み出した。宰相が先程生み出したものをと比べて、大きさは随分と小さいが、その炎は深い赤色でまさしく紅蓮と呼ぶに相応しかった。
「ふ、その程度の大きさの炎の球が『メテオ』とな。100歩譲ってお主が『メテオ』を使えているとしよう。だが、その大きさ、お主の魔力もほとんど残っていないと見える。要は、それには魔力がほとんど込められていないという事じゃ。ならば、残り少ないわしの魔力でも充分に消すことができる。《消える無の波 ロスト》」
しかし、カレンの頭上にある炎の球は消えなかった。
「《消える無の波 ロスト》。《消える無の波 ロスト》!な、なぜじゃ!?なぜ消えない!」
そして、その炎の球は宰相へと向かっていき、宰相の身体に当たると同時に宰相を炎で包んだ。
「ぐ、ぐわぁ、全身が燃えるっ!」
「この魔法の全てを知っているわけではなかったんですね。私は大きさの代わりに炎の温度に魔力を使ったんですよ。大きくしてしまっては、この城ごと燃えていまいそうですからね」
カレン、そして燃え盛る宰相の元へ、俺とジンが駆け寄った。




