6.1 帝王の御前にて
ジンとの出会いからも旅は続き、ようやく今日 帝都であるギャリットに到着した。
エーシャア王国の整備された道を進んでいた時とは違い、森などの獣道を多く進んでいたため、道中は やはり獣などに襲われたものの、ジンとイルさんの協力もあって ほとんど苦戦することはなかった。
何と言ってもジンが強い。数匹の獣であれば瞬きをしている間に片が付いている。また、イルさんも強く、素手にも関わらず拳は岩をも穿つほどであった。
「それでケン、帝都に着いたけどどうするんだい?すぐに城に向かうのかな?」
「そうだな、とりあえず城に向かうとしよう」
「了解了解」
―――
帝都ギャリットは王都ヤポンとは雰囲気がまるで違った。帝都は半島にあるため、3方向を海に囲まれている。そして、その半島にある街に人為的に水路が造られている。このような帝都の街並みは元の世界にあった水の都・ヴェネツィアのようであった。ただ、水路に小舟は浮かんでいないし、区の境目の水路では水面から岸までの高低差が大きくなるような造りになっているなど違いは多々あった。
帝都はやたらと関所が多く、陸続きになっている街の入り口の外来区から商業区、人民区、上等人民区、貴族区を通り、ようやく城の前に到着した。この層のように区画が並んでいる区分けは防衛しやすくするための工夫らしい。
城もまたセキュリティの高い造りになっていた。孤島のようなところに城があり、その城の周りの海には壁がそびえ立っていて、海からも陸からも侵入できないようになっていた。
そのように城は孤島にあるため、城に入る際は城から桟橋が降りてこなければ入ることができない。当然、俺達は依頼で来ているため、身分が証明され次第 城に入ることができた。
城に入った俺達は玉座の間に案内された。玉座の間は入り口から玉座へと赤いカーペットが敷かれていて、そのカーペットの両脇には剣と鎧を携えた80人程の兵士達がずらりと並んでいた。うっかり無礼な行いをした暁には滅多刺しにされるのではないだろうか…。
「君達が王国の使いか。書状を受け取ろう」
帝王は国王に比べると圧がないな。とは言え、一国の王だからそれなりの威厳はあるがな。ふくよかで優しい雰囲気の帝王がそう言うと宰相のような年老いた男性が近付いて来たので、俺はその男性に書状を渡した。
ちょうど俺が書状から手を離した瞬間、玉座の間の大きな扉が勢い良く開いた。
扉が開く音に驚いて振り返ると、頑丈そうな鎧を身に着けた筋肉の塊のような男が数十人の兵士を引き連れて玉座の間へと入ってきていた。先頭を歩く男の鎧が兵士達と異なっている事から、その男の役職の高さが伺えた。
「ストロング将軍、来訪者の対応中であるぞ」
筋肉質の男は「ストロング将軍」と呼ばれていたので、役職が高いという俺の読みは当たっていたようだ。
「申し訳ございません。至急お伝えしたいことがございまして」
「何だね?」
「帝王の座を譲って頂きたい」
将軍がそう言い放った瞬間、甲高い金属音が玉座の間に響き渡った。
「オレの目の前で暗殺なんてできると思わないで欲しいね」
「どういう事だ、ジン」
「あの将軍は今、帝王を暗殺しようとしたのさ。生憎、隠れていた暗殺者が放った毒の吹き矢はオレが弾き飛ばしたけどね」
「ああ、そうだ。そこのバカが私の邪魔をしなければ、帝王は今頃 地に伏していた事だろう」
本性を現したからか俺達に対してだからかは定かではないが、将軍の口調からは少し傲慢さが感じられた。
「でもよ、暗殺に失敗したよな。それもこんなにも大勢の前で。これからどうなるかなんて俺にもわかるぜ」
俺が指摘すると将軍は静かに笑い始めた。
「ふっ、やはり冒険者は考えが浅はかだな。ここにいる者はお前達4人と帝王を除けば、全員 私の味方なのだよ。一国の王を暗殺するのだ、これくらいの準備は当然するに決まっているだろう?」
俺だって1人で暗殺を企ててはいないだろうと思っていたので将軍側の人間が少しはいると考えていた。しかし、俺が想定したよりのかなり多かった。まさか全員とはな。
俺と将軍が睨み合っていると、またも玉座の間に金属音が響いた。
「だから、オレの前で暗殺はできないって」
音のなった方を振り返ると、帝王の横に控えていた宰相が右手を抑えていた。宰相の足元にはナイフが落ちている。
将軍は俺達と帝王を除いた全員と言っていた事を踏まえれば、確かに宰相も将軍の味方というになるが、そこまで思い至らなかった。ジンがいなければ帝王は死んでいただろうな。
「それで冒険者よ、どうするつもりなのだ?帝国の力の頂点に立つ私と智の頂点に君臨しているブリリアント宰相、そして120人の兵士達に挑んでみるかね?おっと、安心したまえ。私は次期帝王となる男だ。今 逃げ出すというならば見逃してやろう。さて、お前達はどちらを選ぶのだ?」
「俺は…」
どうする、将軍の言う通り逃げ出すなら今だ。この人数を相手に俺達だけで戦っても勝算はないに等しいだろう。そんな事 考えるまでもない。だいたい帝王だってさっきあったばかりの知らないおっさんだ、言ってしまえば恩義も情もない。さらに言えば、帝王の事どころか この国の内情だって全く知らない。実は帝王が悪で、将軍達がクーデターを起こして正そうとしているのかもしれない。
そう考えていた時、俺の脳裏にイルさんとの会話が浮かんできた。
「早く選びたまえ。私の、次期帝王の時間を奪うつもりかね?」
「俺は、この帝王がエーシャア王国とエウロメ帝国の関係を友好なものにすると思う。だから、帝王をここで失うわけにはいかないな」
「ほう、逃げずに私達に挑むというか」
「ああ、俺はここで戦う!」
「この状況で私に歯向かうとは やはりバカか」
「まあ、良いではないか、ストロング将軍。逃げないのであれば、それを利用するだけじゃよ。そうじゃのぉ、わしらが民衆に話す内容はこうじゃ。『エーシャア王国からの使者である冒険者共が帝王に襲いかかった。我々も必死で冒険者共を抑え込んだものの帝王は殺されてしまった』。どうじゃ、なかなかに良くできた話であろう?民衆が この話を聞けば、強大な敵意がエーシャア王国に向くことは間違いないぞ。要は お前達 冒険者がエーシャア王国滅亡の火種というわけじゃの」
「流石はブリリアント宰相。そうなれば、私達の計画は想像よりも速く進行するわけですな」
好き勝手言いやがって。確かに俺達の勝算はないに等しいが、絶対に負けるわけじゃない。大丈夫、俺は天才だ。こんな所でゲームオーバーになるわけがない。
「ケン、こんなにも劣勢なのに立ち向かっていくなんてオレでは考えもしないよ。まあ、だからこそオレはキミと旅をしたいと思ったんだけどね。それでケン、ここからはどうするの?」
「そうだな…」
俺はジンとカレン、イルさんにそれぞれの役割を伝える。
とりあえず、ジンは兵士達と、カレンは宰相と、そして俺は将軍と戦うことになった。イルさんは帝王の護衛だ。
かくして、2つの国の未来は俺達に託された。




