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5.4 ジン・クロス


「あ、ごめんごめん。正しく言うなら暗殺者だね。今までは依頼を受けて、人を暗殺していたんだよ」


 そう述べるジンの口調と声は、やはり内容とは裏腹に明るいものであった。


 確かに あの目で追えないほどの素早い戦闘スタイルからして暗殺者と言われても不思議ではない。相手の視界の外から音もなく一瞬で殺す。むしろ暗殺者と言われて納得した。


「それで、なんで暗殺者を辞めた奴が俺達のパーティに入りたいなんてことになるんだ?」


「オレは記憶があるような歳には既に路上に住む孤児でね、幼少の頃からつい最近まで毎日のように依頼されてきたんだ。別に殺してきた人には恨みはないよ。ただ誰かに依頼されたから殺しただけだからね」


「待て、質問の答えになっていないんだが」


「まあ、聴いてよ。生憎、オレには暗殺者の才能があったらしく失敗するようなこともなくてね、それでオレは人を殺して生きていたんだよ」


「なるほどな。それならなんで辞めたんだ?」


「ある夜、夕飯を食べていたらふと思ったんだ。『オレが今日殺した人はオレが生きるために殺して良い存在だったのかな』ってね」


「今まで多くの人を殺してきたんだろう、なんで今更?」


「昔はオレも生きることに必死で『相手と自分どちらが生き残るか』みたいな状態だったから、そんな事を考える余裕もなかったのさ。だけど、最近では生活が安定してきたこともあって ふと思ってしまったんだよ」


「なるほどな。でも、やっぱり今更って感じはするよな。人は殺さないに越した事はないが、今までだって生きるために殺してきたんだから、これから殺すこともまた仕方がないと俺は思うぜ」


「うーん、なんて言ったらいいかな。人殺しに対する意味の違いかな。昔は生きるための手段が他になかったから殺していたけど、最近では他にお金を稼ぐ方法があるにも関わらずオレは人殺しを選んでいたのさ。オレは甘えていたんだよ」


「そういうことか」


「それでオレは1度『人を殺す』という事の持つ意味を考え直すために、これまで暮らしたマガンの街を出て旅をすることにしたんだ。そして、今日キミ達に会った。ケン、キミはモンスターを殺すことを躊躇っていたでしょ?」


「いや、そんなつもりはないんだが」


「じゃあ、無意識なんだろうね。キミは止めを刺すような攻撃をする時、ほんの一瞬だけだけど動きが硬くなるんだよ」


「そんな癖がついているのか?でも、今まで誰にも言われなかったことはないぞ」


「うん。だろうね。普通は気が付かないだろうからね。オレは今まで多くの人を殺してきたこともあって生き物を殺すという事に何の躊躇いもないんだよ。だからこそ、オレと真逆な躊躇いのあるキミの動きの不自然さがより一層際立ったんだよ。きっとキミと一緒なら『人を殺す』という事がどんな意味を持つのか気付くことができる気がするんだ」


「それが俺達のパーティに入りたかった2つ目の理由ってわけだな」


「そうだよ」


「それで、もう人は殺さないのか?」


「うーん、どうだろう。好き好んで人を殺すことはないけど、オレの命が懸かっていたり、キミ達を守るためなら殺すかもしれないね」


「そもそもジンの戦い方だと、殺さないのは難しくないのか?」


「そうだね。だから最近はなるべく殺さないように、対人戦の時は麻痺毒を武器に塗って使っているよ」


「確かにそれならかすり傷負わせる程度で済むな」


「うん。他に色々工夫しているけどね。ところで、今受けている依頼ってどんな内容なんだい?」


「帝王に国王からの書状を届ける」


「え?もしかして、キミ達はけっこう名の知れたパーティだったりするのかい?」


「いや、そんな事はないぞ。俺に至っては実力だってジンに劣るしな。ただ、流れで国王の依頼を受けることになっただけだ」


「王に依頼されるってだけで充分に凄いとは思うけどね。ちなみに2人の階級はどれくらいなんだい?オレは旅の前に登録したばかりだから、1番下の白階級なんだけど」


「2人とも橙階級だな」


「ええっと、橙って何番目なんだっけ?」


「3番目だな」


「なるほどなるほど。オレもキミ達の階級に追いつけるように頑張るよ」


「ああ、よろしく頼む。まあ、ジンならすぐに追いつくとは思うけどな」


 俺達は馬車に揺られながら話を続けた。


 帝国はまだ遠い。

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