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5.1 早くも旅立ち


 またもや高熱が出る例の持病が発症した。今回は1日だけだったのが幸いだった。


 そして今朝、王の使いとしてイル・イージスさんが来た。イル・イージスさんは俺より少し年下ぐらいの人で、ギル・イージスさんの兄のガル・イージスさんの次男らしい。つまり、イルさんはギルさんの甥にあたるわけだ。ちなみにガルさんは王家に代々仕えるイージス家の家長で、現国王に仕えているそうだ。


 イルさんの話を聞くと、今回の依頼にイルさんも同行してくれるそうで、帝都までの道案内や馬車の操作などで俺達を手伝ってくれるとのことだ。


 イルさんとの会話で話はまとまっていたので、さっそく出発する運びとなった。


 エウロメ帝国はエーシャア王国の西にある国で、帝都のギャリットまでの移動距離はヤポンからプカンへの旅路とは比べ物にならないほど長いらしい。イルさんは馬車を使っても2ヶ月ぐらいかかると言っていた。


 ちなみに、エーシャア王国とエウロメ帝国は1つの大陸を分かつように存在している。2つの国が存在する この大陸はエウラシャア大陸と呼ばれていて、大陸の東端に位置する街がヤポンであり、西端に位置する街がギャリットである。つまり、この間の旅路を合わせると俺達は大陸を横断することになるのだ。


 王都で新しい魔法を探すだけのはずが何故こんな事に…。


―――


 そんなわけで俺達は西への街道を進んでいる。進んでいると言っても、俺とカレンはイルさんが操る馬が引く荷馬車に乗っているだけだが。


「それにしても俺達 敵国に行くのか。殺されたりしないよな」


「ケン様、その心配はしなくても大丈夫だと思いますよ」


 イルさんは俺のことを何故か「様」を付けて呼ぶ。敬語じゃなくて良いと提案してきたのはイルさんなのだが、一方的に敬語を使い続けている。


「どうしてだ?」


「両国を治める王達はお互いに友好な関係を築こうとしており、相手の事を倒すべき敵だとは決して思われてはおりません。現に、昔は年に2回ほど起こっていた戦争も、両国が今の王になってからは1度も起きておりません」


「だが、国王は『敵国』って言っていたよな?」


「あれは公の場だからですよ。例えば、『敵国ではない』と言った言葉が紆余曲折して帝国に伝わって『敵ではない』、つまり『相手にならない』と言う意味で捉えられてしまったら どうなると思いますか?」


「帝国からしたら煽られているんだ。少なくとも関係は悪化するだろうな」


「そうです。最悪の場合、戦争になるかもしれません。また、今回 ケン様達が届けることになった書状を馬に乗った兵士が届けたとしましょう。これもまた、相手の国の民が『敵が攻め込んできた』と感じてしまったら、やはり戦争になるかもしれません」


「大袈裟じゃないか?そんなことで戦争になるんだったら既に戦争になっているだろう」


「決して大袈裟な話ではないのです。何年も戦争が起きていないからこそ、次に大きな戦争が起こると考えている者は大勢います。それだけではなく、剣や弓などの武器や防具を売っている商人や それに関わる貴族は、自分の利益のために何かにつけて戦争を引き起こそうとしています。今は両国にとって非常に敏感になっている時なのです。私達の対応が過剰になっているように見えているかもしれませんが、それも仕方がない事です」


「なるほどな。でも、戦争はしないと王が発言すれば、戦争なんて起こらないんじゃないのか?」


「違いますよ。ケンさんは、王が国を動かしていると考えておられるようですが、本当に国を動かしているのは民の意思、民意です。王が民意に大きく反した行動をとってしまえば、民達は反旗を翻して王の首を取るでしょう」


「ふむ、いまいちわからないな」


「そうですね…。ケンさんは釣りをご存知でしょうか?要はそれと同じですよ。力で魚を釣ろうとすれば糸が切れてしまい魚は釣れないでしょう。逆に魚の思うままにしてしまっても釣ることはできません。相手に動きを合わせながらも着実に自分の理想に近づけていく、これが国を治める王としての仕事なのです」


「なるほど、王様も大変だな。これじゃあ、終戦になるのがいつになるのかもわからないな」


「確かに大変な事でしょう。しかし、私は信じています。今 国を治めている2人の王が必ず両国の関係を良いものにしてくださると」


「イルさんにそこまで言わせるとは、2人の王はさぞかし素晴らしいんだろうな」


「はっ!私ばかりが話していますね。申し訳ございません」


「いやいや、面白い話が聞けて良かったよ」


「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」


 イルさんは根がまっすぐで信頼ができそうな人だな。


―――


 さて、移動中は特にやることもなく暇だ。


 いや、馬車をイルさんに任せておきながら暇と言うのは失礼極まりないのだが、とにかくやる事がない。


 今 進んでいる道は、ヤポンの側の草原にある道のような粗末なものではなく、国が綺麗に整備した道で人通りも多い。ゆえにキメラも人に危害を加えるような獣も出ない。


 少なくとも国境付近までは俺とカレンは座っているだけで問題ないだろう。


「馬車での移動中 少し手持無沙汰だな。俺達が馬を扱えたら交替して移動することもできたんだが。これが2ヶ月も続くんだろ?俺達はただ乗っているだけだし、イルさんには馬の扱いを任せっぱなしだしであまり良い行動とは言えないよな」


「そうですね。この時間を効率的に使えれば良いんですが」


「そうだ、カレン。魔法を教えてくれないか?2か月もあればいくつか魔法を覚えられるだろう」


「それ良いですね。じゃあ、何を覚えましょう。今日は攻撃に使えそうな魔法を10個くらいですかね」


「ちょっと待て、『今日は』じゃないだろう。魔法って1日で覚えられるものじゃないだろ」


「そんなことないですよ」


「いやいや、そりゃカレンは超能力的にそうだろうけど一般人は違うだろ」


「あ、確かにそうですね」


「普通 魔法を覚えるのにどれくらい時間がかかるんだろうな?カレンはわからなくても仕方がないとして、イルさんは何か知っていないか?」


「いえ、申し訳ないのですが、わかりかねますね。私自身、異能は2つの超体質しか持っていないので」


 ん?【超体質】ってなんだ?


「あ、機会がなかったのでケンさんにはまだ説明していなかったんですけど、【超体質】は超能力の亜種ですね。簡単に言えば、利益が大きい代わりに不利益も生じる超能力が超体質です。立ち位置的には魔法における魔術のようなものですね」


「なるほどな。それでイルさんはどんな超体質を持っているんだ?」


「相手の魔法攻撃による損傷を4分の1にする代わりに物理攻撃による損傷を2倍にする『魔法超耐性』と、相手の物理攻撃による損傷を4分の1にする代わりに魔法攻撃による損傷を2倍にする『物理超耐性』です。2つ合わせると魔法と物理の攻撃の損傷が2分の1になりますね」


「すごいな。ちなみに戦闘の時にはどんな武器を使うんだ?」


「いいえ、武器は使いません。護衛等の都合上、武器が持ち込めない事もあるのでイージス家の者は皆 己の拳でもって戦います」


 なるほどな。ギルさんも素手で戦っていたな。


「素手が武器か。確かにギルさんも強かったしな」


「叔父は強いですね。私の父も相当強いですが、叔父こそが現イージスにおいては最強でしょう」


「強いとは思っていたが そこまでとはな」


 そんな感じの話をしている間に魔法を教わる話など完全に忘れてしまい、ひたすらに道を進む馬車に乗りながら話をして その日は終わった。

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