条約
【蓋亜研究基地・戦術室】
薄暗い照明の下、ホロ地図に赤い光点が瞬く。
鍾美美は疲れきった足取りで敷き詰められたダイヤのウィッグを脱ぎ、肩を揉む。
背後では昇格したRosetta兵たちが、まだ星塵の灰を落としながら報告を続ける。
「部長、本日七拠点回りました。デイビス角の火砲は部品不足、深草旅店の補給線は変異体に再襲撃、検測点266の通信列は信号が不安定です!」
青筋弟弟がタブレットを片手に怒鳴り、古いプロテインバーを噛り砕く。
鍾美美は呆れたように眼を剥ぐ。
「うるさいわね! あんたの声の方が星塵汚染より毒性よ。帰ったら内向張張に菊花茶淹れさせなさい!」
笑声が少しだけ空気を和らげる。
だが彼女の胸の内は逆巻いていた。
現実世界ならソファでNetflix、母親と瓜子をかじり、友達と火鍋――そんな日常がここでは遠い夢。
自室に戻り、ドアに鍵を掛け、枕に顔を埋めて涙が染み出す。
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【同夜・基地研究室】
項漂亮は異常物収容箱の設計図を睨み、髪をかきむしる。
「プラズマ遺伝子抽出器に星塵転化槽……前の時間線では確かに組んだのに!」
記憶の断片が星屑のように散りばまる。
床に落ちた水鑽の髪留めを蹴っ飛ばす。
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【翌晩・波光鎮市場】
朝霧と共に市場が目を覚ます。
鍾美美は「ちょっと気晴らしに行くわ!」と項漂亮を引っ張る。
「火焔大巫师がまた占いバー開いてるかも!」
露店に廃鉄と缶詰、そして隅に座る老法师。
項漂亮は胸が騒ぐ――旧時間線で“出生遅れ”を責められた記憶がフラッシュバック。
だが大巫师は軽く会釈するだけ。
「項博士、靴が輝いている。廃土を踏むのは惜しくないか?」
――やはり“初対面”のこの時間軸。項漂亮は安堵し、苦笑い。
一方、鍾美美は興奮して袖を引っ張る。
「先生、私の運勢は?」
小声で何やら耳打ち。
帰路、項漂亮が「何を話したの?」と尋ねると、
鍾美美は肩をすくめ。
「縁のことよ。あんたには関係ないわ。」
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【基地に戻り】
蜉蝣は戦術ベストを磨きながら
「民間信仰は自由だ。俺たちはただ東海联邦を守る。」
Weiも羽根を軽く振って。
「二つのシンガポールほどの土地で星塵害が続く。
明日の食と安全を確保する方が“奇跡”より現実的だ。」
項漂亮は肩をすくめる。
――確かに、この世界で宗教は少数。
キリスト教か無神論か、ほとんどが“互いに支える生活”に汲々としている。
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【深夜三時・雪国大統領府】
小丑の寝室。
暗黃色の照明の下、スクリーンにカルノからの報告。
「遺忘巨楔は門が閉ざされ、守兵二名のみ。
夜視装置に伏兵なし。」
連発児も映像で入る。
「巨楔に罠がある可能性。
兵力分散は危険です。」
その時、謎の神父からの暗号通信が閃く。
――【遺忘巨楔に触れるな】
小丑は舌打ちし、貪欲な笑みを浮かべる。
「……だが、あそこは“俺の”ものになる。」
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【獵犬島基地・医療艙】
青い照明が徐々に暗くなる。
改造済み異常物収容箱のスクリーンが【Gene-Fusion Complete】と表示。
舱門が開き、星塵液から取り出されたのは――
真珠のような微光を放つ嬰児。
睫毛に蛍光が残り、胸が穏やかに上下。
記憶の中のChi Xiaoと寸分違わない。
Weiが裸の上半身を露出し、まだ治りきらない弾痕を抱えながら、赤ちゃんを胸に抱く。
「Chi Xiao……パパだよ。」
熱い涙が頬を伝う。
Fu Youは彼の背中に手を置き、指先で額を撫でる。
「息子、恐れるな。
パパたちも初めてだが、一緒に学ぶ。」
項漂亮が涙を拭い振り返ると――
収容箱の奥に、もう一つの星塵物質が弱く浮かんでいる。
小さな輪郭、もう一人の生命の気配。
「まさか……二つめの胚胎?」
理論上、単一生命体しか収容できはずの箱。
記憶の欠落と共に、大胆な予感が閃く。
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【医療艙自動ドア】
鍾美美が最後に立ち去る。
ドア枠に凭れ、爪を軽く叩き、威の胸で眠るChi Xiaoを見つめる。
(戦場の殺し屋が、抱き方にもたつてるわ)
口を開きかけ――やめて、香水の香りを残して廊下へ。
ライトが薄暗くなり、星塵の消毒臭だけが残る。
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【次の日の朝・蓋亜研究基地】
薄靄の中、鍾美美はダイヤを散りばめた仮髪を抱え、装甲車の排気に香水の匂いをまぜながら、私的に内向張張を連れて收容井西塔へ向かう。
ここは黒原油田と悪心地地帯の中間、かつて謎の勢力Tが支配し、Rosetta兵に占拠された後、Fu YouとWeiの掃討で連邦編入された辺境の廃墟だ。
「張張、今日のことは内緒よ? しゃべったら承知しないわよ。」
内向張張は副席で首をすくめる。
「鍾美美、いったい何を企んでるんです?」
鉄門は錆びて斑になり、投誠したRosetta兵が敬礼する。
鍾美美はでっちあげた命令書を掲げ、陽気に叫ぶ。
「部長巡回です! 仕事に戻って!」
地下へ降りるコンクリート階段を進みながら、内向張張は小声で尋ねる。
「こんな辺鄙な場所、指揮官も言及してないのに……」
鍾美美は足を止め、瞳を輝かせる。
「これは赤霄への贈り物――未来の地下要塞よ!」
ホロプロジェクタが幽闇に青い光を投げかける。
指揮中心(熔岩級爆撃に耐える)、星塵育嬰室(恒温・防輻射・異常物フィルター)、末日檔案館(技術と歴史を保存)、逃生密道(三つの予備拠点へ直結)――。
Rosetta精鋭が集まり、鍾美美は声を張る。
「三ヶ月で完成させる。資材は闇市場、労働力は身寄りのない死士。 いいわね?」
兵たちが頷く。
内向張張は青い顔で呟く。
「赤霄のため? まだ赤ちゃんなのに……」
「廃土は待ってくれないのよ。」
鍾美美は図面を畳み、指を唇に当てる。
「秘密よ、教育長?」
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【獵犬島哨所・小さな家】
夜風が鉄窓を鳴らし、赤霄は毛布に包まれて眠る。
Fu YouとWeiはおむつ交換・ミルク・寝かしつけに四苦八苦、戦場の威厳など微塵もない。
蛍光灯が昏く点り、威がそっとバルコニーへ。
蜉蝣が後に続き、赤ちゃんの寝息を確かめてから扉を閉める。
潮風に塩の味が混じる。
威は柵に凭れ、黒髪を風に乱され、重い口調で呟く。
「……こんな世界に、赤霄を連れてきてしまった。
変異体、雪国、星塵汚染、いつ襲われるか分からない。」
蜉蝣は肩に手を掛け、痞気た笑みを浮かべる。
「心配するな。俺たちが生きてる限り、誰も赤霄に指一本触れさせない。
未来がどんなに腐っても、俺が担いでやる。」
威は唇を噛み、視線を逸らす。
「……今日のおむつ、また前後逆だった。」
「一緒に練習すりゃいい。赤霄は親の不器用も可愛がってくれるさ。」
言葉が優しく絡まり、二人は静かにキスを交わす。
唇から唇へ、潮騒のような吐息。
――やがて、階下のソファへと滑り込む。
月明かりが割れた窓から差し、古びた布地をきしませる。
汗と星塵の匂いが混じり、荒れ果てた大地に咲く一輪の花のように、彼らの愛は荒く、純粋だ。
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【七日後・医療センター】
収容箱の第二の胚胎は確実だった。
舱門が開き、医療スタッフが新生児を捧げる。
真珠の微光、小さな胸の上下、Chi Xiaoと瓜二つ。
Weiが上裸で赤ちゃんを胸に抱き、涙を頬に落とす。
「赤霄、弟が来たぞ。これから一緒に育つんだ。」
Fu Youは額に指を這わせ、にこにこ笑う。
「Chi Xiaoの弟、ようこそ廃土へ。パパが守る。」
項漂亮は目頭を押さえる。
祝福に満ちた医療センター。
紅蝶が缶詰ミルクの籠を提げ、老张が廃鉄の玩具銃を差し出す。
青筋弟弟が隅で呟く。
「こいつらきっと骨太に育てるぜ。」
鍾美美が遅れて現れ、Chi Yunの小さな顔を見つめる。
(大巫师、これは予想外ね)
だがすぐに頭を振り、ダイヤを輝かせて笑う。
「今日は祝いよ。赤ちゃん、姨さんからのプレゼントよ!」
窓から差す朝陽が二つのベッドを包む。
Chi XiaoとChi Yunの寝息が重なり、希望の波紋を広げていく。
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【翌々日・蓋亜研究基地】
赤ちゃんたちの誕生は連邦を沸かせた。
兵士と村民が自発的に防衛を強化する。
火炮に弾薬を、狙击手を増員し、補給線に鉄網を張る。
ロゼッタ投降兵――顔のそっくりなクローンたちが交代で見学に来る。
医療センターは聖地と化した。
赤ちゃんの寝顔を見に来る兵たちは、戦術ベストを脱ぎ、足音を忍ばせる。
「こいつら、本当に可愛いな」
「指揮官、家族って……どんな感じ?」
蜉蝣は頭を掻き、にこり。
「キツいけど、最高だ。負けられない戦いだ。」
WeiはChi Yunを抱き、羽根でそっと覆う。
「静かにしろ、起きるぞ。」
クローン兵の一人が呟く。
「俺たちにも、いつか‘家’はあるのかな?」
項漂亮は優しく答える。
「あるよ。ここがあなたたちの家だ。」
夜の医療センター。
二つの小さな寝息が海風に乗って響く。
Chi XiaoとChi Yun――
廃土に芽吹いた、新たな希望の灯火。
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雪国・楽園総統閣下府 私室レストラン
再び、血のような赤い照明が蝋燭の影を揺らす。
小丑総統は寿司を箸でつまみ、正面の無音スクリーンに目を据える。
画面は尖牙巨楔からのライブ映像――カルノが俯いて報告する。
「閣下、遺忘巨楔の偵察……未だ完全な報告書が上がっておりません。
外周は僅かなRosetta残兵のみですが、内部は複雑で無人機信号が乱れます」
小丑が卓を強打、金属の食器が跳ねる。
「カルノ! もぐもぐして何をしてる! こんな茶番を聞かせるために待ったと思ってるのか!」
カルノの陰鬱な顔に焦りが走る。
「閣下、巨楔の内部状況は未知数。
突入すれば罠に落ちる恐れがあります。
それに東海联邦の防衛が急激に強化されて――」
「強化?」小丑は牙を剥き、カップを壁に叩きつける。
「蜉蝣のクズめが何か嗅ぎつけたのか?」
連発児の映像が銀灘リゾートから割り込む。
仮面を外し、無表情で告げる。
「閣下、東海の異動は通常の防衛強化かもしれません。
巨楔のリスクを更に観察すべきです」
「観察? お前まで臆病風を引いたのか!」
小丑は舌を鳴らし、映像を乱暴に切る。
「退屈でたまらん! もっと派手に行こうぜ!」
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【熔岩城・女王の書斎】
火山脈の黒い稜線に熔岩城が聳える。
熱湯の蒸気が天を覆い、巨大な変異体“天空之触”が雲に浮かぶ。
水母状の頭部、三本の人腕触手、灰青の光が雪国偵察機を威圧する。
Mary――暗赤の戦衣に身を包む支配者――が窓辺に立つ。
プラズマ転送塔が兵員と物資を黑原镇へ送り続ける。
かつて彼女は“紅蝶”――東海联邦高官、Fu Youの戦友――を喰らおうとした。
だが謎の宗教師が介入してから、野望は微妙に色を変えた。
今日も書斎で石門を閉ざし、終日密談。
「Fu YouとWeiの子、二名とも誕生した。」
灰袍の大師が静かに告げる。
Maryは眉を上げ、苦笑する。
「この期に及んで手を出すのは野暮だわ。
私にもプライドがある。」
塔の青い光が彼女の顔を照らす。
衛兵たちは廊下で囁く。
「女王とあの神棍、一体何を企んでるんだ?」
――星塵の風が、予兆なく吹き抜けていく。
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【黑原镇 星塵霧の下】
灰色の雲が町を圧し、四階建て民宿ホテルに拠点を構えるMary軍。
バーのネオンが明滅し、レストランには賞味期限切れの缶詰が山積み。
星塵汚染は外だけ――館内は妙に“清浄”だ。
元町長は東海联邦へ逃亡し、事務所の外では新任司令官が破れたリクライニングに寝そべり、
遠くのガソリンスタンドをぼんやり眺めている。
「クソッ、酸っぱい酒一本ねぇのか……」
足元の無線機が兵の弱音を送る。
「司令、病院の裏にまた変異体が……鉱山班は掘れません!」
司令官は無線を切り、舌打ちする。
「掘れ! 掘らなきゃMary女王に皮を剥がれるぞ!」
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【河水塘対岸・黑原油田】
東海联邦側の警備は厳重を極める。
自動採掘機が轟き、防衛砲塔の赤外センサーが霧を貫く。
星塵汚染は油絵の具のように濃い。
Mary兵は近寄れず、遠くから罵声を飛ばす。
「東海の野郎、砲塔の数が兵より多ぞ! 突入は自殺だ!」
突然、西の空――遺忘巨楔方向――が轟音と閃光に裂ける。
火柱が天幕を貫き、司令官は跳び起きる。
「なんだ!? 雪国戦車だと! 遺忘巨楔を攻めてやがる!」
兵士たちが屋上に殺到し、双眼鏡で観測。
「女王! 遺忘巨楔で戦闘中、火柱が……!」
司令官は額の汗を拭い、怒鳴る。
「防御強化だ! 雪国の狂犬がこっちを向くかもしれん!」
兵たちは銃を点検し、屋上防空砲を起動する。
――だが雪国軍は黒原镇に向かわず、遠くへ去る。
司令官は安堵の吐息と共に舌を出す。
「……来ないのか。 チクショウ、肝冷やしたぞ!」
兵士たちも肩の力を抜き、小声で噂する。
「よかった……このボロホテルじゃ戦車は防げねぇ」
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雪国・楽園総統閣下府 私室レストラン
再び、昏い血赤の照明が蝋燭の影を揺らす。
小丑総統は寿司を箸でつまみ、正面の無音スクリーンを凝視する。
カルノの映像が尖牙巨楔から届く。
「閣下、遺忘巨楔偵察……未だ完全報告を。
外周は僅かなRosetta残兵ですが、内部は複雑で無人機信号が乱れます」
小丑が卓を強打、金属食器が跳ねる。
「カルノ! もぐもぐして何をしてる! こんな屁理論を聞かせるために待ったと思ってるのか!」
カルノの陰鬱な面に焦りが走る。
「閣下、巨楔内部は未知数。
突入すれば罠に落ちる恐れがあります。
それに東海联邦の防衛が急激に倍増して――」
「倍増?」小丑は牙を剥き、空のカップを壁に叩きつける。
「蜉蝣のクズめが何か嗅ぎつけたのか?」
連発児の映像が銀灘リゾートから差し込む。
仮面を外し、無表情で告げる。
「閣下、東海の異動は通常の防衛強化かもしれません。
巨楔の未知のリスクを更に観察すべきです」
小丑は舌を鳴らし、映像を乱暴に切る。
「退屈でたまらん! もっと派手に行こうぜ!」
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【遺忘巨楔・戦闘録画】
金属門は雪国ミサイルで歪み、星塵汚染の幽緑の火花を散らす。
カルノは装甲車内で遠隔モニタを凝視。
阿爾法小隊長の戦闘メガネ映像――防弾ガラスの通路で銃声が谺する。
「フラッシュ弾、投げろ!」
眩い白光が炸裂し、雪国兵が突進する。
最深部に巨大な位面転送球。
赤い光輪が唸りを上げる。
最後のRosetta兵が倒れる瞬間、小隊長はプラズマ爆弾のスイッチを押す。
轟音。
空間が歪み、現実世界に切り替わる。
“忘却之主”が出現――上半身は蔓植物、頭部は空洞に蛍花、下半身は大地に根を張る。
巨槌で地を砕き、壁を薙ぎ払う。
気球人間は弾け、兵士は肉片と化す。
カルノの画面が真紅に染まる。
「なんだこれは……!?」
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【雪国・私醸農園】
忘却之主は毒液を滴らせ、私醸農園を蹂躙。
樽が砕け、酸っぱい酒と血が川となる。
気球人間は空水母に引き上げられ、尖刺で串刺しにされる。
尖牙巨楔の戦車部隊が到着。
砲火の嵐――数十発の直撃で、怪物は肉の海となり、黒い水に溶解する。
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【楽園総統府】
葡萄園の廃墟映像に小丑は激昂。
「カルノ! 俺のワインはどうした! 葡萄園は!」
カルノは煤にまみれて報告する。
「怪物の所為です……精一杯やりました」
小丑は荒れ狂い、やがてへらりと笑う。
「……まあ、いい。忘れろ。お前も寝るんだ」
通話を切ると、再び部屋中のカップを壁に叩きつける。
「ああ! 俺のワイン!」
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【東海联邦・作戦室】
鞍前キャンプの防衛が薄弱になったとの情報。
だが熱源画像で人質が縛られているのを確認。
紅蝶が机を叩く。
「平民を盾にだすなんて、屑どもが!」
Fu Youは腕組みする。
「迂闊に突入できん。
小丑の罠だ」
Weiが舌打ち。
「今回のチャンスは潰えた。
だが、奴らの犠牲も大きい」
項漂亮がため息をつく。
「星塵世界に“人間味”を求める方が間違いか……
ともかく、黑原油田を守ろう。
次の機会を待つだけよ」
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【戦損まとめ】
――雪国・垩峰山駐留兵力、45%減少。
――遺忘巨楔は星塵汚染値が限界を超え、軍事利用不能に。
小丑総統は自らの拡大欲と、謎の怪物によって、
手痛い代償を払った。
東海联邦の哨戒ドローンが、血と泥にまみれた葡萄園を静かに撮影していく。
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【熔岩城・女王の殿堂】
火山岩に刻まれた穹窿が闇赤の火を映す。
Maryは黒曜石の玉座に斜倚し、星塵泡の立つ私釀を傾ける。
長卓には烤鹿肉、牛肉、烈酒が溢れ、笑声がシャンデリアを揺らす。
「雪国の私醸農園も葡萄園も、忘却之主に砕かれたそうだ!」
「小丑のバカ、天罰だ!」
「今こそ西南へ抜けよう!」――黑原镇の兵を尖牙巨楔へ進めようと提案が上がる。
すると、灰袍の宗教大師が静かに歩み出す。
「女王閣下、雪国が傷ついたからと言って、今攻めれば反噬を招きます。」
Maryは杯を止め、眉を寄せるが、結局「大師の言う通りだ。飲め!」と部下に怒鳴る。
殿堂外、天空之触の触手が雲を掻き、灰青の光が熔岩を照らす。
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【数週後・雪国】
遺忘巨楔の星塵汚染は毒霧のように拡がり、73号源質分離点を呑み込む。
收容井-寒鏡と太陽農場も刺激臭に包まれ、雪国の占領計画は完全に崩壊。
小丑総統は執務室を暴走し、Desert-Eagleを机に叩きつける。
「葡萄園も私醸農園も、パースリィ広場、朽鞍鎮、鞍前キャンプ全て死守だ!」
狂信者部落の怪異な儀式や熔炉巣の変異体、翠湖遊客センター左の霧区域に連合会の噂――
どれも手が出せない。
地下室でMaryの臥底が拷問を受け、血の叫びが響く。
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【銀灘リゾート・埠頭】
連発児は潮風に立ち、古びた漁船で魚を揚げる。
星塵汚染で魚影は稀、収穫はわずか。
「もっと外海へ出れば、蜉蝣の狙撃兵に頭を撃ち抜かれる」
兵士の愚痴に、連発児は冷たく一笑。
「黙れ、働け。総統に逆らいたいのか?」
漁獲物は位面転送塔から雪国へ送られ、小丑は独りで喰らうが、顔は依然として曇り。
「東海联邦、星塵汚染、連合会、T……
俺はこのクソ檻に閉じ込められた!」
カップが床に割れ、門外の衛兵が震える。
「また総統が暴れてる…… こんな日が続くのか?」
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【獵犬島哨所・二階建て小屋】
朝の潮風がベージュのカーテンを揺らし、Fu Youは戦術椅子に腰を下ろし、背中を伸ばして唸る。
テーブルには蓋亜研究基地の防衛図が広がり、黑原油田と鞍前キャンプの赤いマークが血のように目を射る。
二階の寝室ではChi XiaoとChi Yunが静かに眠る。昼間は紅蝶と鍾美美が交代で見守ってくれたおかげで、二人は久しぶりに息をついた。
Weiがキッチンから湯気の立つカップを二つ持ってくる。
シャツのボタンが二つ外れ、鎖骨が影を落とし、旧世界の海のように柔らかい眼差しでFu Youを見下ろす。
「今日も一日頑張ったね。少し休もう?」
囁く声に、熱い吐息が絡む。
Fu Youはぎくりと目を上げ、地図に引き戻される。
「休む? 雪国が鞍前キャンプに人質を取り、Maryは黑原镇で兵を溜めてる。休めるか」
Weiはため息をつき、彼の手を引いてソファへ。
「仕事は明日。今夜は……二人だけ」
足を跨がり、肩に手を置き、額に鼻先をすり寄せる。
「子供のパパ、リラックスして」
Fu Youは苦笑いしながら腰を抱き、唇を重ねる。
粗い指がシャツの下へ滑り、温もりを確かめる。
ソファがきしみ、戦術ベストが床に落ちる。――が、キスが深くなる直前、Fu Youの脳裏に砲塔故障の報告が閃く。
「……雪国が增援してきたら、今夜中に……」
Weiの唇が颈で止まる。
「また仕事?」
「すまん……頭が離れない」
Weiはため息をつき、ベストを拾い上げる。
「仕方ないね。赤ちゃんを見てくる」
肩を落として階段を上り、Fu Youは伸ばした手を空にする。
ソファの残り温もりが、潮風に消えていく。
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【数日後・深夜】
遅くなった帰宅。
バスルームから湯気が漏れ、Fu Youは戸を開ける。
Weiが花洒の下に立ち、水しぶきが肩から胸へ流れる。
戦闘で鍛えられた筋肉が昏い照明に濡れ光る。
「副指揮、お湯を独り占めするのは反則だ」
Fu Youはシャツを脱ぎ、狭いシャワーに割り込む。
腕が腰に回り、唇が肩に落ちる。
「今度は仕事話禁止だぞ?」
水が二人を包み、キスが深くなる。――だが、威の低い声が耳を打つ。
「今日の偵察……鞍前キャンプの人質に子供がいるらしい。
小丑の仕業だ」
Fu Youの指が止まる。Chi XiaoとChi Yunの寝顔が脳裏をよぎる。
「……救出しなきゃならないな」
ため息と共に、熱も冷める。
Weiは頬に額を寄せ、水滴を振る。
「ごめん、興を削いで」
「いいよ……俺も同じこと考えてた」
水音だけが残り、二人は静かに寄り添う。
――それでも、夜は深く、ベッドでは肩を寄せ合い、
子供たちの寝息を聞きながら眠りにつく。
この世界で、互いと子供がいるだけで、
それは特別な、かけがえのない幸福だった。




