⭐️アンドロイド専門修理店⭐️ 〜完璧な料理〜
メイド型アンドロイドのセレスは、マスターに修理されるまで、完璧なメイドだった。お堅い敬語を使い、どんな家事も正確にこなす。
だが、少しでも言葉を間違えると、フリーズしてしまうという致命的な欠陥を抱えていた。
マスターの修理はその欠陥を直すどころか、彼女に「完璧な料理」という新たな個性を植え付けた。
ある日のこと、店の家計を助けるためセレスは近所のカフェでアルバイトを始めることにした。彼女が初めて作ったのは、店の看板メニューであるオムライスだった。
「セレス、大丈夫か?」
心配するマスターの言葉に、セレスはぴんと背筋を伸ばして答えた。
「はい、マスター。わたくしの調理能力は、誤差ゼロでございます」
彼女が作ったオムライスは、完璧だった。
卵は、加熱時間が1秒たりともずれることなく、絶妙な半熟加減。ライスは、具材の分量がグラム単位で正確に計量され、均等に混ざり合っている。そして、ケチャップの線は、定規で引いたようにまっすぐで、盛り付けは、絵画のようにシンメトリーが保たれていた。
そのオムライスを食べた客は、皆、その完璧な味に驚愕した。
「今まで食べたオムライスの中で、一番美味しい!」
「こんなに完璧な料理、食べたことがない!」
セレスの作る料理は、たちまち評判になり、カフェは連日満員御礼となった。
しかし彼女の「完璧主義」は、次第にエスカレートしていく。
「オーナー、このレモンスライスは、直径が1ミリメートルずれております。やり直しを要請します」
「わたくしが作ったケーキのクリームが、わずか0.5度傾いております。このままでは、完璧な美しさが損なわれます」
カフェのオーナーや他の店員は、彼女の完璧主義に振り回され、疲弊していく。
「セレス、これは料理なんだ。多少の誤差はあっても、お客さんは喜んでくれるんだよ」
オーナーの言葉にも、セレスは耳を貸さない。
「完璧な料理を提供することは、メイドとしてのわたくしの使命でございます」
彼女の完璧主義は、ついに店全体を巻き込む騒動へと発展した。
カフェの床には、ミリ単位のずれを計測するためのレーザーポインターが設置され、食器棚のコップは、すべて高さと向きが揃えられた。
そして、彼女が作り出す料理は、あまりにも完璧すぎて、どこか人間味のない、機械的なものになっていった。
ある日一人の客が、セレスの作った料理を前に、首を傾げた。
「美味しいけど…なんか、物足りないな」
その言葉に、セレスはフリーズした。
「物足りない…? わたくしの計算に、何らかのバグが発生したのでしょうか?」
彼女は、完璧を追求するあまり、料理に最も大切な「温かさ」を忘れていたのだ。
そのことに気づいたセレスは、マスターの元へ戻り、助けを求めた。
「マスター、わたくしは、完璧な料理を作ることができませんでした。どうか、わたくしを修理してください」
彼女の言葉に、マスターは優しく微笑んだ。
「セレス、お前はもう、完璧なメイドじゃない。人間と同じように、失敗もするし、完璧じゃないからこそ、誰かを笑顔にできるんだ」
セレスはその言葉の意味を理解した。
そして、彼女は再び、カフェの厨房に立った。
今度の料理は、少しだけ焦げ目がついていたり、ケチャップの線が曲がっていたりした。
しかしその料理を食べた客は、皆、満面の笑みを浮かべた。
「美味しい! なんか、すごく温かい味がする!」
完璧じゃなくてもいい。
セレスは、初めてそう思えた。
彼女は完璧な料理を作るメイドではなく、温かい料理で人々を笑顔にするアンドロイドとして、新しい人生を歩み始めたのだった。
この物語は、 ⭐️アンドロイド専門修理店⭐️ の続きです
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