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交わる海辺にて  作者: P4rn0s


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4/4

あの海にいた2人〜Another World〜

IFの世界設定

急に、海が見たくなった。

仕事帰り、電車の中でぼんやりと窓の外を眺めていたら、ふと頭に浮かんだのだ。潮の匂い。波の音。ひんやりと湿った風。夜の堤防。

理由は、わからない。

でも、気がついたら乗り換えていた。

何本か電車を乗り継いで、かつて住んでいたあの町へ向かっていた。


夜の海は、相変わらず静かだった。

堤防の先には、誰もいない。懐かしい岩場に腰を下ろすと、風が少しだけ吹いた。

少し冷たい風だった。夏のはじまりの匂いがした。

記憶の中のあの夜が、胸の奥からゆっくり浮かび上がる。

白いワンピース。月明かりに透ける髪。

たった一晩だけ話した、あの女の子のこと。

名前も知らなかった。いや、たしか…ナツ…?

声に出しかけて、やめた。忘れたわけじゃない。ただ、しまっていた。

深く、静かに。


「……久しぶりだね」


風に混じって、声がした。

僕は振り返った。

そこに、ひとりの女性が立っていた。

月明かりが顔を照らす。見覚えのある瞳。少し短くなった髪。けれど変わらない表情。

あの夜の、あの女の子が、そこにいた。

言葉が、すぐには出なかった。

彼女はそっと笑った。

「もしかして、まだ同じ場所にいるかなって思ったの。来てみたら、本当にいた」

「……君も、また来る気がしてた。いや、来ないかもって思ってた。でも……来たんだね」

「うん、来ちゃった」

短い沈黙のあと、僕たちは、並んで座った。

波の音が二人の間に流れ込む。前と同じように。

「覚えてる?」

彼女が聞く。

「もちろん。君のこと、忘れるわけないよ」

僕は答えた。

彼女は笑った。どこか安心したような、でも少し切ない笑顔だった。

「私もね、忘れてなかった。あの夜のこと。ずっと夢に出てきてた。あれ以来、誰にも言ってなかったけど」

潮風が少し強くなって、彼女の髪が揺れる。

静かに、夜が深くなっていく。

「私、あれから少しだけ、変われたんだ」

「……うん。僕も」

「でも、ずっと思ってた。あの夜、もしもっとちゃんと話をしてたら、連絡先を聞いてたら、って」

「同じこと考えてたよ」


そう言って、二人とも、少し笑った。

でも、それ以上は言わなかった。

それで、いいような気がした。

波が静かに寄せて、また引いていく。

風が頬をなでていく。

やがて、彼女がふと立ち上がった。

僕も、あとに続く。

二人は堤防をゆっくり歩き出す。

言葉はないけれど、不思議と寂しくなかった。


この先のことは、わからない。

もう一度離れるのかもしれないし、今度こそ何かが始まるのかもしれない。

手はつながれていない。でも、それでいい。今は、それでいい。


月が海を照らしていた。

波の音は、変わらず優しかった。

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