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夜に溶ける  作者: ノベル
8/8

とろける琥珀

その夜、グラスに注がれたウイスキーはやけに甘かった。

バーテンダーに聞けば、「シェリー樽のやつですよ」と、無頓着な返事が返ってきた。

わかってる。

そんなことじゃないんだ。


この甘さは、舌ではなく、記憶の奥に沁みる味だ。

とろけるように身体のなかで広がって、少しだけ苦くなる。

まるで君の笑い声の後味みたいだった。


窓の外では、雨が降っていた。

冷たいはずなのに、まるで焚き火のようなぬくもりを感じたのは、酔いのせいだろうか。

あるいは、この夜が、どこかで誰かと繋がっているせいかもしれない。


隣の席では、ひとりの女が無言で煙草をふかしている。

彼女の横顔が、君に似ている気がした。

けれど、名を呼ぶ勇気はなかった。

呼んでしまったら、二度と会えない気がしたから。


マスターが氷を砕く音が、遠くの風鈴みたいに響いていた。


「もう一杯いきますか?」

「ええ、同じやつを。甘いやつで」


それが君を思い出す夜でも、思い出さない夜でもいい。

とろけるような甘さに、少しずつ沈んでいけるなら、それで。


夜が終わるころ、グラスの底に残ったのは、わずかな琥珀色と、

言えなかった言葉たちだった。

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