表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜に溶ける  作者: ノベル
2/8

煙と夜と彼女

夜が滲んでいた。

空気の隙間から、昨日の記憶が静かに立ちのぼる。


ひとつ火を点ける。

それは儀式のようでいて、いつもより少し震えていた。

手の甲を撫でる風が、知らない指先のように触れてくる。

それが君だったのか、それともただの冷気だったのか、判然としない。


煙は柔らかく、けれど確かに、そこに形を持って漂った。

輪郭が溶けるたび、名前を呼んだ気がした。

思い出すことと、忘れていくことは、ほんとうは同じ行為かもしれない。


君は煙だった。

話そうとして、やめた言葉の切れ端のように、どこかでくすぶって、

喉奥に少しだけ痺れを残す。

甘くて苦い、もう会えない人の味。


なぜか、目が覚めてしまったときのような感覚があった。

夢の中で君とすれ違った気がした。

まなざしだけ交差して、声は交わらなかった。


火が短くなる。

灰が落ちる。

時間が静かに終わっていく。

あるいは始まっているのかもしれない。


風が吹く。

カーテンが揺れた。


タバコの煙と君が、もう一度、重なって、

そのまま夜に溶けていった。


もう、呼ぶ名前さえも、煙の中だ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ