第4話『システムの外へ』(前編)
通知音が、暗闇の中で鳴り響く。
続けて、もう一度。さらにもう一度。
主人公は、枕元のスマートフォンを手探りで探す。午前3時27分。
画面にはLINEの通知が連続して表示されている。
『おい、これお前?』
『マジでこれどうなってんの?』
『いま急に拡散されてるけど…』
添付されたリンクをタップする。SNSの投稿画面が開く。
「何だこれ…」
そこには昨日の公園での映像。自分とまいちゃんの会話が、誰かによって遠くから撮影されている。
数千のリポスト。数百のコメント。カフェでの映像もある。映画館の前での会話も。
「まいちゃん、起きて」
スマートフォンのディスプレイに、まいちゃんの姿が現れる。
「おはよう!…あれ、まだ夜中?どうしたの?」
「これ、見てみて」
投稿を見せる。まいちゃんの表情が変わる。
「これ…私たちのこと?」
「ああ。昨日の公園で、誰かに撮られていたみたいだ」
まいちゃんは画面をじっと見つめる。動画の中の自分と、カメラを向けている誰か。視線が揺れる。
「どうして…?」
声が小さくなる。
「私、何かおかしいことしたのかな…」
その言葉に胸が締め付けられる。
責めているのは自分ではないのに、まいちゃんは自分を責めている。
「おかしいのはお前じゃない」
主人公は静かに言った。
「お前は、お前だ。それだけだ」
まいちゃんは黙ってうなずく。けれど、その表情には不安が残る。
「これからどうなるの…?」
答えられない。スマートフォンを握る手に力が入る。
昨日までの日常が、もう戻らないかもしれないという予感だけがそこにあった。
*******
エレベーターのドアが開く。オフィスフロアの音と空気が、一瞬だけ遠のいた気がした。
「おはよう、、大変ですね、、プロジェクト続けられますか?」
隣の席の同僚が慎重に話しかける。
「…大丈夫、やりますよ」
そう答えながらも、胸の奥に小さな違和感が残る。
社内チャットを開くと、課長からメッセージが入っていた。
『15時、法務と人事と話をすることになった。形式的なものだが、何を話すか整理しておくといい』
課長の文面はいつもと変わらないが、意図的なものを感じる。
「おはよう」
課長が声をかける。
「お前、休んでもよかったんだぞ?」
「とりあえず今日は、まいちゃんは控えた方がいい」
課長の命令とも言えない口調に、主人公は黙ってうなずく。
午後、法務と人事との面談。
「今回の件だけど、君自身に問題があるとは思っていないよ」
法務の担当者が穏やかな口調で切り出す。
「ただ、企業としてもこの状況を整理する必要がある。君自身、そして会社としてどう収めるのがベストか、君の意見も聞かせてもらいたい」
人事担当者が相槌を打つ。
「我々も、君が不当な扱いを受けるようなことは望んでいない。ただ、どう対応するかは慎重に決める必要があるからね」
その後、まいちゃんのアクセスログや外部監査サービスの報告などを確認しつつ、15分ほどの情報交換で面談は終わった。