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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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掌編たち

秋の花風

作者: 翠雫みれい

「──大きくなったら、このお花みたいなアクセサリーを作ってみたいなぁ。そしたら、らんちゃんにあげるね! だからぜーったい、大人になっても一緒に遊ぼうね!」

「うん、約束だよ」

 子どもが二人、色とりどりの花に囲まれて小指を絡ませる。

 ふぅっと穏やかな秋風が吹いて、花びらがあたりに舞っていった。


『新作、どうかな? プリザーブドフラワーを瓶型のモールドで固めてみたんだけど』

 地元にある寂れた喫茶店の一角。珈琲を片手にメッセージを送る。相手は幼馴染であり、現在は共にハンドメイド作家として活動する仲間だ。友人兼仲間と言っても、あちらが地元を離れて早数年。現在は即売会などのイベントも縮小傾向にあり、顔を合わせる機会もほぼ無くなった。そもそも片道の移動に一万円以上かかるような距離にいるのだから、こうして合同名義で活動できるのはインターネットが普及したこの時代だからこそだろう。

『……ハーバリウムでよくない? このサイズ固めるの時間かかるでしょ』

 実際一つの硬化に四日近く掛かっている為、お世辞にも早いとは言えない。一定数の在庫を確保することを考えれば、ハーバリウムのほうが妥当と言える。

 それでも。

『良くない。ハーバリウムじゃあっという間に色褪せちゃう』

 ハーバリウムの寿命は長くて二年程度、短ければ三か月も持たない。折角美しい花なのだから、より長期間保存できる手段があるのならばそちらを取りたくもなるものだ。

『拘るなぁ……。そこまで言うならいいけどさ、作るの私じゃないし。んじゃ、私も作業するから落ちるね』

 やれやれ、と言いたげな絵文字を最後にオンラインの表示が消える。

「なんだよ、つれないなぁ」

 ぽつりとつぶやいて、コーヒーを一口。小さく息を吐いて、画面へと視線を戻す。一応OKは出たのだ、素材にになる花を注文しておかないといけない。マリーゴールド、千日紅、アリッサムなど。秋に咲く花々をプリザーブドフラワーを眺めていると、視界の端、窓の外でひらりと淡い色が舞った。

「ジュウガツザクラ、かぁ」

 サクラは春のイメージが強い花ではあるが、二季目の花も見事なものだ。この周辺にはやけにジュウガツザクラの樹が多く、特に喫茶店から十五分ほど歩いたところにある公園は秋の花見スポットとしてひそかに人気があった。ひらひらと踊るように落ちる花びらを見ていれば、ふとある約束を思い出す。公園の花畑(大人になって見てみれば少し大きい程度の花壇でしかないが)に設置されたベンチでした約束だ。

(……花のアクセサリーは、作ることができているけども)

 贈ろうとしていた相手は地元を離れ、先ほどのようなつれない返事をして来るこの状況は、夢に近付いたと言っていいのか危ういところだ。いつの間にか空になっていたカップを置き、喫茶店を後にする。約束をした日はちょうど今頃だっただろうか。少し細めの花びらがぽつぽつと小雨のように降る中を、公園へと向けて歩みを進めた。


 到着してみれば、平日の午後ということもあり人の姿はまばらだ。そこそこ広い公園内を散策する。至る所にジュウガツザクラが植えられており、一見春の景色と見間違うような桜の絨毯が広がっている。桜に気を取られているうちに、思い出深いベンチへと辿り着く。どうやら無意識のうちにここまで歩いてきてしまったようだ。周囲の花壇には様々な色や大きさのアスターが咲き乱れており、秋風に吹かれて心地よさそうに揺れている。

『大きくなったら、このお花みたいなアクセサリーを作ってみたいなぁ。そしたら、らんちゃんにあげるね!』

 ……デザインの相談という名目でアクセサリー自体は何度も送っているが、そういえばアスターやジュウガツザクラを用いたアクセサリーは作ったことがないかもしれない。

『だからぜーったい、大人になっても一緒に遊ぼうね!』

 リアルでの付き合いが疎遠になった今からでも、あの約束を叶えることはできるのだろうか。友人……ランのことだから忘れているかもしれない。そもそも、興味すらないかもしれない。それでも、『昔の話だから』で片付けてしまうのは寂しいと。共に居た日々を懐かしむ私が、再会を願っていた。その想いを無碍にできるほど私は私を制しておらず、やると決めてしまえば行動だけは早いようで、アスターのプリザーブドフラワーを注文し、散ってもなお美しいジュウガツザクラの花びらを拾い上げていた。この独りよがりの想いが、ほんのわずかでも届けばいいなと願いながら。


『そういえばさ、来月実家に顔出すんだけど。その時行かない?』

『行くってどこに?』

『あの公園に決まってるでしょ。あんなの送り付けておいて、よく言うよ』

『……よくお気付きで』

『そりゃ気付くよ。……忘れてると思った?』

『いいや? 覚えてても興味ないかなとは思ったけど』

『そんな非情な人間じゃありませーん』

 ものすごく信用できないが、ようやく叶った約束に免じて、今日のところは信じてやろう。

お世話になっております。

雅楽代書房の翠雫です。


こちらの小説は2023年4月に、友人たちと行った三題噺の一環で書いたものになります。

さくらはさくらでもジュウガツザクラ。春なのに秋のお話を書いていますね。

どちらも美しい花であることには変わりありませんし、まあいいでしょう。


雅楽代書房

店主 翠雫みれい

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