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騎士見習いはご機嫌ナナメ

 カイルが湯浴みを終えて行ってしまうと、私は大急ぎで滝まで戻り、その下に飛び込んだ。


 見た目より勢いがあって、ちょこっと痛みを感じるくらいだけど。

 打たれているうちに慣れてしまい、私はしばらくの間、両手で髪や顔をゴシゴシこすって、汗や汚れを洗い流した。



 ……でも、石鹸なんかを使って洗わないと、完全にキレイにはならないんだろうなぁ……。


 ま、ゼータク言っても始まらないか。

 これがこの国での精一杯なんだし、温泉があっただけでもありがたいもんね。


 そう、温泉サイコー!

 ここは温泉パラダイス!



「この国にいる間、温泉浸かり放題だもんね! 考えてみれば、それが何よりのゼータクだわ!」


 滝から出て、胸の前でググッと両拳を握ると。

 私はもう一度、湯船代わりの滝壺に移動し、肩まで浸かって鼻歌を歌った。





「ごめーん! かなりお待たせしちゃったよね?」


 着替えを終えた私は、頭からすっぽりとタオルをかぶり、イサークと雪緋さんの元に戻った。

 イサークは呆れ顔で仁王立ちし、雪緋さんはいつものように、口元に笑みを浮かべて立っている。


「おっせーんだよ! どんだけ掛かってんだ! チャチャッと終わらせろよ湯浴みなんざ!」


 いきなり怒鳴りつけられ、ちょっとムッとしてしまったけど。

 待たせて申し訳ないと、一応反省はしているので、言い返すのはやめておいた。


「……ごめんなさい。でも私、もともと長湯だから。明日もきっと、長くなっちゃうと思うんだよね」


「はああッ!? 明日もこんだけ待たされんのかよ!? もっと早くできねーのかっ?」


「うん、できない! それに……そんなに嫌なら、イサークは着いてきてくれなくてダイジョーブだよ? 今日だって、どーして着いてくるのかなって、疑問に思ってたくらいだし」


「な――っ! 俺が着いてきちゃマズいのかよ!? 俺は姫さんの護衛だろ!? 自分の役目をこなしてるってだけだろーが!」


「……それはそうだけど……。イサーク、不満そうだし。護衛は雪緋さんがしてくれるから、全然問題ないし」


 ちょこっと口をとがらせながら、素直な気持ちを伝えると。

 イサークはギロリと私をにらんだまま、少しの間黙り込んだ。

 雪緋さんは毎度のごとく、オロオロと私とイサークとを見比べている。


 イサークはチッと舌打ちし、


「あーそーかよ! んじゃー、明日から護衛の役目、ぜーんぶ雪緋に任せっからな!……ハッ。負担が減ってせーせーすらぁ!」


 騎士を目指しているとは思えないような乱暴な口調(まあ、これはいつものことだけど)で、吐き捨てるように言い放つ。

 それからくるりと背を向け、早足で歩き出した。



(うわ~……。あれは完全に怒ってるな。ちょっとストレートに言い過ぎちゃったかも……)



 私は雪緋さんと顔を見合わせて苦笑いすると。

 わざとゆっくりとした足取りで、彼の後を追った。





 御所の門の前でイサークと別れ、雪緋さんと部屋に戻った私が、最初に目にしたのは。

 昨夜と同じくらい豪勢な朝食――あさげだった。


「リナリア姫殿下!……遅いです! あさげのしたくはとっくに終わってますよ!」


 あさげの御膳の横では、ぷうっと頬を膨らませた萌黄ちゃんが、ちょこんと正座して待っている。


「わわっ。ごめんね萌黄ちゃん! 明日は、もうちょっと早く戻るようにするから!」


 慌てて御膳の前に座り、萌黄ちゃんに向かって両手を合わせる。

 萌黄ちゃんは少し表情を和らげ、


「もういいです。片付きませんから、お召し上がりください」


 それだけ伝えると、部屋の隅へと移動した。



(あ、そっか。私が食べ終わらないうちは、彼女もあさげを食べられないんだ)



 それを思い出した私は、箸を右手に、茶碗を左手に持ち、


「うん! 頑張って、なるべく急いで食べるからね!」


 宣言して、ナスの漬け物らしきものをつまみ、口中へと放り込む。


「いっ、急がなくていいです! のどにつまらせたら大変ですからっ」


 萌黄ちゃんは慌てたように付け足してきて、私はモグモグしながらうなずいた。



 今日のおかずも、昨夜とそれほど大差ない。

 ご飯と汁物、焼き魚や焼アワビ、焼エビ、ゆで野菜や漬け物……などなど。


 朝からこんなに食べるのかと、驚いてしまうけど。

 この国では、朝と晩の一日二食制らしいから、そのせいもあるのかもしれない。



 朝のうちにたくさん食べておかないと、夕方まで持たないもんね。

 特に、私みたいな食いしん坊は、お腹グルグル鳴っちゃうに決まってるわ!


 よーっし!

 腹八分目なんて言わず、満腹になるまで食べまくるぞー!



 私が黙々と(ガツガツと?)食べ進める中、端の方で私をじいっと見つめていた萌黄ちゃんは。

 まるで、『この人、ホントにお姫様なの?』とでも思っているかのような呆れ顔で、ひょいっと肩をすくめていた。

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