表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/251

否定されて

 カイルから別人だと言われてしまった後。

 どうやって帰ってきたかは覚えていないけど、気が付いた時には部屋の中にいて、呆然と(くう)を見つめていた。



 ……カイルじゃない。


 あの人は翡翠という名前で……カイルなんて名前じゃない。


 カイルじゃ……。

 カイルじゃ、ない……?



 あんなに似ているのに?

 目の色も、髪の色も、姿形も、声も……全てが同じとしか思えないのに?


 カイルじゃない……。

 ホントに、カイルとは別人だって言うの?



 ……信じられない。


 やっぱり、どうしても信じられない。

 あの人がカイルじゃないなんて。


 だって……あそこまで何もかも瓜二つの人が、この世にいるなんて思えない。

 一卵性双生児だって、あそこまでそっくりな人なんていやしない。

 そう思えるほどにそっくりだった。



 私が元いた世界では、〝この世には、自分と似た人が三人はいる〟なんて言われてたけど。

 ……現に、私と桜さんは、そっくりだったらしいけど。


 だからこそ神様は、私達を入れ替えるってイタズラを考えついたんだよね……。



 でも、カイルやギルには、すぐ別人だってバレちゃってたし。

 お父様だって、すぐに私だとわかったって言ってた。


 だから、実際のところ……神様が言うほどには似てなかったんじゃないか、って……今でもちょっと疑ってるんだ。



 ……そう。

 本当のところなんてわからない。


 私は、桜さんに会ったことはないし。

 自分の目で直接確かめたわけじゃないから、本当にそっくりだったかどうかを知るすべなんて、今となってはどこにもない。



 だから……カイルが別人だなんてことも、心の底から信じることはできない。

 彼がどれだけ言い張ったって、私には、同一人物にしか思えないんだもの。



「カイル……。どーして? どーして別人なんて言うの?……翡翠って誰? 翡翠が、ホントの名前って……」


 想いを口に出したとたん、涙がポロポロとこぼれた。



 ……やっと会えたと思ったのに。

 会えたら、『もう武術大会なんてどうでもいいの。一緒に帰ろう?』って、伝えようと思ってたのに。


 なのに……本人じゃないなんて。

 翡翠っていう、別の人だなんて。



 ……嘘。

 やっぱり嘘だよ。


 どれだけ考えても、あの人がカイルじゃないなんて思えない。


 きっと――。

 きっと、カイルだって認められない理由があるんだ。


 何か事情があって、正体を明かせないとか……たぶん、そんなところなんじゃないかな?



「そーだよ。きっとそう。何か事情があるんだ」


 両手で涙をぬぐい、自分の中で、そう結論付けたとたん。


「あの……」


 いきなり誰かの声がして。

 私は『ひゃっ?』という短い悲鳴を上げて固まった。


「あっ。ごめんなさい! 驚かせちゃいましたか?」


 顔を上げ、声のした方へ視線を移す。

 そこにいたのは萌黄ちゃんで、正座して、私を気遣わしげに見つめていた。


「あ……あぁ、萌黄ちゃんか。……えっと、私こそごめんね? ボーッとしちゃってて」


 自分がどうやって部屋まで戻ったかわからない上に。

 萌黄ちゃんがすぐ側にいたことにも、今まで気付かなかったなんて。


 いくらなんでも、ボケボケしすぎだ。

 穴があったら入りたい気分……。



 私はエヘヘと笑いながら、自分の頭に手を置いた。

 萌黄ちゃんはふるふると首を振り、


「いーえ、そんなことどーでもいーんです。……それより、あの……ダイジョーブですか?」


「え? 大丈夫って……何が?」


「あ……えと、何度もお呼びしたんですけど、ずーっとお国の言葉でブツブツおっしゃってたので。どうかなさったのかなって、あの……心配で」


「えっ、そーなんだ? ごめん、全然気付かなかった」



 国の言葉って……ザックス王国の言葉ってことだよね?


 それじゃあ、萌黄ちゃんには意味がわからなかっただろうし。

 ずーっとブツブツ言ってたなんて、気味悪かっただろうなぁ……。



「ホントにごめんね? あの……ちょっとショックなことがあってね? そのことで、頭がいっぱいになっちゃってたから……。でも、もう大丈夫だよ。心配させちゃって、ホントにホントにごめんね?」



 私としては、ずっと同じ言葉でしゃべってる感覚しかないんだけど。

 無意識のうちに、ザックス王国の言語と、この国の言語、切り替えてしゃべってたのか……。


 何だかよくわからないけど、便利な能力(?)だなぁと、つくづく思う。

 まるで、自動翻訳ツールにでもなった気分。


 ずっと向こうの世界にいたら、将来は、通訳にだってなれてたかもしれないなぁ……。



 ――なんて。

 ひたすら自分の能力に感心していると。


 萌黄ちゃんは、未だ心配そうな顔でこちらを見つめ、時折目をそらしたりしながら、何やら考え込んでいるようだった。



 やがて、何事か決意したかのように、表情を引き締め、


「あのっ!……ヒスイとも、お国の言葉でお話してましたけど……もしかして、お知り合いなんですか? だとしたら、えっと……どーゆー……お知り合いなんでしょう?」


 探るような瞳で、どストレートな質問を投げ掛けてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ