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巫女姫来訪

 部屋にやってきたのは、藤華さん付きの女官さん数名だった。


 女官というのは、紫黒帝や、高貴な人達に仕える使用人さん? みたいなものみたい。

 ザックス王国で言えば、私のお世話をしてくれてるメイドさん達(アンナさんとエレンさん)のことだよね。


 女官さんも、お役目の種類によって、いろいろな呼び名があるそうなんだけど。

 結構ややこしくて、紹介がメンドクサ――……いや、んんっ、コホンコホンっ。


 えーっと……時間が掛かっちゃいそうだから、ここでは『女官さん』で統一しておくことにしよう。



 ……まあ、とにかく。

 その女官さん達から伝えられたのは、『藤華さんが挨拶したいって言ってる。部屋に行っても問題ないか?』ってことだった。(もちろん、もっと丁寧な言い方だったけど)


 わざわざ来てもらうなんて申し訳ないし、こちらから伺いますって伝えたら。

 ザックス王国の姫君に、わざわざご足労願うなど、とんでもないことでございます――とかって、やんわりと断られちゃった。



 藤華さんだって、この国の巫女姫なんだから、身分はかなり高いはずでしょ?

 他国の姫相手だからって、そんなに気を使ってくれなくてもいいのになぁ……なんて思ったものの。


 些細なことで遠慮し合ってても、話が進まないかと考え直し、ここは素直に、申し出を受け入れることにした。


 女官さん達は、『それでは、しばしお待ちください』と言い置き、しずしずと部屋を出て行った。



 そして今、私はと言うと。

 ものすごく緊張しながら、藤華さんが訪れるのを待っている。



 藤華さんは、お母様が夢見の力とやらで見つけ出して、次の巫女姫にって指定(?)したほどの人なんだし。

 おまけに、雪緋さんの秘密も知ってて、月禊の護衛役に、彼を指名し続けてくれてるらしいし。


 だったらきっと、良い人に決まってるよね?

 もう、優しい人ってわかってるも同然なんだから、緊張する必要なんてないじゃない。


 ……そう、思ってるんだけど……。


 わかっててもやっぱり、初めて会う人には、なんとなく身構えちゃう。

 お母様の話とかも、聞かせてもらえたら嬉しいけど……そこまで親しくなれるかなって、ちょっとだけ不安なんだ。




 ――あ。そーだ。


 そもそも藤華さんって、今幾つなんだろう?

 お母様に見出された時、彼女が何歳だったかがわかれば、年齢も判明するんだけどなぁ――……。



 藤華さんのことをあれこれ考えていた、その時だった。

 さっき来訪したばかりの女官のリーダーっぽい人の声で、部屋に入っていいかと訊ねられた。


 私は『はい! どうぞ』とドキドキしながら返事した後、慌てて立ち上がる。


 すると、引き戸が左右にゆっくりと開き。

 中央――ちょうど私の正面辺りに、一人の女性が現れた。



(ふぁああ……。またまた、キレイな人のご登場だぁ……)



 ひと目で惹きつけられてしまった私は、両目をめいっぱい開いたまま固まった。


 その女性は、純和風の顔立ちの紫黒帝とは、また違って。

 パッチリとした大きな目、鼻筋の通った鼻、厚いわけではないけど、ふっくらプルンとした魅力的な唇が、バランス良く顔に配置されている、やや西洋寄りの顔立ちをしていた。


 しかも、瞳の色は明るめのチャコールグレー。肌色は、東洋人のように黄みの強い白ではなく、北欧人のように純白に近い白。


 髪も真っ黒なストレートではなく、明るめのグレーで、ちょこっとウェービー。



 えーっと……。

 もっと大雑把に、わかりやすく言えば、西洋風の顔立ちの美しい人だった。



 その女性は、いつまでもポケーっと突っ立っている私を不思議そうに見つめると、数回瞬きし、花が開くようにふわりと微笑んだ。


「ご挨拶が遅れてしまいまして、申し訳ございませんでした。わたくし、蘇芳国の〝巫女姫〟というお役目を務めさせていただいております、藤華と申します。リナリア姫殿下の御母上であらせられます紅華様には、幼い頃、大変お世話になりまして……。いいえ。このように短い言葉では、とても言い尽くせませんわ。紅華様は、わたくしのかけがえのないお方。神にも等しい存在ですもの」


「……はぁ――。……えっ、神?」


 ボケボケ続行中のまま、藤華さんの言葉を聞いていた私は、〝神にも等しい存在〟という大袈裟な言葉が引っ掛かり、ようやく我に返った。


 驚きと戸惑いで、今度は目だけでなく、口までもがポカンと開いてしまう。

 藤華さんは優しくフッと微笑むと、小さくうなずいた。


「はい。わたくしにとって、紅華様は神同然のお方なのです。そして、大恩人でもございます」


「大……恩、人……?」


「はい。大恩人です。これは、わたくしが幼少の頃のお話でございますが……。あ、いけない。わたくし、こちらへは、ご挨拶に伺っただけなのでしたわ。お話するとなると、かなり長くなってしまいますので……。残念ですが、紅華様のお話は、また次の機会に――ということにさせていただきますね。わたくし、本日のお務めが、まだ少ぅし残っておりますの。慌ただしくて申し訳ございません。――それでは、リナリア姫殿下。またお会いいたしましょう。お邪魔いたしました」


「えっ?……あ、はぁ……。な、何のお構いもできませんで――……」



 はたして、『お邪魔いたしました』に対しての返答は、『何のお構いもできませんで』で合ってるのか?


 ――そんな疑問が浮かぶよりも早く。

 藤華さん御一行は、足早に退室して行った。



 きっと、忙しい人なんだろう。

 『本日のお務めが、まだ残っている』みたいなことも言ってたし……。



「巫女姫って、かなり激務っぽいなぁ。……私、部屋でこのまま、のほほーんとしててもいいのかな?」


 なんだか、急に落ち着かない気持ちになってしまって。

 私は立ったまま腕を組み、う~んとうなって首をかしげた。

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