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迎えはお神輿?

 蘇芳国の帝――紫黒帝の住んでいるところ(御所)は、山の上の方にあるらしい。

 まあ、山って言っても、そこまで高くはないみたいなんだけど。


 高くなくても、御所までは結構時間が掛かるらしく、紫黒帝が迎えを寄越してくれたんだけど……。


 迎えの乗り物が、見事にお神輿っぽくて。

 私は一瞬、アホの子みたいにポカーンと、口を開けて固まってしまった。



 ……お神輿。


 うん。

 まさに、見た目はお神輿。


 でも……これからお祭りがあるわけじゃないんだから、お神輿であるわけがないよね?



 向こうの世界の江戸時代辺りには、駕籠っていう乗り物があったけど。

 それとはまた、見た目がちょっと違うし。


 駕籠は、人が乗るところ(簾みたいなので覆われている、四角い箱型の物体)が、下の方に付いていた。


 だけど、迎えの乗り物は下ではなく、上の方に設置されているから……。

 駕籠よりも、お神輿のイメージに近いんだよね。



 うん。

 そーよ、絶対そう!


 見た目は完全にお神輿!

 肩に担いで、ワッショイワッショイ! ってヤツと一緒。




 ……え?

 でも、これが迎えの乗り物ってことなら――……。


 今から私は、これに乗らなきゃいけないの?



「えぇえーーーーーッ!? 嘘でしょ!? 御所までこれに乗ってくの!?……私が? たった一人で、この乗り物に?」



 人が乗る部分は、四方に簾のようなものが掛かっているから、見世物状態にはならないで済む、とは思うんだけど……。


 でも……一人でこれに乗って行くのは、やっぱりちょっと……。

 ううん。かなり恥ずかしい……ような……。



「え~……っとぉ……。私だけ乗り物に乗せてもらうなんて、先生やイサークに悪いし、担いでってくれる人達も大変だし……。山登りって言ったって、険しい道が続くわけでもないんでしょ? だったら、私もみんなと一緒に歩――」


「ふざけたことを言うものではない。ザックス王国の姫が歩いて山を登るなど、あり得ていいわけがなかろう? 君は我が国の王――クロヴィス国王陛下の第一王女であると共に、一国の代表として、紫黒帝に招かれているんだぞ? 役人や従者と共に歩いて行くなど、正気の沙汰とは思えん。いい加減、大国の姫であるという自覚を持ったらどうだ?」


「う――っ」



 徒歩の申し入れをしたとたん、先生に冷たい視線を向けられ、お説教されてしまった。

 私は顔を赤らめながら、『すみません』と小声で告げ、小さく縮こまった。



 ……そうだよね。


 私は一応、お父様の代理として、蘇芳国に招かれてるんだもの。

 独りよがりな思いつきを、口に出したりしちゃいけないんだ。


 私の言動のひとつひとつが、ザックス王国の評価に響いちゃうっていう可能性も、充分あり得るんだもの。

 お父様や、ザックス王国の人達に恥をかかせちゃうようなことは、なるべく慎まなきゃ……。



 私は大いに反省し、スゴスゴとお神輿風の乗り物に乗り込んだ。



*********



「はぁ~~~。つっかれたぁ~~~~~」


 御所とやらに着き、これからしばらく泊まることになる、私のために用意された部屋まで案内された後。

 床にゴロンと横になり、私は深いため息と共に、冒頭のセリフを吐き出した。


 もちろん、案内役の人が見えなくなってから、だけど。

 さすがに、蘇芳国の人達の前で、こんなだらしない姿はさらせないもんね。



 案内役の人からは、


「帝は、本日のお務めを終えられましてから、リナリア姫殿下とお会いしたいと仰せでございました。用意が整いましたら、改めてご案内差し上げます。どうか、それまでごゆるりとおくつろぎください」


 って言われてるけど。

 いくらなんでも、寝転ぶってのはちょっと、くつろぎ過ぎかな……?



「そーよね。私、国の代表なんだもの。いくら疲れてて、一人で部屋にいるからって、気を抜いてちゃいけないか」


 自分に言い聞かせるようにつぶやくと、私は素早く起き上がり、少し乱れてしまった服を整えた。



 向こうの世界には、『壁に耳あり障子に目あり』ってことわざもあったくらいだし。

 いつ、どこで、誰に見られたり聞かれたりしているかも、わからないんだから。



「もっとちゃんとしないと! さっきまでの姿を先生に見られでもしたら、またクドクドとお説教されちゃうもんね!……うぅ……。ホントに気をつけなきゃ……」


 反省したとたん、先生の呆れ顔が脳裏に浮かび、ゲンナリして肩を落とす。



 先生とイサークは、私が案内された部屋とは逆方向の、かなり離れた建物に、案内されて行ったみたいなんだけど。

 イサークは説明を受けた後、


「はあッ!? 俺は姫さんの護衛だぞ!? そんな離れたとこから、どーやって姫さんを護れってんだよ!?」


 なんて言って、しばらくの間、この国の役人さん達と揉めていた。


 実は私も、一人だけなんて心細かったから、イサークの言葉には、大きくうなずいてしまったんだよね。


 でも、私が宿泊する部屋の近くには、巫女姫である藤華さんと、紫黒帝の正室である露草(つゆくさ)さんの部屋もあるんだそうで。

 イサーク達を疑うわけではないけれど。

 彼女達に近い部屋に、男性を泊まらせるわけには行かない――ということだった。



 ……まあ、そこまで言われてしまったら、こちらも引くしかないじゃない?

 藤華さんは、数日後に〝神結儀〟が控えてるんだし。


 神結儀は、要するに、神様のお嫁さんになる誓いを立てる……って感じの儀式なんでしょ?

 神様のお嫁さんになる日の直前に、そりゃあ、男性は近寄らせたくないよね。

 紫黒帝の正室――正妻さんの部屋も近いって言うなら、なおさらのこと。



 ……でも、紫黒帝って結婚してたんだ?

 ここに着くまで、全然知らなかった。

 遠い親戚筋であろうと、私の叔父さんにあたる人のことなのに。


 そりゃあ、お母様の弟にあたる人なら、年齢も結構上の人だろうし、結婚しててもおかしくないけど……。



 巫女姫である藤華さんと、紫黒帝の正妻である露草さん、か……。

 いったい、どんな人なんだろ?


 会うのが楽しみなような……ちょこっとだけ、怖いような。


 私はなんとなくソワソワしつつ、紫黒帝からお呼びが掛かるのを待った。

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