表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/251

想定外の下船方法

大変長らくお待たせいたしました。

カクヨムと同時更新の準備が整いましたので、本日から連載を再開いたします。


ただし、誠に勝手ながら、こちらの都合(遅筆)により、更新は1日1話から2日に1話に変更となります。

ご迷惑おかけいたしますが、どうかご理解くださいませ。

 ザックスの旅客船は、出港から1ヶ月ほど経った頃、蘇芳国に到着した。


 ……までは、よかったんだけど。

 実は、大変なのはそこからだった。


 蘇芳国には、大きな船を停泊させておけるような、立派な船着き場はないんだそうで。

 下船するには、蘇芳国からの迎えである小さな舟に、はしごを使って降りて行かなければならないんだって。


 それを聞いた瞬間、私はちょっと戸惑った。



 べつに、はしごで降りるのが怖い――ってわけじゃない。


 自慢じゃないけど、身体的能力は高めの方だし。

 バランス感覚も悪くないはずだし、体幹だって、しっかりしてる方だと思う。

 昔は木登りだってよくしたし、はしごを降りて行くくらい、どーってことないんだけど。



 ……でも。

 でもね?


 迎えの小舟に乗っていたのは、男の人達ばかりだったんだよね。

 数人の男の人達が、この船の真下で、上向いてボーッと(かどうかわわからないけど)突っ立ってるの。



 ……マズいじゃない?

 どー考えたってマズいでしょ!



 だって……だって……。


 ほんのちょっとの風でまくれ上がってしまうような、Aライン風のドレスから、もう少しタイトな、蘇芳国風のドレスに着替え終わってはいるものの。

 それでも、下から思いっきり強風が吹いてきたりなんかしたら、やっぱり、裾がまくれ上がっちゃうかもしれない!


 ……私も一応、一国の姫なんだし。

 そんな醜態(しゅうたい)を、大勢の男性達の前で、さらすわけには行かないじゃない?



 うぅ……、でも……。

 他に下船する方法はない、わけだし……。


 ここは覚悟を決めて、降りて行くしかない……のか、な……?



 なんてことを考えながら、しばらく沈黙していた私の前に、雪緋さんが進み出て、


「リナリア姫様。これから、しばし無礼を働きますこと、どうかお許しください」


 と言ったかと思うと、私を素早く抱きかかえ、『ハッ!』という掛け声と共に、船の手すりの上に飛び乗った。


「えっ?……えええッ!?」


 突然お姫様抱っこされ、おまけに、船の手すりなんていう不安定なところに飛び乗られ。

 私は心底ビックリして、雪緋さんをまじまじと見つめてしまった。



 手すりの近くでは、イサークが大声でわめいていて……。

 でも、何を言っているかはわからなかった。


 ――っていうか。

 雪緋さんの行動に驚きすぎて、そっちまで気にしている余裕はなかった……っていうのが、正直なところなんだけど。



 雪緋さんは私と目が合うと、フッと口元をほころばせた。(相変わらず、目は前髪に隠れていて見えないから、口元で感情を読むしかないのが、ちょっとやっかい)


「この先は、少々、衝撃を受ける可能性がございます。お怪我なさることがございませんように、強く歯を食いしばっていていただけますか? それから、しっかりと私につかまっていてください」


「えっ?……え、なに? どーゆーこと、雪緋さん? これから、どーするつもりなの? そんな大きな体で、こんな細いとこ乗っちゃって……。だ、大丈夫なの? 海に落ちちゃったりしない?」


 慌てて訊ねる私に、彼は再び笑い掛ける。


「こう見えましても、身は軽い方なのです。どうかご安心ください」


「ご、ご安心くださいって……。じゃあ、雪緋さん。もしかして……?」


「大切な国賓であらせられます姫様を、海に落としてしまうような失態を演じましたら、私は即座に死罪です。絶対に、そのような愚かなことはいたしません。……リナリア姫様。今一度お願いいたします。強く歯を食いしばり、私にしっかりとつかまっていてください」


「……え、と……。わ、わかった。雪緋さんに従います!」


 私は雪緋さんにお願いされたとおり、強く歯を食いしばり、おまけにギュッと目をつむって、彼の首元に抱きついた。


 彼は『一、二――』とつぶやいた後、大きな声で『三――っ!』という掛け声を上げた。


 次の瞬間。

 エレベーターが降下した時のような浮遊感に、いっときゾワッとなり、私は大きく目を見開いた。


「…………え?」


 恐る恐る顔を上げ、周囲を見回す。

 そこには、ギョッとした表情のまま固まっている、蘇芳国の役人さん数人と、船頭さんっぽい人がいた。


「え……?」


 更に顔を上げ、雪緋さんの肩越しから、上方へと目をやると。


「おいっ、てめえ!――雪緋! いきなり何してくれてんだッ!? 姫さんに何かあったら、こっちだってタダじゃ済まねーんだぞ!?」


 ギャーギャー文句を言いながら、はしごを降りてくるイサークが見えた。

 更に上に目を移すと、手すりから少しだけ顔を出し、こちらをじっと見下ろしている、先生の姿が……。


「え……ええええッ!? 雪緋さん、あの一瞬で……。私を抱きかかえたまま、あの大きな船の手すりから、この小さな舟に飛び降りちゃったの!?……えっ、ホントに?」


 雪緋さんが手すりに飛び乗った時よりも、更に、更に驚いて。

 私は彼の顔と大きな船とを、何度も何度も見比べた。


 彼は腕の中から迎えの小舟へと、私をそっと下ろした後、


「はい。リナリア姫様に、そのお姿のままはしごを降りていただきますのは、忍びない気がいたしましたので……。出過ぎた真似をいたしまして、大変失礼いたしました」


 そう言って、深々と頭を下げた。


「ううん! ううんっ! 全っ然、出過ぎたマネでも、失礼でもなかったよ!? この服のまま、どーやってはしごを降りたらいいんだろーって、困ってたのは確かだし!……でも、すごいね! あれだけ高いとこから飛び降りたのに、衝撃なんて少しも感じなかった! 船だって全然揺れてないし、波だって掛かってないし! 普通、あんなに高いとこから飛び降りたら、すっごい衝撃感じるはずだよね!? しかも、飛び降りた先は、こんなに小さな舟だし! 思いっきり揺れまくって、波がバッシャンバッシャンって入り込んで、転覆しててもおかしくなかったと思うのに! すごいねすごいね! 身軽にもほどがあるって感じだよ! 雪緋さんって、ホントにすごいっ!」


 興奮して褒めまくると、雪緋さんは照れくさそうに体を縮こめ、僅かに首を横に振った。

 すると、はしごからこの船へと、ようやく移ってきたらしいイサークが、


「テメーなぁ!? そーゆーつもりならそーゆーつもりだって、最初に説明してけよなッ! ついでに、でけえ図体のわりにゃあ、すっげー身軽だってこともだ! いきなり姫さん抱えて飛び降りられたら、たまげんだろーが!……おいっ、わかったか!? わかったら返事しやがれっ、この大バカヤローめッ!」


 真っ赤な顔をして怒りながら、雪緋さんの背をバシバシ叩いた。

お読みくださりありがとうございました。


やや男性向けの作品(ラブコメ?)の構想も、少しずつ練っております都合上、前書きでお伝えしましたとおり、これからは1日置きの更新となります。


第4章からは、新キャラクターも続々と登場いたしますので、引き続きお読みいただけますと嬉しいです。

どうかよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ