表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/251

船旅二十七日目-挙動不審な護衛

 先生と雪緋さんが部屋を出て行ってから、およそ数分後。

 再びノックの音がして、誰だろうと思って返事をしたら、イサークだった。


「どーしたの、イサーク? 何かあった?」


 ドアを開けて訊ねると、イサークはパッと目をそらし、


「い、いや……。さっき、ウサギ男が言ってたことなんだが……。あ~……。え~……っと、その……」


 彼らしくなく、何やらモゴモゴ言っている。

 私はポカンとした後、


「ウサギ男、って……。もしかして、雪緋さんのことを言ってるの?」


 何だかちょっとムカッとしながら訊ねてみた。

 イサークはキョトンとした顔つきで、


「あ?……あ、ああ。そうだ。アイツ以外にいねーだろ」


 なんて、あっさりと肯定して来て、更にムカムカッとしてしまった。


「もうっ、イサークったら! いくらなんでも、その呼び方はないよ! ウサギさんなら可愛いけど、後に『男』なんて付けたら、すっごくバカにしてる感じがする! 雪緋さんには、ちゃんと素敵な名前があるんだから、変な呼び方しないでくれる?」


 一応、お願いしてみたけど。


 考えてみれば、先生のことも『毒舌陰険男』だの『冷血嫌味眼鏡』だの『冷酷陰険眼鏡』だのと、その時の気分で、彼は好きなように呼んでいる。

 ここで雪緋さんの呼び方だけに意見しても、聞いてもらえるかどうか――……。


 ……って、あれ?


 先生の呼び方は、思いっきりスルーして来たのに。

 どうして雪緋さんの呼び方だけ、注意しようとしてるんだろう、私?



 ……んん?


 ……む、むむぅ~……。



 た――っ、確かに、雪緋さんの呼び方だけ注意するって言うのは、不公平かもしれないけど!


 でも……っ、せ、先生は、そんなの全く気にしないタイプの人っぽい――ってゆーか、何事にも動じない人だし!

 誰にどー呼ばれよーが、これっぽっちも気にしないだろーし、傷付いたりもしないと思うんだよねっ。


 でも、雪緋さんはすっごく繊細っぽいし、泣き虫だし。

 たぶん、そーゆーの、メチャメチャ気にしちゃう人だと思うから――。


 だから、えーっと……そのぉ……。


 やっぱり、雪緋さんの呼び方だけは、ちゃんと気を遣ってあげてほしい――ってゆーかっ!



「ああ、わかった。じゃあ、雪緋――って呼べばいいんだな?」

「……へっ?」


「だから、雪緋って呼べばいいんだろ?」

「え……あ、う……うん。雪緋さんが、それでいいなら……いいんじゃない、かな?」


「そうか。じゃあ、後で本人に確認してみる」

「う……ん。……じゃあ、そーゆーことで、その……。よ、よろしく」


 意外にも、彼はこちらの要望を、すんなりと聞き入れた。

 いつもなら、もっと突っ掛かって来てるところなのに……。


 驚いて、マジマジと見つめてしまっていたら。

 彼はほんのり頬なんか染めながら、軽くにらんで来た。


「な、なんだよ? 雪緋って呼べばいーんだろ? まだ文句あんのか?」

「……ううん。文句なんてないけど。イサークが、妙に素直だから」


「う――っ!……な、なんだよ? 俺が素直じゃ悪いってーのか!?」

「悪くないよ? 悪くなんてないけど、今日のイサーク、なんだかいつもと違うなぁって、不思議に思ってるだけ」


 素直に思ったことを告げると、彼は気まずそうに顔を背けた。

 そして少しの沈黙の後、再びこちらに顔を向けて。


「べっ、べつに、俺はいつもと変わんねーよ! ただ、今日はあんたの誕生日だって、さっきウサギお――っ、……いや。雪緋が言ってたから、そんな日くれーは、嫌な思いさせねーでやろーって思っただけだ! だっ、だからっ! 俺はちっとも変じゃねーし、あんたのことなんざ、これっぽっちも気にしてなんかいねーんだからなっ? 今日だけ――っ、今日だけのことなんだから、勘違いすんじゃねーぞっ!? わかったなっ!? わかったらさっさと寝ちまえっ!!」


 一方的にまくし立てた後、彼は乱暴にドアを閉めた。

 私はあっけにとられながら、閉じたドアの前で、しばらく立ち尽くしていたんだけど。

 ふと我に返り、



(『さっさと寝ちまえ』って言われても……。まだ夕食済んだばかりだし、寝るには早過ぎる時間……だよね?)



 ひたすら首をかしげつつ、私は、『今日のイサークは、やっぱり変』と結論付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ