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船旅二十七日目-贈り物

 先生と雪緋さんは、予定通り、夕食後に私の部屋を訪ねて来た。


 先生からは、お父様から預かったというネックレスのようなものを渡され。

 雪緋さんからは、蘇芳国の紫黒帝が私に贈るために作らせたという、蘇芳国の礼装に洋風アレンジを加えたドレス(?)を、贈り物としていただいた。


 ネックレスは、鮮やかな細めの組紐に、勾玉が等間隔に結び付けられている、ちょっと変わった感じのものだった。


 先生がお父様から聞いた話によると。

 お母様の形見の品で、彼女が巫女姫だった時、いつも身につけていたものだそうだ。


 そんなに大切なもの、もらってしまっていいのかと、喜びより先に、不安を感じてしまったんだけど、


「陛下は、この上なく大切なものだからこそ、君に贈りたいと思われたのではないか。君は、陛下と亡き王妃の、たった一人の愛娘なんだぞ。君以外の誰に、この品を受け取る資格がある?」


 そう先生が言ってくれたお陰で、素直に受け取ることが出来た。


 紫黒帝からの贈り物であるドレスは、透けるほど薄くて長い布が、肩に掛けてあったんだけど。

 風で舞い上がったりしたら、天女の羽衣みたいに見えるだろうなぁ……なんて、思わずうっとりしてしまった。


 なんでも、『神結儀』に出席する外国人は私だけだから、一人だけ洋装では目立ってしまうだろう。恥ずかしい思いをするかもしれないってことで、紫黒帝が、蘇芳国風のドレスを贈ることを、発案してくれたらしい。


 それに加え、蘇芳国の正装では、着慣れない人間には窮屈だろうからと。

 仕立て屋さん(?)達に研究させて、形は蘇芳国の礼装に近いものの、袖や裾に控えめなフリルを付け、帯をリボン結びにした、洋風のアクセントを加えたドレスを、頑張って完成させてくれたのだそうだ。


 それを聞いて、なんて心配りの出来る人なんだろうって、感動しちゃった。


 元は遠縁ではあるにせよ、紫黒帝はお母様の弟。

 つまり、私の叔父様ってことになるんだよね?


 蘇芳国に行くことが決まった時から、ずっと、『どんな人なんだろう? 近寄りがたい感じの人だったら、困るな』なんて心配してたけど。

 俄然、会うのが楽しみになって来ちゃった。

 そんなに素敵な人が、私の叔父様なんだ……って思ったら、すごく誇らしく思えたんだ。



「先生、雪緋さん、ありがとうございました! こんなに素敵な品を贈ってもらえるなんて、とっても嬉しいです! 一生忘れられない、最高の誕生日になりました!」


 上機嫌でお礼を言ったら、先生には、


「その品は、陛下よりの贈り物だ。私は何もしていない。礼を言われる筋合いはないが」


 とかって、いつもの調子で返されてしまった。

 雪緋さんには、


「あ……は、はい。私も、帝よりお預かりしたお品を、お渡ししただけのことですので……。お礼などと、滅相もないことでございます。むしろ、私個人からの贈り物は、何もご用意することが出来ず、大変心苦しく思っております。誠に申し訳ございません」


 なんて、ひたすら恐縮されてしまった。



 ええーっ?

 そんなつもりで言ったんじゃないのに。


 渡すことを頼まれただけとか、代理だとか、そんなことはどーでもよくて。

 ……ただ、嬉しかったから。

 すごく嬉しかったから、素直に、感謝の気持ちを伝えただけなのに……。



 逆に気を遣わせてしまったのかなと、しょんぼりしていたら。

 先生はコホンと咳払いして、


「すまない。年に一度の誕生日に、水を差すようなことを言ってしまった。だが、その……私が言いたかったのは、礼を言われるのはまだ早い、という意味で……だな」


「……え?」


 珍しく歯切れが悪い先生を、不思議に思って見上げると、


「ほら。こちらが私からの贈り物……と言うか、今日の記念の品だ。受け取りたまえ」


 心なしか、頬なんか染めちゃったりしている先生が、私の前に片手を差し出した。


 手のひらの上には、三つの仕切りの付いた、小さな木箱があった。

 蓋の中心部だけ、中が見えるガラス素材になっている。

 仕切られた内のそれぞれには、直径一センチくらいの、淡い青の石、濃い青の石、真っ黒な石が入っていて。

 真っ黒のだけ、表面にツヤがなく、他の二つは、ツヤがあってスベスベしていた。


「え……。先生、これは?」

「だから、贈りも――いや、コホン。……記念品だ」

「記念品?」


「以前、貴光石についての説明をした時、君はその三種を、目視で確認してみたいと言っていただろう? 原貴光石と黒石は身近な石だが、純貴光石は貴重だからな。なかなか入手することが出来なかったのだが、一ヶ月ほど前、ようやく全て揃ってな。誕生日も近いと言うことだし、この機会に、現物を確認させてやろうと思ったわけだ」


「え……っと……。貴光、石……」



 ――あ! そーだ。

 そー言えばそーだった。



 この世界での灯の役目を果たす、貴光石。


 貴光石は二種類あって、それが今、先生が言っていた『原貴光石』『純貴光石』なんだけど。

 『原貴光石』は、この世界の灯の役割を果たすもの。


 そして『純貴光石』は、蓄光成分が極めて低く、灯の役割は果たせない代わりに、石の透明度がすごく高くて、色も、原貴光石より深みのある青で、見惚れちゃうほど綺麗なの。

 だから、指輪やネックレスなどの宝飾品に、加工されることが多いんだって。――まあ、つまりは宝石ってことだよね。


 それから、最後の『黒石』。

 これは、『原貴光石』と『純貴光石』が、長ーーーい年月を経て、黒色に変化したもの。


 貴光石と、成分的には大差ないそうなんだけど。

 黒石は、蓄光成分は全くなくなってしまう代わりに、よく燃えるんだそうだ。

 原貴光石より多くて、比較的安価だから、中流以下の人達は、原貴光石より、こちらを灯として利用することが多いみたい。


 まあ、つまり。


 王族や貴族などの上流階級が、灯として利用しているのが原貴光石。

 それ以外の人達が、灯として利用するのが黒石。

 宝石としての価値があるのが、純貴光石ってこと。


 以前、先生に貴光石のことを教えてもらった時は、『こんなに身近な石のことも知らないのか、君は?』って、呆れられちゃったんだけど。

 それまで、原貴光石しか見たことがなかったから、全種並べて見てみたいなーって、ポロッと言っちゃったんだよね。


 そんな他愛のないつぶやきを覚えていて、プレゼントまでしてくれるなんて。

 私は感動で涙がにじみそうになるのを必死に堪え、改めて先生にお礼を言った。

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