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船旅二十一日目-先生の特別講義・2

 神の恩恵を受けし者(東洋では『獣人』と呼ばれている)の第一号――最初に人間化した動物は、先生も言ってたように、『孤高の王』と呼ばれているらしい。


 彼が誕生したのは、千年ほど昔。

 ものすごい能力の持ち主だったらしく、知能も身体能力も、人間を遥かに超えていたと、歴史書には記述されているんだそうだ。


 でも、そこに書かれている能力というのが、にわかには信じがたいような、人間離れしたものばかりだったため。

 中には、記述者が創作したものも含まれているのではないかと、先生は疑っているらしい。


 例を挙げると、


 1、自分の種族だけではなく、全ての動物を自在に操れた

 2、雷を落としたり、雨や雪を自在に降らせたりも出来た

 3、家一軒分ほどの大きな岩を、指一本で動かすことが出来た


 ……などなど。


 とにかく、『神か?』って驚愕してしまうような能力が、ズラズラと並んでいたんだって。



 雪緋さんの話にもあったように。

 人間に忠誠を誓い、生涯結婚せず、子供も持たず――という約束事を提示して来たのは、『孤高の王』の方かららしく――。

 以後今日まで、その約束が破られたことは、ただの一度もないということだった。



「えっ?……それじゃ、雪緋さんと同じ存在――実在の『禁忌の子』は、過去に一人もいなかったんですか?」


 話の途中で私が訊ねると、


「その時代の権力者らによって、歴史が都合よく改ざんされたり、葬り去られたりすることなど、よくあるとも聞くしな。歴史書に書かれていることが、全て真実とは限らない。その存在を、ごく一部の人間のみが知り、一生を終えるまでかくまわれていた『禁忌の子』が、彼以外にもいた可能性は、絶対にないとは言い切れまい」


 先生はそう言って眼鏡を外し、ベストの胸ポケットから、真っ白なハンカチを引き抜いた。

 それで眼鏡のレンズを拭きながら、講義を再開する。



 次に先生が教えてくれたのは、『神の恩恵を受けし者』の種類についてだった。


 今のところ、上位種、下位種、中位種――という三種が存在するらしいんだけど。

 最後の『中位種』は『禁忌の子』のことらしいから、表向きには二種ってことになっているんだって。


 上位種とされているのは、頭の部分だけが動物(脊椎動物、しかも哺乳類に限られるみたい。鳥類、爬虫類などの上位種は、まだ存在を確認されていないそう)で、他の体の部分は人間と同じというタイプ。

 この種は、ウォルフさんが当てはまる。


 上位種は、『神の恩恵を受けし者』の中では、知能や身体能力が一番高く、複数の特殊な能力を持っている者も、少なくないらしい。

 西洋の国では、王族や貴族の執事、メイド、教育係や武術師範など、比較的身分の高い人に仕える例が多いそうだ。


 だけど、東洋では全く逆で。

 西洋のように、存在を重宝がられてはいないらしい。上位種も下位種も同様に、庶民以下の扱いを受けていることが多い、ということだった。


 それを聞き、私はなんだか堪らなくなって、


「庶民以下の扱いって? 具体的には、どんな扱いをされているんですか?」


 怖々訊ねてしまったんだけど、先生は答えてくれなかった。

 ただ、


「その答えは、蘇芳国で己が見聞きしたものの中から、見つければいいことだ。私も、実際に蘇芳国に渡るのは、今回が初めてなのだからな。書物で得た知識を教わるより、己の目で確認した方が確実だ」


 それだけ伝えると、今度は、下位種の説明をし始めた。



 下位種とは、姿形はそのままに、体だけが、人間並みの大きさに変化したタイプのことらしい。

 この種には、セバスチャンが当てはまる。


 知能や身体能力は、上位種ほどではない。

 しかし、平均的な人間か、それ以下か――というくらいには、優れているそうだ。

 特殊能力も、ひとつかふたつくらいは、持っている場合もあるってことだけど……。



 セバスチャンは……え~っと……。


 ……あ。

 そう言えばセバスチャン、鳥さんに手紙――書状を届けさせることが出来るよね?

 あれも、特殊能力ってことになるのかな?


 だとしたら、ずいぶん地味な能力だよね……なんて、ガッカリしそうになったけど。

 いやいや。

 たとえ、特殊能力なんてものを持ってなくたって、セバスチャンはそのままで、充分優秀(?)な執事だよ! それでいいじゃない! と、ムリヤリ自分に言い聞かせた。



 最後は中位種――『禁忌の子』について。


 先生ほどの知識人だからこそ、一応、知ってはいたけれど。

 その存在はタブーとされているから、ほとんどの人は知らないし、わざわざ知らされることもないらしい。


 先生も、知っていたのは『禁忌の子』と呼ばれる者がいる――ってことくらいだったそうで。

 雪緋さんによって、実在することが証明されたのだと、すごく興奮していた。


 だから、これから彼にいろいろ訊ねたり、傍らで観察したりして、『禁忌の子』の知識を深めたいって、一人で燃えていて……。


 本音を言えば、ちょっと不安だったりもする。



 雪緋さん……大丈夫かな?

 先生が、迷惑掛けなきゃいいんだけど……。


 この人、普段は何事においても淡白だったりするクセに、知識欲だけは異常にあるからなぁ……。



 ――と。

 心配事を新たに抱える羽目になったところで、先生の講義は終了した。

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