表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/251

船旅二十一日目-秘密を共有する者は?

「けどよ。いくら姫さんの母親ってぇ人の側に、置いてもらってたっつっても、今までよくバレなかったよな。満月のたびに、ウサギになっちまうんだろ?」


 ふいに発せられたイサークの言葉に、私はうんうんとうなずいた。



 いくらお母様の側で仕えていたと言っても、お母様は女性なんだし。

 年がら年中、一時も側を離れず――なんてことは、きっと、不可能だったはず。


 そんな中、いったいどーやって……今まで誰にもバレることなく、危機を乗り越えて来たんだろう?



 私とイサークは、早く答えを聞きたくて堪らず、ウズウズしていた。

 だけど雪緋さんは、好奇心丸出しの私達を、不快に思う様子など微塵も感じさせず、フッと口元をほころばせると。


「それは、紅華様が巫女姫であらせられたお陰で、うまく隠していただくことが出来たのです。巫女姫は、満月の夜が巡って来るたびに、『月禊(つきみそぎ)』という儀式をお一人でなさいます。その儀式の折、部屋の隅に一名のみ、護衛の者を置くことが決まりとされているのですが、紅華様はそのお役目を、いつも私に与えてくださっていました。護衛の者を誰にするかという選定は、巫女姫にのみ許されております。私が獣人であるという事実、さらに、禁忌の子であるという事実は、そのお役目のお陰で、知られずに済んでおりました」


「へえ~。なるほどぉ。……って、んん?……あれ? でもそれじゃ、お母様が巫女姫じゃなくなった後――ザックスにお嫁に行っちゃった後とかは、どーしてたの? お母様の次に巫女姫になった人って、確か……」


「はい。現在、巫女姫であらせられますのは、藤華様でございます。藤華様は、元は平民であらせられ、そして私と同様に、紅華様の夢見のお力で、御所に迎えられたと聞き及んでおります。巫女姫となられるお方は、前任者から、お務めの全てを受け継がれるのです」


「……へ? ってことは、つまり……その藤華さんも、護衛に雪緋さんを指名し続けてくれてるってこと? その人も、雪緋さんが満月の夜にウサギさんになっちゃうってこと、知ってるの?」


「はい。もちろんご存知です」

「そっかー。じゃあ安心だね」


 私はホッとして雪緋さんに笑い掛け、雪緋さんもまた、応えるように口元に笑みを浮かべた。



 雪緋さんの味方が、お母さまだけだったんだとしたら。

 お母様がいなくなってしまってからの彼は、かなり大変だったんだろうなと、心配してしまうところだったけれど。


 よかった。

 他にも味方がいたんだ。


 雪緋さんは、こんなに優しい人なんだもの。

 差別され、迫害されて、ずっと孤独なままだったりしたら、絶対に嫌だ。



 でも……どうして蘇芳国では、ザックスや、お隣のルドウィンと違って、神の恩恵を受けし者は、差別されているんだろう?

 ザックスとルドウィンでは、人間と同等の扱いを受けているのに。


 ……あ。

 でも……違うか。


 表面上は、人と同じような扱いを受けているように見えるけど。

 実は、結婚しちゃいけないとか、子孫残しちゃいけないとかって、ひどい決まりがあるんだもの。

 差別されていないとは、言い切れないよね……。


 セバスチャンもウォルフさんも、そんな扱い受けてるなんてこと、一言も言ってなかったのに。

 二人とも、責任ある仕事を任されているし、仲間内(?)では、『様』付けで呼ばれているくらいだし。


 なのに、どうして……。



 ……ヤダな。

 雪緋さんの国では、神の恩恵を受けし者は、『獣人』って呼ばれているってことは。

 ザックスやルドウィンとは、比べものにならないくらい、扱いが軽い感じがする。


 ヤダな。ヤダな。

 神の恩恵を受けし者のことで、私が知らないこと、まだまだたくさんある気がして。

 しかもそれが、あんまりよくないことばかりのような気がして……なんだか、すごく怖い。



 セバスチャン。ねえ、セバスチャン。

 今、どうしてる? ちゃんと元気でいる?


 嫌な話を聞いたばかりだからかな?

 無性にセバスチャンに会いたくなっちゃったよ。


 ザックスを離れてから、まだ一ヶ月も経ってないのに。

 ホントにダメだなぁ、私……。



 いろいろと考えていたら、すごく気分が落ち込んで来てしまった。

 深くうつむき、黙り込んでしまっていたら、急に先生が、


「ふむ。これもいい機会かも知れんな。――よし、今日の議題は決まった。朝食前だが、これから特別講義を行う。すぐに準備したまえ」


 ……なんてことを言い出して。

 私とイサークは『ええッ!?』と大声を上げた後、しばらくの間、情けない顔つきで先生を凝視していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ