表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤と翡翠の恋詠~【桜咲く国の姫君】続編・カイルルート~  作者: 咲来青
異国への旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/251

船旅十日目-デッキにて

「いっ――! イサーク!? どーしてあなたがここにっ!?」


 振り返った先には、いつの間にかイサークがいて、不機嫌そうな顔で、こちらをじっと見下ろしていた。


「どーしてって、決まってんだろーが。俺は、あんたを護衛するためにここにいんだぜ? 護衛相手のあんたが移動したら、そりゃー、移動したくなくたって、移動するしかねーだろーが」


「……え、でも……。なんで私がここにいるってわかったの? 自分の部屋にいたんだよね?」



 先生同様、イサークにも、ちゃんと個室が用意されているはずだし。

 ……まあ、他の客室に行ったことはないから、どんな部屋かまでは知らないけど。



 それにしても……こんな夜中に、護衛対象が部屋を抜け出したことを察知するなんて。

 イサークってば、もしかしてエスパー?


 ――なんてことを思いながら、私が首をかしげていると。

 呆れたように、私をジトリと見やってから、彼は深々とため息をついた。


「……ったく。マヌケな姫さんだな。護衛しなきゃなんねーってのに、部屋でノンキに寝てられるワケねーだろ」


「え? 部屋で寝てないの?……じゃあ、いったいどこで……?」


「あんたの部屋の前」


「私の部屋の――……って、ええッ!? まさかずっと!? 私が起きるまで、ずっとってこと!?」


「ああ。当たりめぇだろ」


「え……だって……。え……えぇええっ!?」


 事の重大さに気付き、私は驚きの声を上げた。



 そんな……。

 私の部屋の前ってことは……通路に?……ずっといたってこと?


 春とは言え、夜はこんなにも寒いのに……毎日、部屋の前で見張ってくれてたの?



「……あれ? でも、私が部屋を出た時、何度も周りを見回したけど……イサークの姿なんて、どこにも見えなかったよ?」


「用足しに行ってたんだよ。まさか、あんな夜中に、あんたが部屋を抜け出すなんざ、思ってもいなかったからな。戻ったら、ちょうどあんたの後姿が、通路の端に消えてくのが見えたもんで、慌てて追って来たんだ」


「そ……そー……だったんだ」



 ……そっか。

 そう言えば、ここんとこずーっと、イサークったら、アクビばっかりしてたもんね。

 もしかして、船酔いがひどかったりして、毎日眠れずにいるのかな?……なんて、思ってたりしたんだけど……。


 寝不足の理由が、まさか、私の部屋の前で一晩中見張ってたから……だったなんて。



「ごめん、イサーク。私が、『お供は二人で充分』だなんて、言っちゃったから……。そーだよね。せめてもう一人くらい、護衛の人がいてくれた方がよかったよね。じゃなきゃ、イサークがずっと、私の側についてなきゃいけなくなっちゃうんだもんね……」



 そんな簡単なことにすら、今まで気付きもしなかった自分が、恥ずかしくて堪らなかった。


 城にいる時は、講義を受けている時間以外、昼間はシリルがついててくれてたけど。

 夜は、部屋の前での見張りなんて、誰にもしてもらったことがなかったから……それと同じように、考えてしまっていた。


 私自身についてはいなくても、城には、常に交代で見張ってくれている、守衛の人達がいるんだ。

 夜でも、ずっと番をしてくれている人達がいるって認識が、完全に抜けてた。


 長い間の外出時には、最低でも、昼と夜、交代でついててくれる人が必要だったんだ。

 そうじゃなきゃ、一日中イサーク一人に、負担が掛かってしまうもの……。



「ホントにごめんね、イサーク。ごめんなさい! 私、夜の見張りのことなんて、全然考えてなかった。城にいる時の、シリルの場合と同じに考えちゃってた」


「べつに構わねえさ。あんたが、あの嫌味眼鏡に学問とやらを教わってる間、どーせこっちは暇なんだしよ。そん時に、ちゃんと休ませてもらってるぜ?」


「でも! 講義は午前中三時間、昼食後に二時間、それから一時間の休憩挟んで、夕食までの二時間って感じで、途切れ途切れだし……。そんなんじゃ、ぐっすり眠ったりは出来ないでしょう?」


「――あ? そーでもねーぜ? いつも普通に眠れてるって」


「嘘! だってイサーク、船に乗ってからってゆーもの、毎日アクビばっかりしてるじゃない! あんな状態で、ちゃんと普通に眠れてるなんて……悪いけど、信じられない」


「う――っ。……そ、そりゃまあ、充分ってほどじゃねーけど……」


 語尾を弱めて行きながら、イサークは気まずそうに視線をそらす。

 そんな反応を見て、私はますます、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



 ……バカ。

 私のバカ!


 イサークにこんな無理させて……。

 しかも、今日になるまで気付かなかったなんて。


 どうしよう……?

 船旅はまだまだ続くのに。

 寝不足状態が、この先もずっと続いたら、イサークの体に支障が出ちゃうに決まってる。


 何か……何かないのかな。

 イサークも休めて、私も危険を感じずにいられる方法って?



 必死に考えていると、ある案が、フッと頭に浮かんだ。


「そっか! これならイサークも寒くないし、眠ろうと思えば眠れるし……私も安心して眠れる!」


 我ながら、良い案を思いついた。

 私は大満足して、得意げに自分の思いつきを語った。


「ねえ! イサークも、夜は私の部屋で眠ればいいんだよ! ベッドはひとつしかないから、ソファを使ってもらうことになっちゃうけど……通路なんかと比べたら、断然マシでしょ? 一緒の部屋なら、ぐっすり眠っちゃったとしても、怪しい人が入って来た時点で、物音とか足音とかで気付くだろうし。――ねっ? 早速、今夜からそうして?」


 彼はポカンとした顔で、しばらくの間、私をまじまじと見つめていた。

 だけど、見る見るうちに顔色を変え、しまいには、鬼のような形相になって、私を怒鳴りつけた。


「っざけんなバカヤロウッ!! あんたいったい、何考えてんだッ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ