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豪華客船?

 この世界での『船』ってものが、どの程度の大きさなのか、港に着いてみるまで見当もつかなかったんだけど。

 目前に現れたそれは、あまりにも立派というか豪華というか。

 私の想像の範疇(はんちゅう)をかーるく超えて来て、正直、度肝を抜かれてしまった。


 豪華客船って言ったら、オーバー過ぎるかな?


 でも、数百人は収容出来るって話だったし、その他にも、船員さん数十人はいるってことだったし……。

 やっぱり、これはもう、豪華客船って言っちゃっても良い部類だと思う。


 陸での移動手段が、馬車や馬しかないはずのこの国で、まさか、ここまで規模の大きい船が存在してるなんて!

 意外過ぎて、本当に衝撃だった。


 そして、更に驚いたのが船内だ。


 私が案内された客室は、広さが十畳ちょいくらい。

 城の家具に比べたら、やや小さめではあったけど、立派なベッドも、ソファも、テーブルも、チェストも、ぜーんぶ揃っていた。

 その上、なんと、シャワー室まで完備されていると言う。


 船旅ってしたことないから、この船が、どの程度のランクに位置するものなのかは、わからないけど。

 予想以上に快適な船旅になりそうだと、確信出来るくらいに、部屋の設備は完璧に近いものだった。



「はぁ~……。すっごいなぁ~。船って、もっと小さいかと思ってたし、部屋だってきっと狭くて、設備もほとんどないんだろうなって、覚悟してたのに……。充分過ぎるくらい広くて、ホントにビックリしちゃった」


 室内をあちこち見回った後、私は思わず、感嘆の声を漏らした。

 すると、後ろから大きなため息が聞こえて来て、


「ここは、王族や貴族のために用意された、特別室だからな。これくらいは当然――……いや。王族が使用する部屋としては、これでもまだ、質素な方ではないか?」


 さして興味なさそうに、先生が説明してくれる。


「えっ、王族や貴族専用!?……じゃあ、もしかして……先生達が泊まる部屋は――」


「今回は、君の供――王室の関係者という扱いだからな。私にも、個室が用意されているはずだが……。一般人の客室は、ここよりかなり狭いだろう。数名が一室に寝泊まりする大部屋――三等、四等客室などは、更に質素なはずだ。聞くところによると、四等客室などは、ベッドも、他の家具もひとつもない、ガランとした倉庫のような大部屋が、三室ほどあるだけだそうだ。その一室に、十数人ほどの人間が割り当てられ、船から提供されるのは、薄っぺらい寝具一式だけ。どうにか横になれるほどの空間しか、個人は確保出来ないらしい」


「ええっ!? そーなんですか!?」



 こんなとこでも、『身分の差』ってものが、そんなに大きく……。

 王族は特別待遇ってだけで、その他の人達は、もっと不便なところに泊まってるんだ……?



 一気に沈み込んでしまった私に気付いたのか、先生は、再び大きなため息をついた。

 叱られるのかと思ったけど、意外にも、私の頭をクシャッと撫でて。


「君が落ち込んだところで、どうにもなりはしないだろう。君が庶民に同情することで、彼ら全ての待遇を変えられるというのなら、止めはしない。いくらでも同情するがいい。――だが、何も変えられないのが、今の君の現実なのだから、気にするだけ無駄というものだ。だいたい、その程度のことでうな垂れているようでは、先が思いやられるぞ。蘇芳国では、もっと過酷な現実を、目にすることになるやもしれんのだからな」


「えっ? それってどーゆーことですか? 『蘇芳国では、もっと過酷な現実を』って、いったい……?」


「まあ、蘇芳国には、私も初めて行くのだからな。どのようなところなのかは、実際に行って見てみるまでは、何とも言えんが……。とにかく、どうにもなりはしない問題で、いちいち落ち込むのはやめたまえ。私は忙しいんだ。くだらないことで、わずらわせないでほしいものだな」


「……先生……」



 ――もう!

 頭撫でてくれりしたから、一瞬、『慰めてくれてるのかな?』って、期待しちゃったじゃない。

 まぎらわしいなぁ、ホントにまったくこの人は!

 


 ……なーんて。

 ちょこっとだけ、ムッとしちゃったりもしたけど。


 今のでも、たぶん……先生としては、精一杯フォローしてくれたつもりなんだろう。

 言葉のチョイスが、いつもなんとなーく、ミスってるだけで。



 先生の不器用な優しさにも、だいぶ慣れて来たとは思うんだけど……。

 もうちょっと自然に、優しい言葉なんか掛けてくれちゃったりしたら、私も素直に喜べるのになぁ。



「うん……でも、そーですよね。私が落ち込んでたって、今はまだ、どーにもならない問題ですもんね……。これからは、なるべく気にしないように努力します。せっかくの船旅――人生初の船旅なんですから、思いっきり楽しまなきゃ損ですよね!」


 私の出した答えに、先生も納得してくれたようで。

 微かに笑みを浮かべ、腕組みしつつもうなずいてくれた。


「そうだ。それでいい。よけいなことは、まだ考える必要はない。今、君に必要なことは、知識の吸収。そして、この世界に対する理解を深めることだ。……が、蘇芳国に着いたら、私も己の研究や調査、様々な収集などに、掛かりきりになるだろうからな。君に学問を教えてやれるのは、船上でだけ、ということになる。その代わり、みっちり仕込んでやるから、覚悟しておきたまえ」


 さらっと告げられた言葉に、私は内心『げっ!』となり。

 思わず、不満げな声を上げてしまった。

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