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お供の選定

 蘇芳国に行くと、決めたまではよかったんだけど、それからが大変だった。


 長期の旅支度に、お供の選定、蘇芳国についての、最低限の知識も詰め込まなきゃいけなかったし。

 それからの毎日は、息つく暇もないくらい忙しかった。


 どうして、そこまで急がなきゃいけなかったかと言うと。

 神結儀が、三ヶ月後に迫っていたからだ。


 蘇芳国は、あっちの世界の日本と同じく、四方を海で囲まれた、とても小さな島国。

 交通手段は船しかなく、天候や時季なんかで、誤差が生じることはあるけど。どんなに短く見積もっても、着くまでには一ヶ月以上掛かるって話だったから、のんびりしてはいられなかったのだ。


 でも、雪緋さんにそれを告げられた時、私は一瞬、耳を疑った。



 一ヶ月?

 一ヶ月以上も、海の上にいなきゃいけないの?

 船にだって乗ったことないってーのに(遊覧船くらいはあるけど)、いきなり一ヶ月も船の旅とかって……。


 うわー、どーしよ。全然想像もつかないよ。


 想像もつかない――けど、そうしなきゃたどり着けないのなら、受け入れるしかないもんね。


 『船酔いしないかな?』とか、『退屈しちゃいそうだな』とか、気になることはたくさんある。でも、まあ……なんとかなるでしょ。



 そうやって、自分を納得させた後に待っていたのは、お供の選定だったんだけど……。



「え? 選定も何も、私のお供は、セバスチャンとシリルに決まってるじゃない」


 今更、何言ってるんだろう?

 キョトンとする私を、セバスチャンは悲しげに見返して、ションボリとうつむいた。


「はあ。姫様にそうおっしゃっていただけますのは、大変光栄なことではございますが……。それは、不可能なのでございます」


「不可能? 不可能ってどーゆーこと? まさかセバスチャン……一緒に行ってくれないの?」


 当然、『何をおっしゃいます! 姫様のお供は、この私めに決まっておるではございませんか!』って、いつもの調子で返してくれると思ってた。

 なのに、その期待は見事に裏切られる。


「お供したいのは山々なのですが……。私は――いえ、私共、『神の恩恵を受けし者』は、国外へ出てはいけない決まりがございまして」


 ますます悲しそうに、頭を垂れるセバスチャンに、私は思いきり困惑した。


「出てはいけない? この国から出ちゃいけないって、そんな決まりがあるの?……どーして? 誰がそんなこと決めたの?」


「いいえ、誰がというわけではなく……。(いにしえ)より、『神の恩恵を受けし者』は、生まれ出でし国から、外へは出てはならぬと、定められておるのです。これは、何百年も昔からの、私達と人との間で交わされた、約束事なのでございます」


「約束事? 何百年も前から?」


「はい」


「そんな……。そんな話、今初めて聞いたよ。生まれた国から出ちゃいけないなんて、なんでそんな決まりがあるの?」


「何故なのかは、私も存じません。……ウォルフ様ほどのお方ならば、ご存じなのかも知れませんが」


「ウォルフさん? どーしてウォルフさんならわか――っ」



 そーだ! ウォルフさんで思い出した!


 『神の恩恵を受けし者』は、国外に出ちゃいけないなら……ウォルフさんは?

 ウォルフさんは、国外に出てたじゃない! 隣国のルドウィンから、このザックスに、ギルの使いとして来てたじゃない!



 私がそのことを指摘すると、セバスチャンはこくりとうなずいて、


「はい。君主や、君主に相当するお方からの命があった場合のみ、国外へ出ることが許されておるのです。ウォルフ様は、ルドウィンの次期国王候補であらせられます、ギルフォード様の命を受けて参られたのですから、問題はないのです」


「君主や、それに相当する人って……。なーんだ。それじゃ簡単じゃない。お父様に命じてもらえばいいんでしょ? 『リアの供として、蘇芳国へ行け』って?」


「はあ……。ですが、その……陛下からは、『おまえは、この国での仕事があるだろう。リアの供は、今回は他の者に任せよ。誰を連れて行くかは、リアとおまえで決めればよい』と、申し渡されておりまして……」


「ええっ、お父様が!? お父様が、セバスチャンに行くなって言ったの? 私の供はしなくていいから、国に残って仕事しろって?」


「はい。その通りでございます」



 嘘……。

 お父様が、どーしてそんなこと……?


 この国での仕事があるからって、行ったことのない国に――船で一ヶ月以上掛かる国に行くってゆーのに、セバスチャンがいてくれないなんて。


 ……ヤダな。

 なんだか、急に心細くなって来ちゃった。



「そ、か……。お父様に言われちゃったら、仕方ないよね……。セバスチャンが一緒じゃないなんて、寂しいけど……。あっ! じゃあ、シリルは? シリルは大丈夫だよね? 彼は私の護衛なんだもの。一緒に来てくれるよね?」


 セバスチャンが来てくれなくても、シリルさえいてくれるなら……。

 そう思い直した私に、またもや、信じられない事実が突きつけられた。


「それが、そのぅ……。シリル自身は、お供したいと申しておるのですが……。シリルの家、アウデンリート家からは、『一ヶ月もの船旅に加え、異国という慣れぬ場所での警護など、シリルのような若輩者には、荷が重過ぎる』と……。『誠に恐れながら、今回だけは辞退申し上げたい』とのことでございまして」


「ええっ!?……じゃあ、シリルもダメってこと?」


「はい。恐らく……」


 申し訳なさそうにうつむくセバスチャンを、私は呆然と見つめていた。

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