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波乱の武術大会

 人騒がせなセバスチャンは大事を取って城に残し、私と先生は馬車で闘技場に向かっていた。


 武術大会には少しも興味のない(らしい)先生に同行してもらうのは、少し気が引けたけど。

 以前、蘇芳国の森で迷子になったことのある私が、


「闘技場には馬車が連れてってくれるんですから、迷いようがありませんし。一人でも何の問題もありません! 大丈夫です!」


 なんて自信満々に言い切っても、信用できなかったらしい。


「馬車では闘技場の門前までしか行けまい? 闘技場の内部も迷うようなところではないが……君のことだ、そのようなところでも迷う可能性は充分ある。君には、最後に〝勝者の頭上に草冠を載せる〟という役割があるのだろう? 迷っていて間に合わなかったとあっては、武術大会とやらがどれだけ盛り上がっていようとも、台無しになってしまうではないか。……仕方あるまい。不本意だが、私も同行しよう」


 先生はそう主張して、渋々ながら着いてきてくれることになった。



 でも、渋々だろうと何だろうと、結局は心配して着いてきてくれるんだもの。

 やっぱり先生は、面倒見が良い人なんだよね。



 不機嫌そうに足を組んで座っている、前の席の先生を窺いながら、私は気付かれないようにフッと笑みをこぼした。



***************



 闘技場には、思ったより早く到着した。


 馬車から降りた先生は、私に『着いてきなさい』とだけ伝え、スタスタと歩いていってしまう。

 私も慌てて馬車を降り、足早に先生の後を追ったんだけど――。


 初めてきた場所だから、なんだかワクワクしてしまって。

 全てが珍しく思えて、私はキョロキョロしながら歩いていた。


 すると、途中で立ち止まった先生に『よそ見をせずに着いてきたまえ!』と注意されてしまった。

 とたん、ワクワクした気分が一気にシュンとなって、私は小声で謝った。



 しばらくは無言のまま、大人しく先生の後ろを歩いていた。

 先生はあるドアの前で立ち止まり、こちらをくるりと振り返った。


「王族専用の観覧席は、この扉の向こうだ。その両脇が貴族専用。その他は自由席となる」


「えっ、王族専用?……じゃあ、先生は……?」


 一緒に観覧できないのかと、ガッカリしそうになったけど、


「王族専用ではあるが、王族から許しを得た者であれば入れることになっている。……私にもお許しをいただけるかね?」


 真顔で先生に訊ねられ、私は『もちろんです! 一緒にいてください!』と即座にうなずいた。

 先生は微かに口元をほころばせて、『では、君が先に入りたまえ』と言ってドアを開ける。


 ――瞬間。

 聞こえてきたのは割れんばかりの歓声。

 想像以上の盛り上がりっぷりに、私はビクッとなって身を縮めた。


 恐る恐る室内に入ると、中央の席にお父様が座っていた。

 その横には、お師匠様。そしてその横には、小さく小さく背中を丸めているシリル。

 イサークは……と見回した私の目に、壁に寄りかかるようにして立っている彼の姿が映った。


 よかった、イサークもお父様にお許しいただけたんだ……とホッとしていると、


「遅かったな、姫さん。爺さんは無事だったのかよ?」


 イサークは難しい顔で腕を組み、私に訊ねた。


「あ、うん。心配してたほどのことじゃなかったみたい。あのね、セバスチャンったら――」


「無事だったならそれでいい。……んなことより、見ろよ。あんたの大事なカイルってヤツぁ、今、大変なことになってるぜ」


「え? 大変なこと……って、まさか――!?」


 ヒヤッとして、闘技場の中心に目を向ける。カイルが負けそうになっているのかと、怖くなってしまったからだ。


 ……でも、目の前に広がる光景で真っ先に引っかかったのは、劣勢のカイル――……ではなかった。

 私が心底驚いたのは、カイルが負けそうになっていたからではなく――彼の対戦相手が、見知った顔だったからだ。


「ど……どういうこと……? どうして……どうして()()が、カイルの対戦相手なの……?」



 ――そう。

 私が思わず目を疑ってしまったのは、剣を片手にしたギルが――隣国の第一王子であるギルフォードが、カイルと対峙していたから。

 膝をつくカイルの眼前に、剣を突きつけていたから……。



「ね、ねえ! あれ、どうなってるの!? なんでギルが……隣国の王子が、武術大会に出場してるの!? 武術大会って、この国の人だけが出場できるんじゃないの!?」


 事情がさっぱりわからず、イサークの腕をつかんで揺さぶる。

 彼は面倒くさそうにチッと舌打ちしてから、私の腕を強引に引き離した。


「普通はできねーよ! あいつ――あの王子は、客人として招待されてただけなんだ。出場資格なんざあるワケねーだろ。武術大会の決着だって、とっくについてる。勝ったのはあんたの好きなヤツだ」


「えっ? 決着がついてるって……武術大会、終わっちゃったの? おまけにカイルが優勝した――!?」


「ああ。あのカイルってヤツ、やたら動きが速くて、目で追うのもやっとって感じだったぜ。どの試合も一瞬のうちに終わっちまった。剣部門での優勝者はカイルってヤツで間違いねえ。ただ……」


「……ただ? ただって何? いったい何があったのっ?」


 興奮して詰め寄る私を手で制し、イサークは説明しようとしてくれていたみたいだったけど、その前に、


「優勝者が決まった瞬間、観客席から何者かが叫んだんじゃよ。その者の優勝は認められない、その男は優勝と引き換えにグレンジャー家を乗っ取り、姫様をもたぶらかして、次期国王の座を狙っている――とな」


 いつの間にか席から立ち上がったお師匠様が、私たちの方を向き、何があったかを教えてくれた。


「そ……そんな……。カイルは次期国王の座なんて狙ってないっ!!」


 誰がそんなひどいことをと、怒りで体が燃え上がるように熱くなる。

 すると、今度はお父様がゆっくりと立ち上がり、私たちの方へ体を向けた。


「わかっているよ、リア。ここにいる全ての者は、カイルがそのような男ではないことをすでに知っている。だが……この国の民には、まだそれが伝わっていない。私たちがいくら『彼はそんな男ではない』と説明したところで、簡単には納得するまい」


「お父様――!……じゃあ、どうすればいいんですか? どうすれば、国民の皆さんに彼のことを認めてもらえるんですか?」


「それは私にもわからぬ。だが……それを今、知らしめようとしているのが……ギルフォードなのではないかと思うのだ」


「えっ?……ギルが? ギルがどうして……?」


 言葉の意味するところがとっさにくみ取れず、私は不安に飲み込まれそうになりながら、じっとお父様を見返した。

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