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診断結果は……

 お医者さんがセバスチャンを診てくれている間、私は彼の部屋の前で突っ立っていた。

 だってここにいれば、診察後すぐ、容態を聞くことができるもの。


 先生には、


「診察がいつ終わるかもわからないんだ。こんなところで、ずっと立っていても仕方あるまい。自室で待っていればいいではないか」


 と呆れられ、注意を受けてしまったけど。

 私は『いいんです。ここで待ちます』と言い張り、ドアの前から動かなかった。


 先生はさらに呆れた顔をして、


「では好きにしたまえ。私は医師に詳しい話を聞いてくるとしよう」


 と言って、部屋の中に入っていってしまった。


 それを見て、『え? 診察中なのに入っていいの? だったら私も……』なんて、チラッと思いはしたものの。

 お医者さんの気を散らせて、誤診でもされたら大変だし……ってことで、入室するのはどうにか我慢した。



 武術大会は、とっくに始まってしまっている時間だ。

 それでも私には、セバスチャンの容態がわからないまま闘技場に向かうなんて、どうしてもできなかった。



 だから結局、武術大会にはイサークとシリルに行ってもらうことになった。

 お父様やお師匠様、そしてカイルに、事情を説明する必要があったからだ。



 カイルの試合は全て観たかったし、結果だってすごく気になるけど……。

 倒れたセバスチャンを放っておいてノンキに武術大会観戦なんて、できるわけがないもの。


 だって彼は、私の大切な爺やなんだから。

 たった一人しかいない、私の――私だけの爺やなんだから!



(お願い、神様。セバスチャンを守って――!)


 私は両手を胸の前で組み合わせ、ひたすらセバスチャンの無事を祈った。






 ――数分後。


 一心に祈り続けていた私は誰かに肩を叩かれ、ハッとして顔を上げた。

 眼前には、複雑な表情をした先生が立っていて、


「診察は終わった。医師の言うことには……」


 そこで言葉を切り、続きを言うべきか迷っているように片手をあごに当てる。


「何ですか先生っ?……私、大丈夫ですから! 覚悟はできてますから、ハッキリ言ってください! セバスチャン……何か悪い病気にかかって……るん、です……か?」



 覚悟はできてる――なんて、思わず言ってしまったけど。

 やっぱり怖くて、私は胸元で組み合わせた手を強く握り締めた。


 すると、先生は複雑な表情のままゆるゆると首を振り、片手で額を押さえて大きなため息をつく。


「いや……。私の口からは、とても……」


「ええっ!? 先生の口からは言えないって……それ……どういう意味ですか?」


 先生が口を濁すなんて、よほどのことに違いない。

 私はますます怖くなって、泣きそうになりながら先生を仰ぎ見る。


「……君が一心不乱に祈っている間に、医師はとっくに帰ってしまった。病人……は、すでに目覚めているから……直接、訊ねてみるがよかろう」


 先生は片手で顔を覆い、もう片方の手でセバスチャンの部屋を指し示す。

 目を合わせようとしない先生に、不安は募るばかりだったけど――私は意を決してドアノブをつかみ、室内に入った。


「……セバスチャン……?」


 呼びかけながら、彼のベッドへとゆっくり近付く。

 セバスチャンはベッドに横たわり、心なしか心細そうな顔で天井を見つめていた。


「あの……セバスチャン? まだ具合悪い……?」


 もう一度呼びかけると、彼はそこで初めて私に気付いたように両目をパチパチさせた。そして背中にバネでもつけてるのかと思う勢いで体を起こす。


「ひ、姫様!……も……申し訳ございません。このような醜態をさらしてしまうなど、お恥ずかしい限りです……」


 ションボリと肩を落とすセバスチャンに、私は慌てて駆け寄った。


「ダメだよセバスチャン! 倒れたばかりなんだから、ムリしないで!」


「い、いえ、ですが……」


「ほらっ、まだ寝ててっ? 具合が悪い時は、ちゃんと言ってくれなきゃ困るんだからね? セバスチャンが元気でいてくれないと、私……」


 言葉に詰まったとたん、涙がポロリとこぼれ落ちた。


「姫様! 何ゆえにそのような……。こんな老いぼれのためになど、もったいのうございます」


 オロオロした様子で、セバスチャンが私の顔をそっと覗き込む。

 私は涙をぬぐいながら、


「もったいなくなんかないよ! セバスチャンだから心配するんじゃない! 私の大切なセバスチャンだから……こうして、涙が出ちゃうんだよ?」


「ひ、ひひひ姫様……!」


 感動したように、セバスチャンの目も見る間に潤みだす。


「ありがたき幸せにございます、姫様。私めのことをそれほどまでに……」


 うるうるした目元を翼で覆った後、再び私をじっと見つめると、首を大きく傾けた。


「ですが……いささか大げさすぎやしませんかな? 食事制限のし過ぎで目が回り、倒れただけに過ぎませんのに……」


「そんなことないよ! 食事制限のし過ぎで目が回るなんて、心配するに決ま――っ」



 …………ん?


 ショクジセイゲン……ノ、シスギ……?



「えええッ!? しょっ、食事制限のし過ぎぃいいいいッ!?」


「は……はい。誠にお恥ずかしい限りで……」


 そう言うと、セバスチャンは両翼で顔全体を覆った。

 私は呆然と彼を見つめ、しばし脱力した後、


「もう……もう……っ。……もぉおおーっ、セバスチャンのバぁカぁああーーー!! 心配したんだからぁああああーーーーー!!」


 思いっきり彼に抱きついて、安堵の涙を流した。

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