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武術大会前の下準備

 カイルと話をしたら、私はまっすぐマティアスさんのもとに向かうつもりだった。

 でも、カイルがマティアスさんのお屋敷でお世話になることがわかったから、予定は取りやめることにした。



 だって、マティアスさんには〝武術大会で優勝するためには、どんな稽古をしたらいいか〟や、〝毎日どんなものを食べているのか〟など。カイルの役に立てそうな情報を訊ねるつもりだったんだもの。


 マティアスさんのお屋敷にお世話になるんなら、直接、カイルが訊けばいいだけの話だし。

 私が訊かなきゃいけないことなんて、特にないだろうと思ったから。




 私はカイルと名残を惜しんだ後、セバスチャンと共に森の城に戻った。

 そしてその日から、武術大会のことを調べまくり、いろいろな人に訊ね回って情報を仕入れた。


 ……とは言っても。

 私のしていることが、本当にカイルにとって役立つことなのかはわからない。

 それでも、何もしないよりはマシだろうと自分に言い聞かせ、情報を仕入れるたびに、カイルに手紙で知らせた。



 彼に知らせた情報の中で、これは役に立ってるよね? と思えるものをいくつか挙げるとすると。


 まずは、グレンジャー師匠に教えてもらったこと。


 武術大会に何年も連続して出場している常連さんの名前や、出場しそうな人の名前。

 あと、その人たちはどんなことを得意としているか、弱点の有無、どこを攻撃すれば勝てそうかなど。



 先生からは、歴史上の有名な剣士たちの名前や、その人たちはどうやって戦ったか、書き残されている(または、言い伝えられている)得意技や奥義などはあったか。



 あと、武術大会は基本的に剣には剣、槍には槍、弓には弓――というように、同じ武器同士を組ませて試合をさせるそうなんだけど。

 たまに、組ませる相手がいない(その武器を使用する人が他にいない)場合があって。

 その時は異種格闘技っぽく(たとえば長剣と、ナイフやダガーみたいな短剣で)、異なる武器同士で戦わせることもあるんだって。


 過去にあったそれらの試合方法や勝敗の結果なども、武術大会について書かれた本に載っていたから、一応カイルへの手紙に書いておいた。



 そしてこれは、ナイフやダガーみたいな短剣――って本に記されているのを見て、思い出したんだけど。

 確か、イサークがギルを襲った時に使用した武器もナイフだったな……と、その時どういう風に戦ったのか、改めて訊きにいったりもした。


 だけどそれは、イサークに〝ギルに負けた時の記憶〟を思い出してもらうことにもなるから、最初はすごく嫌な顔をされたけど。

 彼の騎士になるための試験も、できるだけ早く開催してくれるよう、お師匠様に頼んであげる――って条件で、嫌々ながらも教えてもらえた。



 あとはまあ、体作りに必要な食材や、健康を維持するための食事内容、その他の細々としたことまで。

 思いつく限りのことを手紙にしたためては、カイルに送って――ということを繰り返し、日々は確実に過ぎていった。



 その間、一度もカイルに会えなかったのかというと……実はそうでもなくて。


 数ヶ月に一度、本城を訪ねる機会があったから、事前に手紙で約束していた場所で、こっそり会ったりはしていた。


 ……べつに、コソコソする必要はないのかもしれないけど。

 以前、先生に『バカなことをしでかす前に手を打つ』とかなんとか言われてしまった手前、堂々と会うのも気が引けてしまって……。



 ――って言っても、隠れてコソコソと『バカなこと』をしてたわけじゃないけど!

 せいぜい抱き締め合ったり、キスしたりとかしただけで。それ以上のことは断じてしてないけども!



 それでもやっぱり、いつもどこかで、先生が目を光らせてるような気がしちゃって。

 どうしても、人目のあるところで会う気にはなれなかったんだ……。




 そんな日々を送っている中、ついに武術大会開催日の知らせが、私のもとにも届けられた。


 いよいよ本番かと思うと、苦しいほど胸が高鳴った。

 私が集めた情報は、本当にカイルの役に立っているのだろうかと、不安にも駆られるけど……。



 でも、前にいた世界でも〝情報を制するものは戦いを制す〟っぽいこと、言われてたような気がするし!

 スポーツの試合でも、対戦相手の情報を入手して、いろいろ研究したり分析したりは普通に行われてることだし……。


 事前に対戦相手になるかもしれない人たちの情報入手して、あれこれ対策を練ることは、悪いことじゃないよね?

 フェアじゃないって、非難されるようなことじゃない……よね?



 ――うん、そうよ! 情報を仕入れて提供することは、当たり前のこと。

 今回参加する予定の人の情報を伝えることができただけでも、少しは彼の役に立ってるって信じよう!



 とにかく、この大会で優勝することができれば、カイルはお師匠様の養子として認めてもらうことができる。

 反対してるごく一部の一族の人たちにだって、正式に認めてもらえるんだ。


 武術大会での優勝という条件は、彼らが言い出したことなんだから……もう、誰にも文句なんか言わせない!

 身分の差を気にする必要さえなくなれば、私たちは堂々と婚約――結婚だってできるんだから!



 当日は観客席から、力いっぱいカイルを応援しよう。

 今までは、裏方での協力しかできなかったから……。

 心置きなく、最後まで彼の活躍を見守って、精一杯の声援を送ろう。



 一国の姫としては、本当は誰か一人を応援するなんて、しちゃいけないことなんだろうけど……。

 今回だけは大目に見てもらうことにして、人目なんか気にせず応援するんだ。


 そして彼が優勝したら、私の役目である〝勝者の頭に草冠を載せて〟、心から祝福する。



 もう隠れる必要なんてない。

 私たちの強い想いは、きっと彼を勝利へと導いてくれる。



 ねえ、そうでしょう神様?

 今は桜さんのいる世界で楽しい毎日を送れてるに違いない、小さな子供の姿をした可愛い神様――。


 今は遠くにいるとしても……どうか見守っていて。

 私たちの未来が明るく輝くものになるように……。



 部屋の窓から美しい星空を見上げ、私は遠い世界にいるはずの神様に、そっと祈りを捧げた。

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