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想定外の出迎え

 本城は、私がいる森の城以上に立派で、敷地もかなり広大だった。

 外観は、森の城がドイツの古城っぽいとするなら、こっちは、そーだなぁ……フランスのベルサイユ宮殿ってところかな?

 あの宮殿から、キラキラした豪華絢爛(ごうかけんらん)さを、ちょこっとだけ取っ払って、重厚な雰囲気にしたよーな感じ?


 ……う、う~ん……。ダメだ。

 建築関連は全く詳しくないから、うまく説明出来ないや。


 えっと、とにかく……そこまで派手じゃないけど、めちゃくちゃキレイなお城!

 ――ってことでいいでしょ。うん。



 門をくぐると、手入れが行き届いていそうな美しい庭園が姿を現した。

 真ん中の道をまっすぐ進んで進んで、数分ほど行ったところで、ようやく城の入り口にたどり着く、といった感じ。


 馬車から降り立った私を、最初に迎えてくれたのは、道の両脇にずららららーーーっと整列したメイドさん達や、執事っぽい服装の人達。

 その先には、騎士見習いさん達とは、やっぱりどこか違って見える、王専属の騎士さん十数名(一応、『アルベリヒ騎士団』とかって呼ばれているらしい。名前の由来は知らない)の姿が見えた。


 ものすごい行列に、完全に圧倒されてしまったらしい。私の足は、その場に根を張ってしまったかのように、動かなくなった。



 ……な、なんなのこの、無駄に長い行列は!?

 私を出迎えるため……って言ったって、ここまで大袈裟なことする必要が、いったいどこにあるってゆーのっ!?



「姫様、いかがなさいました? 前にお進みくださいませ」


 後ろから、セバスチャンの急かす声が聞こえる。

 私はごくんとツバを飲み込み、ブルブルと大きく首を振った。


「むっ、無理っ! ムリムリムリムリっ! だって、こんなの聞ーてないもんっ! ここまで大袈裟なお出迎えされるなんて、ひとっ言も聞ーてなかったもん!!」


「大袈裟ですと? 何をおっしゃいます、姫様。長年、本城を留守にしていらした姫様が、ようやく、こうして戻られたのですから。皆、喜んでおるのですよ」


「も、戻られたって……。私はただ、用事があるからって理由で、呼ばれただけでしょ? すぐにまた、向こうの城に戻るのに……。ここまで歓迎されちゃったら、なんだか――」


「お帰りなさいませ、リナリア姫殿下! 我ら一同、姫殿下のお出ましを、心より、お待ち申しておりました!」


「――っ!…………え?」


 両側から聞こえて来た、大合唱の圧倒的迫力に、私は完全に呑まれてしまい、しばし声を失った。

 すると、道の向こう側から、アルベリヒ騎士団の代表と思われる人が、カッカッと小気味良い靴音を立てて近付いて来た。


 その人は、後ろにバラでも背負ってるんじゃないか? と思えるくらい華やかで、ひと際整った顔立ちをしていた。

 長髪の巻き毛で、髪色ははしばみ色。瞳の色は濃いめの水色だ。

 彼は、私の前で片膝をつき、私の右手を両手で取ると、


「リナリア姫殿下。お会い出来る日を、心待ちにしておりました。私は、アルベリヒ騎士団の指揮官。名を、マティアス・ウールク・シュターミッツと申します。どうか、マティアスとお呼びください」


 すらすらとそんな言葉を並べ立て、うやうやしく頭を垂れ――……たと思ったら。いきなり手の甲に顔を近付け、軽く唇を押し当てた。


「――っ!」


 私は心底驚いて、大きく目を見張った。


 騎士は、自分より身分の高い相手――貴族や王族相手には、習慣ってほどではないけれど、そういう挨拶をすることがある。

 そんな話を先生から聞いて、一応、知ってはいたんだけど……。


 でも、手の甲にキスだなんて、私にとっては初めてのことだったから。(カイルやギルとは、それ以上のキスはしちゃってるけど……。初対面の人にいきなり、というのは初だったから!)

 キスされたと同時に顔が熱くなり、私は、彼の手を払うように、右手を引いてしまった。


「……リナリア姫殿下?」


 キョトンとした顔で私を見上げる、えーっと……なんて名前だっけ?

 今ので、言われたこと全部飛んじゃったから、どーしても思い出せない。

 焦った私は、とっさに深々と頭を下げた。


「ごっ、ごめんなさいっ!……私、あの――っ、まだ、こーゆー挨拶されるの慣れてなくてっ、それで――っ」



 『思いっ切り、変に思われちゃっただろうな』とは思いつつ。

 謝罪の言葉を続けようとした私を、


「なりません、姫殿下。姫殿下ともあろうお方が、そのようなお言葉をたやすく口になさっては。その上、身分が下の者に、こうして頭を下げられるなど、もっての外でございます」


 そう言って、彼は毅然(きぜん)とした態度で諭して来た。

 驚いた私は、ちぢんでいたバネが跳ね上がるみたいにして、勢いよく上体を起こした。


「えっ?……あ……あの……?」


 戸惑いの中、彼を見返す。

 彼もまた、私をまっすぐに見据えていた。


「私のような身分の低い者に、たやすく頭をお垂れになるなど。姫殿下のなさることとは、とうてい思えません。第一、美しくない」


「……は?……え?……う、美しく……ない?」


 こういう場面で、『美しくない』なんて言われるとは、予想もしていなかったから。

 私は何度も目をぱちくりさせた後、思いきり首をかしげた。

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